第77話 養老ダンジョン新人教導任務⑧
~続・笹山、高須side~
モンスターがバサバサと翼をはためかせ飛び上がり、空高く上昇する。
何をするのかと思う暇もなく、そのまま上昇速度を上げて空中を一回転、二人を目掛け急降下し始めた。
「やばいやばい!」
突撃してくるモンスターに対して、高須は慌てる事しかできない。
「連弾、土の槍、三重奏!」
笹山は、魔法を行使、土の槍をモンスターに向けて放つ。
槍としての形状が完成したものから打ち出され、3発の土の槍がモンスターへと飛来する。
笹山は土の槍を使った時から考えていた、魔法も銃みたいに連射できれば強いのではないかと。
資料や稲守の意見を参考に速射と連射を同時に行う、後に重奏魔法、連弾魔法と呼ばれるようになる新しい魔法を作り、成功させた上に練習もしていたのだ。
その精度は高く、さらには同時発射ではないため、敵に見切られにくく有用性が高い。
ドドドン!
「クルァ!?」
一発目、二発目は上昇、降下によって避けつつ攻撃をしかけようとするも、三発目は避けられず腹部に被弾、衝撃で降下態勢が解かれ、二人からは大きく逸れて大きな音を立てながら木へ激突する。
ドーン!
しかし木は傷一つ付かずモンスターを弾く。
弾かれたモンスターはというと、なんとか落下せず翼をはためかせ飛ぶことに成功、上昇しつつ距離をとって2人の様子を伺う。
笹山の魔法を警戒しているようだ。
「直ぐに稲守さん呼んで!」
「え?わ、わたしもたた…」
「無線持ってるの芽愛里でしょ!早く連絡!」
戦いもせず惚けてる暇があるならせめて助けを呼べと心の中で怒りながら、目の前にいるモンスターに向けて腕を砲身の様に伸ばし、魔法を行使する。
「連弾、土の槍、九重奏!」
先ほどの3倍、9発の土の槍がモンスターへと向かう。
モンスターは飛来する土の槍に対して、魔法を使ったのか、槍とモンスターの間に魔法陣を出現、同時に緑色の風がモンスターを守るように吹き荒れる。
「クールルル!」
土の槍が風に阻まれ、砕かれてしまうが元は土で出来ているからか、粉々に砕かれた土の槍が土煙となってモンスターと二人の間に煙幕の役割をする。
「芽愛里身体強化!逃げるよ!」
「え?あ、無線…」
「あーもう!、脚、強、身体強化弐式!」
初めて使う身体強化弐式によって軋む身体、重くなる全身を気合で振り切り、混乱している高須を胴体に抱き着き持ち上げる。
「ちゃんとつかまっててよね!」
身体強化よりも負荷が強く、体に負担がかかる。
体内に生まれた熱や圧力を感じつつも、なんとか身体を動かし、高須を抱えながら、木の根を走りながら降りる。
「クルゥ…」
モンスターは追いかけようとするが、余りにも早い動きに目を奪われるのと、このままだと間に合わないと思ったのか、上昇してその場を去っていった。
しかしモンスターが去っていった事には気づかず、一心不乱に走り降りる笹山。
「か、楓!あのモンスターどっかにいったよ!?止まってー!」
「止まらないのー!!!」
下り坂を駆け降りる笹山は転ばないようにするのに精一杯だ。
しかし、足場は木の幹、凹凸にあしをひっかけ躓いてしまう。
「やっば!」
「きゃー!!!」
体制を立て直そうとするも脚がもつれ木の幹から飛び出してしまう2人。
このままでは地面に激突する、そう思った二人は抱き着きあい、なんとか衝撃に備える。
「拡、風翔減墜改!」
地面に激突するまで後10mのところで、稲守が魔法を使ったと同時に、2人は風に包まれて、落下速度が緩やかになる。
これは落下速度を抑えるだけの魔法で、高く飛び過ぎた時に考えた魔法だ。
二人の体重を支えられるかは不明だったが、問題はなさそうだ。
「大丈夫か!?」
ゆっくりと地面に降りる2人に稲守が駆け寄る。
「もう何がなんだか…」
「やばかったー!死ぬかとおもったー!」
息を切らしながら、地面に大の字になる笹山と、落下する恐怖と、先ほどのモンスターの恐怖によって、訳が分からなくなる高須。
「とりあえず中に入ろう、立てるか?肩貸すぞ」
「わ、わたしは大丈夫です、でも楓が」
高須は魔法を行使しておらず、体力的にも問題は無い。
「無理!立てないー!」
一方の笹山は身体強化魔法による反動で体中が痛いのと、魔法の連続行使によって魔力残量が限界で起き上がるのもできない様子だ。
休んだとはいえ、魔力も全開ではない状況だ。
相当無理したのだろう。
「しゃーない、高須さん、先に中に入っててくれ、押戸は開けたままで頼む」
「え?、あ、はい」
そういうと稲守は笹山の近くに近づきしゃがみ込む。
「楓さん、掴まれるか?」
「が、がんばる」
笹山が起き上がるのを手伝い、背を向けて稲守の背に乗れるようにする。
「て、手伝います」
「あぁ、頼むよ」
じっと見ていられず、高須が笹山を起き上がらせ、稲守の背に乗せた後、押戸を開けに縄梯子を昇っていった。
(稲守さんの背中結構大きいかも)
言われた通りにぎゅっと腕に力を入れ、頑張ったかいがあったと思う笹山は言われた通り稲守にしがみつき落ちないようにする。
縄梯子を登り、なんとか基地に入った途端、緊張の糸が切れたのか笹山は安心したのか眠ってしまった。
「余程疲れたのだろう。ベッドに運ぶから手伝ってくれ」
「わかりました」
扉を開けたり、ベッドを綺麗にしたりして、笹山を寝かしつけ、稲守に休むように言われるが、少し話したい事があると伝えると、珈琲を飲まないかと誘われたのでキッチンの椅子に座る。
「どうぞ」
インスタントだが、粉ミルクの入ったインスタントコーヒーで少し苦めだ。
「ありがとうございます。…あの…」
「なんだい?」
珈琲を一口すすりつつ、ぽつぽつと話し始める。
「私、何もできなかったんです。大きなモンスターが出てきて、飛び上がって攻撃してきた時、私はなにもできなくて叫ぶしかできなかったんです」
空へ飛び上がるモンスターを見ても高須は何も思わなかった。
急降下してくる瞬間まで、あのモンスターが何をしているのかさえわからなかったのに、笹山は魔法を行使して、攻撃して、さらには身体強化魔法を使って私を担いで逃げてくれた。
正直情けなかった。
銃が無いと何もできない。
何も変わっていないただの女の子なのかと。
「でも、楓は…。魔法で攻撃して、モンスターの足止めをして、私を担いで逃げて…。何で私は何もできなかったのかって考えてて…」
珈琲を両手で持ち、震える手を温めながら稲守に話を続ける。




