第72話 養老ダンジョン新人教導任務③
2日目、申請していた武器を受け取り、点検を済ませた一行は、養老ダンジョン前のゲートに来ていた。
養老ダンジョンは最近になってようやくここまでの道のりが舗装され、大きな重機も来れるようになったので、他のダンジョンと同様にゲートが設けられたのだ。
入口でいつもの様に端末を提示して中を進む。
数分程は飯岡ダンジョンの様な何もない通路が続く。
「さ、見えてきたぞ」
通路の先、白い光によってよく見えないが、出口らしき場所が見えてきて、眩しいながらもその先へ進むと、新養老ダンジョンの第1層が3人を出迎える。
「「うわーーーーー!!!」」
3人の眼前には、青い空、深い森林、遠くには青く透き通った湖が見え、東の方角には背の高い森林地帯もあり、様々な地形の大自然が広がっている。
「ようこそ、養老ダンジョンへ」
新養老ダンジョン。
1層目は大自然が広がっている。
周囲は海に囲まれ、森林や草原、山岳地帯と狭いながらも様々な地形が形成されている。
洞窟の出口は小高い丘の上にあるため、あたりが一望できるせいかこの景色を見るためだけに来る調査員も存在する程だ。
「すごーい!」
「すげー…」
「景色を堪能している所悪いが、今日のスケジュールを発表するぞ」
新養老ダンジョンは全部で20階層。
1階層目は広いエリアが形成されており、下の階層へ行くためにはたった一箇所の洞窟へ行かないといけない。広さはおよそ2000㎢で、東京都よりは少し狭いと言えば狭く感じるが、外周を周るだけでも一週間、その中を調査するとなるとかなりの時間を要する。
「端末のダンジョンマップアプリの養老1階層を見てくれ」
黙って端末を操作する二人をちらと見つつ、説明を続ける。
「今俺たちがいるのは、C2地点。ここからF6地点にある拠点に移動、そこで何泊かしつつ調査してから地上に戻る予定だ。近くに水質の綺麗な川もあって一応水浴びくらいはできる。日程は約2週間だが、状況を見て変更はするから何かあったらすぐに言ってくれ。何か質問はあるか?」
「はいはいはい!」
「はい!」
「じゃあ早かった高須さんどうぞ」
「このマップは、どうやって作ったんですか?ドローンを使ったとか?」
「ドローンの調査は考えたし試した事は試したんだが、何故かドローンが正常に飛ばなくてね。50機種以上試しても全部結果は同じ。毎回2m程上昇したところでバランスを崩して落ちてしまうんだ。だから全部人力だよ」
「次はうち、水は聞きましたけど食料とかは手持ちだけ?何か採取するとかですか?」
「そうだね。見ての通りの大自然だ。色々と食べられるものがとれるよ」
質問タイムが終わった一行は丘を降りる事にした。
「それじゃあまず身体強化、脚だけでいいから使って下に降りようか」
「わかりました!」
「はーい」
3人は脚部限定の身体強化魔法を行使して、丘上から目的地であるF6地区を目指す。
笹山も高須も慣れたものですぐにではないが、魔法を行使して数秒で動き出す事ができたようだ。
「そういえば稲守さんはどこまで調査しているんですか?」
崖を降りていると、道中で笹山から質問が来た。
「んー、どこまでっていうのは難しいけど、まだ5割ってところかな」
3m程の割れ目を飛び越え、4m程の高低差をものともせず地面を目指して降りる一行。
「よし、そろそろ地面に着くから周囲を警戒しながら降りよう」
「何かあるんですか?」
「モンスターとか?」
「高須さんのいう通り、ここからモンスター達の縄張りになる。森林地帯はゴブリン、ハイゴブリン、レッドゴブリン、ゴブリン小隊に、ウルフ、ゴブリンライダー、他にも色々な種類のモンスターがいるから、速度を抑えてゆっくり進むよ」
「色々聞いた事の無いのがいる?」
「大体は派生的な?ライダーもなんとなくわかるし」
ライブラリには登録されているが、二人の権限だとまだ見れないのか知らない様子だ。
「ま、その辺はおいおいね」
それから直ぐに森林近くに降り立った一行は、比較的安全な山肌を背にこれからの事について、打合せを始める。
「さて、今から教える魔法を使いながら進む事になるんだが、ライブラリにはまだ載せてないんだ。他言無用で頼むよ」
2人にはメモには残さず、必ず覚えるように念を押して魔法を教える。
「まずは纏風。これは自身に微弱な風を纏う事によって、体臭を周囲にばら撒かないようにする魔法だ。詠唱文は、風、微、流、纏、膜、纏風だ」
本来ならば魔法を連続で行使するとなると、魔力量比重計を手に入れてからの方が良いのだが、見ながらになるとその分意識が分散したり隙を晒す事になるため、感覚に慣れてもらう必要がある。2人はまだ経験が浅すぎるからだ。
まずは体力と魔力の調整や休むタイミングを自然と身に着けてもらう。
これまでは加賀だったり、稲守だったりと第三者が二人の様子をみていたが、これからは一人で行動する事も増えるので、調査においては必須のスキルだ。
「続いての魔法だが、音を抑える魔法だ。足音、声を抑制できるし、周囲の音は聞こえる優れものだ。使う場面は指示するから詠唱文を覚えておくように。詠唱文は、動、振、音、響、抑、膜、制振膜だ。覚えられないようなら俺の詠唱に続いて同じようにしてくれ、いいかい?」
「「はい!」」
「合図はどうするか…」
「自衛隊で習ったハンドサインとかどうです?」
「色々あるけど止まれのハンドサインをそのまま使うとか?」
高須が右腕をうしろ斜めに突き出しながら、こう!と教えてくれた。
「わかった。それならわかりやすいし、同時に注意のサインにもなるから採用しよう」
打合せを済ませた三人は、纏風を行使し、森へと足を踏み入れた。
1層の森は起伏が緩やかで、高低差が余り無く日本の森とは違い湿気も少なく歩きやすい。
「さて、歩くだけじゃなんだし、調査をしつつ進むぞ」
「了解!」
「稲守さん質問、結局調査って何をするんです?」
笹山からの質問に対して、稲守は何も言わずに近くにある木に近づき根本を指さす。
「例えばほら、根元に一部が食べられたキノコがあるだろう?」
稲守のいう通り、広葉樹の木の根本には傘がかじられた跡があるキノコが生えていた。
「これを見てどう思う?」
「えーと…」
「んー…食べられるかどうかとか?」
「それも大事だね」
確かに重要だと言いながら、説明を続ける。
「まず、キノコと木というのは、組み合わせが決まっているんだ。もちろん複数のキノコが同じ木にって事は当然あるんだけどね。じゃあこの木はなんなのか。どういう木なのか、他のキノコは?っとどんどん気になる事を考えてみるんだ。」
このキノコは何者が食べたのか、同じ木はどの程度あるのか等、キノコ一つをとっても見て調べる事が山の様にある。
キノコを食べるモンスターならば木の範囲分、生息域があるという事にもなるからだ。
「この食痕は十中八九イロリスだろう」
「「イロリス?」」
イロリス。
特区生物43号、正式名称はダンジョンイロガワリリス。
魔法を操り、気配を森に同化させる上に体毛の色を変えながら、天敵から姿を隠しつつ行動しているモンスターで、人間は襲ってこないと学んでいるが、近付きはするも触ろうとすると逃げる。動けない時に限り、全魔力を放出して一か八かの魔法攻撃を放つが、放った後は気を失う。
「攻撃はしてこないし、俺たち人間が危険じゃないって覚えてるからたまに近づいては餌を強請る賢いモンスターだよ」




