page11 最強の戦士に打ち勝つ者
しばらくしてリリアが持ってきた武装を身にまとうと、クロナはフィアを連れてホールに下りた。少しずつ客が入り始めている中、レノンが書類を手に彼女を待っていた。
「依頼内容は?」
姉の頭から、リリーフの頭に切り替える。フィアがいようがいなかろうが、いつも通りに戦えなくてはいけない。
いつも通りの様子のクロナを見ると、レノンはどこか安心した表情を浮かべ、書類に視線を落とした。
「ドレッド討伐依頼です。対象は正確には確認できていませんが、依頼者の目撃情報では、黒い羽をもつ小型の群れ……。おそらく、ケイブバットの類でしょう」
「なら、夜を待たないといけないか……」
ケイブバットは、その名の通り元々は洞窟に生息していた、数十匹で群れて行動する習性がある蝙蝠型のドレッド。最近では森林部や、稀に市街地でも見られるようになり、今では最も目撃例の多いドレッドの一種である。
元々洞窟で生息していたためか、主に夜間にしか行動しない。ドレッドの習性についてはまだ未知の部分が多く、特に巣を発見するのが困難であるため、そこを叩くという手段が通用しない。相手が行動する時間を待たなくてはならないのだ。
「まだ少し早いが、対多数となるといろいろ準備も必要か……。早いうちに向かった方がいいな」
「お姉ちゃん、お仕事?」
クロナがこの後の策を考えていると、彼女に引っ付いていたフィアが首を傾げる。レノンの見ている手前、あまり表情を変えずに返した。
「ああ。だからフィアは、ギルドでおとなしく待っていてくれ」
「嫌!」
しかしフィアは、クロナの黒衣によけいしっかりしがみ付いて離れない。この懐き具合から予想してはいたが、実際にこう反応されるとなると、対応に困った。
「悪いが、連れて行くわけにはいかない。お前を守りながら戦える保証はないんだ」
今度こそ守り抜くと誓ったクロナだったが、それだけに、フィアを徒に危険な場所へ連れ出したくはなかった。ましてや、相手は大多数。単独行動で蹴散らすだけならまだしも、少女を守りながら戦うには難しい相手だ。
ギルドなら他に優秀なリリーフもいるため、万が一のことがあっても安全だ。だから、彼女にはここで待っていてほしいのだが……。
「うう~……」
フィアはじんわりとそのつぶらな瞳に涙を溜め、じーっとクロナを見つめる。
「う……」
そしてその表情は、最強のリリーフであるクロナをたじろがせる程度には強烈だった。
これは反則だと、クロナは心の内でぼやく。
「……仕方ない」
「お姉ちゃん?」
「え、ちょ、クロナ……?」
もしかしてとフィアが喜び、逆の意味で、もしかしてとレノンが焦る。
「私の指示は絶対に聞け。動くなといったら動かない。逃げろと言ったら逃げる。約束できるか?」
「うん! 約束する!」
「ちょ、クロナ!?」
「許せ、レノン。この銃剣、Disfearに誓って、必ずや二つの依頼を共に達成すると誓う」
レノンの前でクロナが武器に誓いを立てるのは、これが初めてだった。
レノンは驚いたような呆れたような複雑な表情で、ずれた眼鏡を直す。
「……まあ、貴女なら大丈夫だとは思いますけど、無茶はしないでくださいね。貴方の持つ力はあくまで速攻、圧倒の力であって、防衛には不向きなんですから」
「なら、速攻で圧倒して、フィアに近づく前に全部潰してやるまでだ。……今度こそ守ると誓ったからな。雑魚の群れごとき相手に守り抜けないようでは困る」
「はぁ……」
深くため息をつく。どうやらあきらめたらしい。
「本当ならあと一人、防御特化の人を同行させられればいいんですけど」
「お前は働かないのか?」
「僕は防御には不向きです。あと、戦いたくありません」
「……まあ、そうだったな」
彼を連れて行くとどうなるかわからないと、クロナは心の中で笑った。
「では、準備をしたらすぐに出る」
「わかりました。ご武運を」
「行くぞ、フィア」
「わーい!」
いまいち事態をわかっていなさそうなフィアを連れ、クロナはひとまず工房へ向かう。
案の定その先にはいかにも不機嫌そうなリリアが待っており、クロナへの笑顔とフィアへのふくれっ面を交互に切り替えながら、Disfearの調整をしてくれた。そしてもちろん、工房を去る時にはクロナへとびっきりの笑顔を、そしてフィアにとびっきりのガンを飛ばしたのであった。




