第71話 養老ダンジョン新人教導任務②
屋外スペースに入ってきたのは、笹山と高須だった。
どうやら室内から席を探しているときに、稲守を見つけたのだろう。
「昼間ぶりですね」
「お疲れ様でーす」
自衛隊の隊服とは違い、すこしラフなのだが、薄く化粧をしており、そこはしっかりと女性なのだなと思う。
「やぁ、二人も食事かい?」
「はい!楓が暇だしご飯でも食べてから温泉でも行こうって誘ってくれたんです」
「利用者も少なくて貸し切りだって聞いて。稲守さんはご飯食べた後は何をするんです?」
「あぁ俺は…」
ここで訓練をすると言うと、絶対についてくると思った稲守は小さな嘘をつく。
「部屋でちょっとする事があってね。端末とにらめっこだよ。報告書もあるからね」
無意識に左手で顎を触りながら、話す稲守。
そのまま雑談をしていると、アラームが鳴ったので先に稲守が食事をする事となり、2人と別れ1人屋外スペースで食事をとる。
(お、山菜の味噌汁か…)
食事を20分程で終え、訓練場に行くのを見られない為に一度自室へと戻る。
~笹山、高須side~
二人も稲守と同じ様に屋外スペースに行くが、彼が1人でいるのが好きなように感じたで、離れた席へと座る。
「ねぇ芽愛里」
「ん?」
「稲守さん、嘘ついてない?」
「多分。あれ癖だよね。顎を触って喋るの初めてみた。」
稲守は嘘をつくとき、左手で顎を触る癖があり、今まで何度か会話をした中で、同じようなしぐさをしているところを一度も見たことはなかった。。
「だよね。何するのかな」
「んー…温泉…?混浴だって聞くし恥ずかしかったとか?」
「うちは多分訓練だと思う。さっき廊下で隊員の人たちが話してたの聞いちゃった。稲守さんがまた魔法で訓練してるって言ってた」
二人は宿泊している階層が違う。
笹山が部屋を出るときに、廊下で誰かがしゃべっている声が聞こえたので、興味本位で聞き耳を立てていると、稲守の名前が出たので、じっくりと会話を聞いてしまったのだ。
「いつもここに来ると裏庭?かどっかで訓練するんだってさ。それになんか飛んでたって言ってた。空中で移動してたーとか、ついに飛行魔法かーって。で、また夜に大きな音するから耳栓しないとって」
「ほんと?だって飛行魔法ってまだ何処の国もできてないんじゃなかった?」
魔法のライブラリには一般的に有用な魔法は大体公開されている。
戦闘系は調査員のみだが、水を出す魔法や、ライター程度の火を出す魔法、他にも手のひらに微弱な電気を纏う魔法も開発されており、ゴブリンを倒すだけでも扱える事から、微電圧による電気マッサージが行えると話題だ。
しかし、空を飛ぶ、水中に居続ける、宇宙空間に生身で出る等、まさに魔法のような事は、まだ誰も何処の国も達成できていない。
「確かね。でも、稲守さんならなんかやらかしてそう」
「わかる。ねぇ、行ってみない?訓練場」
「…行っちゃおっか」
食事を早々に済ませ、二人は時間を合わせて室内でシャワーを済ませ、着替えて待機する事にした。
一方、稲守は二人が温泉にでかけたであろう時間、19時頃に1人裏手の訓練場へと向かった。
訓練場自体は夜間訓練や、隠密部隊の訓練に利用できるように開放されており、たまに見たことない隊服を着た人間が集団で訓練をしていたりと、そこそこ利用者はいる。
照明の利用許可の申請をしてから訓練場に向かうと、たまたまなのか利用者はおらず、昼間と同様に魔法の訓練を始める。
(さて、風制爆の魔力消費量の調査もしますか)
首から下げている魔力量比重計の現在の写真を端末で撮影し記録、そこから何度か魔法を使って、どの程度魔力を消費するのかを検証していく。
風制爆は意識した場所から爆風を放つ事でき、脚、腕、両足、両腕と今まで意識したことはないが、もしかするとほかの魔法も可能なのかもしれない。
「掌底爆破」
丸太に向かって詠唱をせずに掌底爆破を使う稲守。
(いつの間にかスキルになってたんだよなぁこれ)
実は掌底爆破はいつの間にかスキルとなっていた。
両手で使う場合は相変わらず詠唱は必要なのだが、片手で使う分には詠唱はいらない。
「掌底爆破の詠唱文は、点、爆、衝、これを風制爆、風爆の詠唱文を参考にしつつ…」
詠唱文を継ぎ接ぎしながら、魔法を行使して試していく。
「風、爆、裂、衝、風裂掌」
丸太に掌底を当てると、爆風が起こり、丸太が大きな音とともに吹き飛ぶ。
ドォン!
吹き飛んだ丸太を見に行く。
丸太には、風魔法が当たった時のような切断痕が無数に刻まれており、直撃部分は拳一個分程えぐれていた。
以前掌底爆破を使った時は粉々になったのだが、威力は少し控えめのようだ。
「ってやばいな夜にこの音はまずいか」
急いで端末から宿泊施設に連絡、自分が魔法の練習しているので、大きな音は問題ない事を伝えた。
宿泊施設側からしてみれば大体ここで大きな音が出るのは稲守の仕業だと把握しているので、特に慌てた様子もなく、電話越しでもわかりました、21時までにしてくれという要望だけだった。
(これなら掌底爆破の変わりになるだろう)
魔力消費量も素の詠唱だからか少ないので、今の彼女らでも何発か問題なく使えるだろう。
(さてどうするか…魔法の練習にしても無駄に魔力使うのもあれだし…暗いから丸太も取りに行けないし…)
温泉に行こうにも2人が温泉に入ってると考えると、近場の温泉は混浴しかない為さすがに気恥ずかしい。
(…そういえば西にも温泉あったか、あそこはまだ俺しか知らないはず)
稲守は急いで、部屋に戻り風呂用具の道具を手に持ち、宿泊施設を出る。
向かうのは宿泊施設から徒歩で10分ほどにある、天然の露天風呂で、照明等はなく、ただ着替える用に掘っ立て小屋があるだけ。
夜は野生動物なども利用するため、一般人には危険だが調査員にとってはそこまで危険ではない。モンスターの方が何倍も危険だからだ。
そんな場所を暗い山道を手持ちのライトのみで進む。
虫の声や遠くから聞こえるキョンの鳴き声を聞きながら歩いていると、硫黄の香りが進行方向から香って来る。
「着いたか」
幸い野生動物はいないようで、ランタンを持ちながら掘っ立て小屋で服を脱ぎ、さっと体を洗って湯舟に入る。
「あ゛ぁ~…」
人もおらず、1人で入る温泉は気持ちがいい。
(ここはやっぱ気持ちがいいな…)
~笹山、高須side~
「ダメだー、見失ったー!」
「だねー、とりあえず戻って温泉行こ?」
途中まではなんとか追う事ができたが、分かれ道を間違えたのか、完全に見失ってしまった。おまけに暗い山道というのもあり、闇雲に歩くのは危険だ。
「GPSアプリも調子良くないし仕方ないか…」
「ま、明日二人で詰めよれば教えてくれるでしょ、なんだかんだ優しいし」
「だねー」
二人は来た道を戻り、当初の予定だった温泉施設へと向かった。
時間は21時、二人は温泉施設に入ると、利用者はおらず、貸し切りのようだ。
「楓!誰もいないよ!貸し切りだー!」
「ほら芽愛里余りはしゃがないの」
「はーい」
見た目とは裏腹に面倒見のいい笹山。
そのまま二人は温泉を楽しみ、22時頃に宿泊施設へ戻り、明日に備え眠る事にした。




