第84話 第三章中編 稲守任三郎一行と養老宿泊施設
ダンジョン内で収集した物を提出しに、施設内の専用の窓口へと向かう3人。
今回の成果物は、シャドウズの情報、夜の時間、朝の時間、そして乾燥させておいたキノコや山菜。バケツに入った魚と、大量死していた虫型らしきモンスターの残骸だ。
「稲守様、笹山様、高須様の成果を確認致しました。稲守様はすでに今月の評価を超過していますので、問題ありません。笹山様、高須様、両名は目標の7割程となります。明日以降もダンジョンに入りますか?」
「明日から飯岡ダンジョンに行く予定なんだ。成果物はゴーレムコアになると思う」
「承知致しました。現在計算システムがメンテナンス中のため、目標までの成果量は明日以降のご報告になります。申し訳ございません」
「わかりました。何かありましたら連絡します」
窓口を離れ、宿泊施設へと向かう3人。
笹山と高須はどうせだからと同室になり、稲守だけが1人部屋となった。
荷物を整理したり端末で報告書を書く稲守は、一区切りついたころに風呂でも行こうかと考えていた矢先、端末が鳴動、電話がかかってきた。
端末には刈谷の2文字が表示されていた。
養老ダンジョン前の宿泊施設裏手、訓練場の一角では、黒い白衣に身を包んだ刈谷と、武者鎧の様に見えるロボットが刀に手をかけ、丸太の前にいる。
「トト、調子はどうだ?」
食堂から帰った刈谷が声をかけると同時に、ロボットが一歩踏み込み、水平に刀を丸太に向けて振り抜き鞘へと戻す。
「おかえりなさいマスター。問題ありません。丸太もご覧のように動かさずに切る事が出来ました。この天照は最高の刀です。お師匠様にお礼を言わねば」
丸太に近づき、両手で丸太を持ち上げると半分から上が持ちあがり、下は地面に置かれたままだ。
トトが腰に差している方は、銘を天照、刃紋は乱刃三本杉で赤みを帯びた刀身が照明の光を妖しく反射させる。
「東には礼を…ってそうだ、今稲守がここに来てるんだ。挨拶するか?」
「任三郎さんが?是非お会いしたいです。模擬戦もできればお願いしたいのですが…」
「とりあえず連絡してみる。お前はどうする?」
そう言うとトトは、我が子をあやすように刀の柄を撫でながら話し始める。
「この子の手入れをします。着きましたらお声がけください。彼の前で自分の得物が無様な姿をお見せしたくはありません」
トトの腹部から細い追加アームが伸び、刀を鞘から抜く。
自由になった両手で刀身を布巾で拭いたり、頭部側面にあるライトで、傷や欠けが無いかを確認していく。
「わかった。少し待ってろ。そうだ、確か稲守の後輩もいるんだが、お前の後輩でもあるし一緒に連れくるように聞いてみようか」
メンテナンスしている手を止めて刈谷を見つめる。
トトの頭部は目元がバイザーとなっており、LEDが目の形を象り症状を作り出すのだが、この時の目はまん丸でお月様のようだった。
「わたくしの後輩?それは本当ですか!?」
「嘘をついてどうする」
その後はわたくしが先輩、わたくしがお姉さまとぶつくさと言いながら刀の手入れを再開した。
(そういえば末っ子だったな)
トトを横目に端末から稲守を呼び出す。
『稲守ですが』
「刈谷だ、これから少し出れるか?」
『どうしました?』
「何、稲守がここに来てると言ったらトトが会いたいって言ってきてな」
『わかりました。それならせっかくだし挨拶がてら二人も連れて行きますね』
「あぁたのむ」
通話を切り、3人が来るまでの間、刈谷はトトのプログラムを確認する。
トトのAI中枢は、トト本人しか解析できず、刈谷でももう彼女を含めたロボット隊をシステム的に破壊する事はできず、破壊するには物理的に無効化しつつ、エンジン、駆動系統を破壊しなければならない。
(やはりトトもか…AIの人工知能プログラムにアクセスしても防御なのか、保護なのかはわからんが、俺が作ったコード部分しか読み取れない)
「どうされました?」
「ん?いや、ここの関節稼働時の出力をいじればもっと滑らかな動きになる気がしてな」
「どこですか?」
端末とにらめっこしながら、2人を待つ事数分、いつもの様に下地にスーツを着込み、ブーツに籠手を装備した稲守が、笹山と高須を連れて訓練場へとやってきた。
「刈谷さんすみません。二人を連れだすのに手間取って」
「だって詳しい事いわないんだもん」
「そうですよ。トトさん?が会いたいって言われても」
言い合いながら近づく3人の前にトトが武装した状態で近づく。
辺りは照明に照らされているが、兜に似た装飾に、昔の武士を思わせる甲冑デザインのボディ、そして漆黒の鞘を腰にさしたロボットがそこにいた。
他のロボットの様な人間を模した顔ではなく、バイザーに液晶があるのか目のような映像を映し出していた。
「お二人がわたくしの後輩さんですね。わたくしはトト、所属はロボット隊になります」
「やぁトト、元気かい?」
「任三郎さん、お久しぶりです。最近はどうですか?ダンジョンに入られていますか?」
稲守の腕を握り、見上げながら話すトトのバイザーに移る目がいつもと違うが、いつもを知らない上にそれどころではない笹山と高須の脳裏に衝撃が走る。
((任三郎さん!?))
現状自衛隊関係者で稲守の事を下の名前で呼んでいるのは、ハチ子とトトだけで、他はみな苗字呼びだ。
ハチ子の場合は、飯岡ダンジョンの第四層突破のために何回も何回も一緒に行った結果名前呼びとなったが、トトの場合は、初めから名前呼びかつ、稲守以外の前では任三郎殿と呼んでいる。
理由は謎だ。
「今日も入ってたよ。ってそうだ、俺に用があるんだろ?」
「そうでした。模擬戦をお願いできますか?見せたいものがあります」
「もしかしてその腰のか?」
「そうなんです!」
二人は周囲の事がまるで見えてないようだ。
見守る刈谷と、気が気でない笹山と高須が二人の動向を伺う。
「マスター、リングの設定を」
刈谷は端末を見ていたようで、声かけに気付くのに少し遅れた。
「ん?あぁ、寸止め1先でいいだろう。二人は俺と一緒に観戦だついてこい」
「「はーい」」
刈谷に連れられ離れる不服そうな二人と、訓練場に併設された模擬戦闘用リングに上がる二人。
「二人とも、カウントは3で開始、AIによる被弾判定か退場判定で1点先取終了だ。いいな?」
「「はい!「あぁ」」
戦闘用リングの備え付けられている端末を刈谷が操作すると、リング上部の三つのライトが点灯、AIによる自動音声が流れる。
【模擬戦、モード1被弾、1先、ダメージレベル5、カウントスリー、ツー、ワン、スタート!】
ビーと鳴り響くアラームと同時に稲守は魔法を行使して戦う準備をするのに対し、トトは左腰に刺さっている刀を直ぐに抜ける様に構えて待ちの体制だ。
「トト、絶対に避けろよ?君の身体を傷だらけにしたくはないが、負けたくもないんでな」
そう言うと稲守は腰のホルスターに収められたナイフを抜き魔法を行使する。
「纏、風、刃、風烈刀」
身体強化魔法に連動して伸びた刀身から吹き荒れる風が発生する。
「風刃閃斬」
続いて魔法を行使しつつナイフを横一文字に振った瞬間、線となった風の刃がトトへと飛来する。
風刃より速く、秒速60m/sの風刃に対して2倍の早さだ。
リングは近接訓練用に作られただけあって直線距離は15m程、放った魔法が届く時間は僅か0.2秒弱と人間の反射速度に近い速度だが、トトは反応してみせた。
刀を振り抜き切り上げると、風の刃が切り裂かれ、分かれた魔力の刃が訓練場の地面を切り裂き抉る。
迎撃するトトに対して稲守は風刃閃斬を連続で放つ。
魔法名も詠唱をせずにナイフを振るだけで発生する風の刃を、全て迎撃するトトはどうにかこの状況から抜け出せないかと考えていた。
高速で絶え間なく飛来する風の刃は回避が難しく、被弾する可能性が高い。
そのため迎撃せざるを得ないのだが、限界速度での動きについていくだけで精一杯だ。
「やはり容赦がありませんね」
状況に耐えかねたトトは、最も合間があるタイミングで飛び出し、ふくらはぎ、腰部にあるブースターを展開し間合いをつめる。
「今!」




