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Disfear Bullet  作者: たる。
第二章 記憶の中の少女
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page10 妹との再会

「う……ん……?」

 自室のベッドの上で、クロナはその日二度目の覚醒をした。

「気が付いたですか、クロナちゃん?」

「リリア……?」

 傍らで心配そうに自分を見つめるリリアを見て、クロナはぼんやりと何が起きたかを思い返す。そして、辺りを見回し……。

「!」

 目にもとまらぬ動きで、リリアとは反対側、壁際の方へ飛び退く。

 その視線の先には、先ほどの少女……、死んだはずの妹と瓜二つな少女が、心配そうな表情でクロナを見ていた。

「ちょ、落ち着いてくださいです、クロナちゃん! レ、レノン君! 入ってきていいですよ! ていうか入ってきて欲しいのです!」

 ドアに向かって声をかけると、廊下で待機していたレノンが入ってきた。

 そしてクロナの状態を見て、思った通りだとばかりに溜息をつく。

「落ち着いてください、クロナ」

「だ、だけど、私は……!」

「まあ、原因が単なる勘違いでなく確かに起こった過去のことである以上、そう簡単に冷静になれることはないでしょうが……。とりあえずは、彼女について話を聞いてください。貴女が眠っている間に、話を聞いておきましたので」

「…………」

 無言を肯定と取り、レノンは少女から聞いておいた話をまとめたメモを見て話し始めた。

「名前はフィア。歳は十だそうです。家の場所等について聞いてみましたが、どうやらわからないようでして……」

 歳は奇しくも妹が死んだときと同じだった。

 やはり一言も発しないクロナを視界の端に捉えながら、レノンは続ける。

「依頼内容については、先ほど聞いた通り、彼女の身辺保護。貴女を指定しての依頼です」

「ちょっと待て。その依頼、受理したのか?」

 落ち着きを取り戻してきたクロナは、さっきの様子とは手を返したような対応をしたレノンに問う。

「ええ。どちらかというと、身元不明の彼女の保護という意味合いが大きいですが……」

「そ、そうか……」

 少女は身元不明……、迷子の状態らしい。家の場所も分からないどころか、親の名前さえも教えてくれない。

 ただの悪戯なら拒否することもできたが、迷子の子供を放り出すわけにもいかない。「お堅い公式ギルドよりも融通が利いて、何でもやる」地域密着型な自立ギルドとしては、無暗に評判を下げるような真似はできないし、彼女を放り出すのはそもそもの主義に反する。本当に困っている人はきちんと救うのが自立ギルドだ。

「……というわけですから、この子のこと、お願いします」

「本当に私に任せるのか?」

「ええ。そういう依頼ですから。それに、貴女以外では嫌だと言って聞かないものでして……」

 レノンが頭に手を置こうとすると、フィアはバッと離れ、ベッドのシーツを握り締め、警戒心剥き出しで彼を睨んだ。

「……依頼なら、仕方あるまい」

 クロナはそっと、フィアの頭に手を伸ばす。

 髪をなでると、少女は気持ちよさそうに笑った。クロナにだけは懐くようだ。

「えへへ、お姉ちゃん」

 そう自分を呼ぶ彼女の姿は、やはり記憶の中の妹の姿とピッタリ重なる。撫でた髪の感触さえ同じだった。

「来い、フィア」

「うん!」

 クロナが手を広げると、フィアは満面の笑みを浮かべてその中に飛び込んできた。

「……やはり、似ているな」

「ん? なぁに?」

「いや、なんでもない」

 これはきっと、神か何かが与えた、贖罪の機会。

 与えたのが何者かは知らないが、いずれにせよ、この奇跡の出逢いは、きっと拒んでいいものではない。受け入れ、あの時妹を守れなかった罪を贖わなくてはいけない。

 フィアに妹の姿を重ね、クロナはふっとほほ笑む。

「わぁ……」

「貴女も、そんな風に笑うのですね」

 普段あまり表情を動かさないクロナの見せた自然な微笑みに、リリアは思わず見とれ、レノンは興味深そうにつぶやいていた。

 二人の声にクロナははっと我に返ると、フィアを床に下ろし、それから表情を少し無理やりかき消した。

「……依頼である以上、仕方ない。が、彼女につきっきりであるわけにもいくまい。他に依頼はないのか?」

「そうですね……。貴女に回したい依頼があったと思うので、少し待っていてください」

「ああ」

 受理した依頼を確認するため、レノンは一度部屋を去る。

 続けてクロナは、リリアにも確認をする。

「リリア。武装の整備は済んでいるか?」

「はい! 今朝整備が済んで、もうすぐにでも使える状態なのです」

「ありがとう。取りに行こう」

「あ、持ってきますです!」

 言うや否や部屋を飛び出す。

 が、部屋を出たと思ったらすぐに顔だけ出して部屋の中を覗き込んできた。

「むぅ……」

「……?」

 そして、ジトーっとした目でフィアのことを睨みつけ……。

「べー、です!」

 舌をベーッと出し、そしてすぐに工房へと駆けて行った。

「……お姉ちゃん。今の、何?」

「さあな」

 二人がいなくなったところで、再びフィアを抱き上げる。

「お姉ちゃん。えへへ」

「ふふ……」

 最初こそ驚いたが、再び愛しい妹に会えたのだと思えばそれも悪くない。気付くと、そんなことを思っていた。


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