第76話 養老ダンジョン新人教導任務⑦
それから打合せを済ませた3人は、調査する前に稲守の提案でいくつか魔法を覚える事になった。
「銃の弾薬には限りがあるし、二人にはいくつか攻撃用の魔法を使いこなしてもらう。銃は威力はあるが、弾が無くなったらただの棒切れだからね」
「攻撃魔法ですか?そういえばまだ覚えてないや」
「…そうだね」
楓は以前飯岡ダンジョンで稲守と加賀に教わっている。
さらには自作の魔法によって弾薬は魔力が切れるまで使えるが、何故か秘密にしている。
稲守が公開していない魔法があると言っていたので、それを真似ての事だ。
それに魔力消費量が少ないのなら弾薬を生成するより攻撃魔法の方が良い。
「森でよく使うのは、風と土だが、魔法には人それぞれ適正というのがあって、俺は色々使えるけど、基本的には近接系が得意で、中距離はまぁまぁ、遠距離はダメダメだ」
魔法には適正があり、人によっては遠距離魔法自体に適正が無い人も存在する。
稲守は近~中が得意だが、遠距離は使えず、最大魔法射程は25m程と、ショットガンの最大有効射程より短い。
「幸いこの木の根近くで魔法を使う分にはモンスターは寄ってこない。いくらでもって言ったらあれだけどある程度は練習できるよ。寄ってこない理由はちなみに不明だ」
何度かモンスターを引き連れてここに誘引した事もあるが、一定の距離になると急に興味が無くなったかのように止まり、その場で引き返してしまうのだ。
「攻撃魔法かー、確か風刃とか光弾とかは知ってます。使ったことないですけど」
「うちは試したけど風刃と光弾は無理だった。でも土の槍と氷は使えたかな」
「楓いつのまに…」
「なら高須さんには一通り、笹山さんは…」
土の槍と氷系の魔法をと言おうとした矢先に、笹山からストップが入る。
「まってください。あの、そろそろ名前で良くないですか?正直苗字でずっと呼ばれるのムズムズするんです」
「え、あ、わ、私は…苗字でも…」
「とにかく!うちの事は楓って呼んでください!」
最近の子はよくわからんと心の中で思う稲守。
そういえば女性を名前で呼ぶのは初めてかもしれないと後程気づくのだが、この時点では昨日の事もあって、本当に遠慮がなくなったのだなぁと思っただけだった。
「わ、分かった。じゃあ、高須さんにはさっきも言った通り、一通り魔法を使って、威力、射程、持続時間を調べて行こう。さ、か、楓さんは土の槍が使えたって事だけど、他のと比べてみようか」
「最初だし良しとします。魔法についてもわかりました」
笹山と言いかけたが、何とか持ち直したようだ。
「わ、わかりました」
突然の事で少し困惑する高須は笹山の事をじっと見つめていた。
~笹山、高須side~
「さて、今の二人ならアプリの初級後編と中級前編の魔法が使えるはずだ。攻撃魔法は10種類程度で、それを参考に自分で作ってもいいし、アレンジしてもいい。俺は周囲を警戒してるから何かあったら渡した無線機で呼んでくれ。あまり離れると使えないが、あの木の根までなら使える筈だ。俺は一旦基地に戻ってやる事あるからそれこそ中まで来てくれ」
「わかりました!」
「はーい」
二人は稲守から離れ、端末を開き詠唱を確認しつつ魔法の練習を始める。
「なにから使おうかな…」
アプリを見ている笹山に、高須が話しかける。
「ねぇ楓、なんであんなこと言ったの?」
「ん?」
「急に名前でーって」
「あー、うち、苗字で呼ばれるの嫌いなんだよね。前に芽愛里にも言ったじゃん?あとほら、うちの両親が失踪したーって話」
訓練中一緒になる事が多い二人は、ある程度自分達の事情を言いあっている。
笹山は、幼い頃に両親が失踪、親戚とも連絡が取れず施設に入った過去がある。
アルバイトをしながら、なんとか夜間学校を奨学金制度を利用して卒業、卒業後はバイト先の宿舎に住み込みで働いていたらしい。
施設から住民票を移そうと役所に行ったら調査員の判定を行っており、調査員学校に入学して今に至る。
「嫌いなんだこの苗字、あいつらと同じ血ってだけでも嫌なのにさ?だから苗字で呼ばれるのきついなぁって思ってて、我慢できずに言っちゃった。ま、稲守さんには名前で呼んでほしい感じはあったからそれもあるけど」
「少しわかるかも。親戚のおじさんとか、お兄ちゃんみたいな感じだもんね。あたしも言おうかなー名前でーって」
笹山に少し嫉妬する。
以前から少し羨ましいと思っていたところに、心の中で思っていた事をしてもらった笹山と比べ、自分は引っ込み思案だし、回りの事ばかり気にする自分に少し自己嫌悪する高須だった。
「そういえば何歳なんだろう」
「聞いたことないね」
年齢を予想したりしながら、二人は魔法を行使していく。
魔法自体は少ないため、直ぐに終わり、威力や射程距離を比較した結果、
笹山は土、氷が強く、雷が土や氷より弱いが、火より強く、風は遠くまで飛ばない事から、あまり使えないようだ。ただし近距離用の魔法はアプリには無いため、飽くまで遠距離魔法での話だ。
一方高須は火、水、土、風、氷、雷と現状使える属性全てが扱え、笹山の雷と同程度だが、土と氷は笹山には及ばない。
魔法の傾向が分かった二人は、その事を報告しに稲守を探すも近くには居らず、基地の中にも居ない為、無線機を使ってみる事にした。
『高須です。稲守さん何処にいますか?』
ザザっと音が入り、少し待つと無線機から声が聞こえてきた。
『今…ザザ…とりあ…にザッ…い…く…』
ノイズが多く、よく聞き取れない。
『なんですか?よく聞こえません!』
『ザッ…く…そこ…ぃ…れ…』
何度も声をかけるが、それ以降返事はなかった。
「ダメみたい」
「んー、根の周りなら大丈夫って言ってたし…そうだ、登ってみない?木の上」
「わかった。木の上なら電波届くかもって事?」
「そ」
「じゃあ行ってみよっか」
木は何本もの木が捻り合わさったような見た目をしており、登るのは簡単そうに見える。
念の為身体強化魔法を使い、無線機を度々チェックしつつ上を目指す。
道中何度かノイズ混じりに声が聞こえる事もあったが、相変わらず会話ができない。
20m程登った辺りでもう一度声をかける事にした。
『高須です。稲守さん聞こえますか?』
『聞こえるぞ。そっちは大丈夫か?』
『こっちは問題無いです。近くに居ませんけど、何かあったんですか?』
先ほどとは違い、クリアに聞こえる。
この無線機は特定省電力トランシーバーという部類に入り、無線到達距離はおよそ50m程で、影響するものや、壁や障害物があると距離は短くなってしまう。
『すまんすまん、木の反対側にいてな。あっちだと通信に影響があるのを知らなかったんだ。直ぐに戻るから中にいるか、根の近くには居てくれ。間違っても木の上に登るなんてするな?ある程度まで登ると大型の鳥型モンスターが来るから』
『え、あ、はい。わかり…』
黙っていればバレないだろう。そう思ってやり過ごそうとした瞬間、バサっと大きな音、強い風、そして大きな影によって視界が暗くなる。
「クルル?」
そこには、大きな翼に、獅子のような身体を持ったモンスターがいた。
頭部は鷲の様で、クリクリとした目と黄色い嘴がなんとも可愛げがある。
しかし、一目でわかるほどの大きさに焦る2人。
『い、稲守さん、その鳥型ってもしかしてクルルって鳴きます?大きな翼の』
『今すぐ逃げろ!』
「クルルゥ!」
モンスターは大きな声を上げ、翼をはためかす。
「「きゃあ!?」」




