第74話 養老ダンジョン新人教導任務⑤
「虫は何がいるんですか?」
「蜂?蜘蛛?」
「両方いるよ。もちろん地上、地球に存在するサイズの虫も多いけど、一番危険なのは、蜂型だ。大きさは30cm程で、巣は地中に作るのもいれば、木に作るのもいる。警告してくれるからすぐには 襲ってこない」
「「警告?」」
一行は小声で会話しながら歩く。
稲守が指を差し、あーてもこーでもないと説明をしながら、二人はときおりメモに残しつつ、辺りを警戒しようと目を配る。
こういうのは、誰かに教えられたり、授業で教わったり机の上でいくら勉強してもやってみないと経験にすらならない事だ。
「蜂はね。巣に近づく相手に顎を鳴らして警告するんだ。近づくなーって。それを無視して近づくと襲ってくる。刺されると痺れて動けなくなって無防備になる。その間に巣に持ち運ばれて食べられる運命が待ってる」
周囲を探索しながら、モンスターの気配を探りながらひたすら歩く。
二人は質問等は休憩の時にすると考えているのか、道中は稲守の言う事を一言も漏らさないように交代してメモしながらついていく。
ふと、笹山は気になった事があり、尋ねてみる事にした。
「稲守さん、ここってもしかしてずっと昼間なんですか?太陽も無いし、ずっと影が同じなような」
「よく気付いたね。ここの一日は地上の一日とは違うんだよ。24時間ではないって事だね」
「気付きませんでした。でも考えたらそうかも。ずっと明るいし」
「地上だと西に太陽が沈む関係上、少し日の入りが早くて暗くなるのははやい。じゃあここだといつなんだって事だけど。正直に言うとランダムなんだよ」
「ランダムですか?」
「つまり、時間が決まってないって事?・・?」
「いくら時間を計っても決まった時間に暗くならないし、太陽も動かない。でもいつの間にか日が暮れて夜になってたりもするんだ」
かつて、新しくなった養老ダンジョンにはいった稲守は、それはもう苦労に苦労を重ねた。
いつまでたっても暮れず、もしかするとずっと昼間なのかとさえ思ったら本来ならば数時間かけて空が暗くなるのに対して、僅か数分で日が暮れて夜になった時は頭が追い付かなかった。
「ま、いつ暗くなるかわからないから、さっきみたいに色々な場所にツリーハウスとか建てているんだけどね。あ、ちなみにあそこは秘密だよ?他の人が勝手に使って壊されたらたまったものじゃないし」
「え?あれ、稲守さんが作ったんですか?」
「マジ?」
1階層には、調査員が使うために政府が建てた休憩所の他に、いくつか独自の休憩所が作られている。
主に稲守が建てたものだが、1階層の木材は丈夫で、今のところ雨も強風も観測されたことが無いから、即席で作ってもメンテナンスすれば長い事使えるのだ。
それから4時間、休憩をとりつつ歩き続ける一行の先に、大きな木が見えてきた
「ほら、見えてきたよ。あそこが目的地のF6地点、安全地帯の一つだよ」
「おー…」
「近くで見るとおっきー!」
地面や周囲ばかりを見ながら歩いていたせいなのと、森の木々は葉が多く気づかなかったのだ。
目測で高さ300m、木の幹は直径70m以上ととても大きく、太い根が地面に張り巡らされたさまは圧巻だ。
「二人の部屋はもう決まっているから直ぐに案内するよ」
「「へや?」」
3人は巨木へと近づき、稲守は周囲を警戒しつつ、根本へと歩みを進める。
大きな建物より太い根をくぐり、稲守がいつの間にか持っていた小石を投げつけると縄梯子が降ってきた。
「梯子気を付けてね。結構揺れるから」
揺れる縄梯子を登り、木で作られた押戸を開け、中に入る。
「さて、二人の部屋だけど…」
「「…」」
二人は呆然と目の前の光景を見ている。
押戸を開けた先には、木をくりぬいて作られた家があった。謎の光る石が中を照らしており、生活には困らないだろう。
「ま、とりあえずそこに座ろうか。飲み水とかは無いから川で水を汲んでくるよ。荷物を降ろして少し休むといい」
そう言うと稲守は放心する二人を置き、入ってきた戸を開け、外に出て行く。
「前に加賀さん案内したときも同じ感じだったなぁ…」
稲守は折り畳み式の水汲みバケツを持って、近くの小川へと身体強化を行使して走る。
徒歩なら30分以上かかるが、身体強化した体なら5分もかからない。
~笹山、高須side~
「…あれ?」
「ん?…あ、稲守さんがいない」
「なんか水がどうとか言ってた…」
「気がする…とりあえず待ってよっか。勝手に歩き回るのもあれだし」
二人はようやく落ち着いた場所にこれたのか、特に話す訳でも無く、机に座った途端眠気に襲われたのか、伏して眠ってしまった。
二人が眠ってから数分後、稲守は川に到着し、折り畳みのバケツに水を汲み、ついでだからと木の実を採取していた。
「そうか夕食の食材も必要か…でも初日だし置いてある食材でいいだろう。確かインスタントのカレーがあった筈」
気持ち的には川で魚でも釣って持って帰りたいが、時間が掛かる上に、二人があそこから移動でもしたら少し面倒な為、急いでバケツの蓋を閉めて、帰路に着く。
(しかし宿泊所まで魔法が続くとなると意外と二人は良い経験をしてきたんだろうな)
稲守の予想に反して、二人は結構体力もあるようだ。
ツリーハウスで少し滞在してからここに来る事を考えたが、意外にも二人はすぐに回復し、顔色も呼吸も異常が見られなかったので連れてきてしまった。
(二人が部屋を使うとなると残り4部屋くらいか?また拡張しないとな)
戻りながら今後の事を考える。
F6の宿泊所は、D5や他の地点に稲守が作ったツリーハウスにモンスターが住み着くようになってから作った拠点で、魔法を使ったり、身体強化でジャンプしながら無理やりロープで足場を作ったりと、何度も地面に落ちながらコツコツと手工具で切り出た場所だ。
地道に拡張をしていたが、研究所の刈谷や、ハチ子を筆頭としたロボット隊に手伝ってもらい今じゃ11LDKという大きな屋敷程の間取りとなっている。
部屋を使っているのは、稲守、研究所の刈谷、自衛隊の加賀、同じく自衛隊が2名程で、色々な荷物がある為、協力関係の無い他の隊員や部隊には秘密となっている。
宿泊所の下まで戻り、再び縄梯子から中へ入ると、二人がこちらに気付いたのか、水を引き上げるのを手伝ってくれた。
「あ、おかえりなさい稲守さん」
「水持ちますよー」
「助かるよ」
水を浄水器に入れ、カセットコンロで沸騰させてから置きっぱなしになっている粉末の煎茶を淹れ、一息つく。
「ってそうだ、二人の部屋なんだが、一応他の利用者もいるから勝手に開けないようにね。あと、ここは基本秘密だよ。入口の押戸には鍵がかかっているから、番号は忘れないようにね」
「えっと、稲守さん私たちまだ状況が飲み込めてなくて…」
「説明を要求します!」
「そういえばそうだった」
二人には、稲守とと知り合い達で作った秘密基地みたいなものだと伝えた。
自衛隊が正規に構えている拠点もあるが、距離が遠く野営をするにしても大変なため、利用者達に許可を取り、二人にもここを使ってもらう事になったのだ。
「俺はこれから昼食を作るから一度部屋を見てみるといいよ。二人の部屋は、厨房の左手にある階段を上がると通路があるから、真っすぐ進んでもう一度階段を上がった先にある。階段を上がって直ぐ手前にある左右の扉を使ってくれ。扉の鍵は一応簡単な南京錠が部屋の中にあるから無くさないようにね」
二人は我先にと荷物を掴み取り、階段を上がっていった。
「さーて夕飯、夕飯っと」




