家族揃ってお出かけ
【リビングルーム】
次の日の朝
昨夜、過去を話して泣き疲れたはずのサーシャだったが……今朝は誰よりも早起きして朝食を作ってくれた
「美味しいよぉ♪」
「本当にサーシャは料理が上手いね」
「本当にな。家庭的って感じで気持ちも安らぐよ♪」
「えへ。有難うございますですの♪」
サーシャが早起きして作ってくれた朝食に、みんな満足げな笑みを浮かべていた
「なぁ、少しずつお互いの距離も近づいてきたことだし、今日は温泉宿でご飯とお風呂を楽しまないか?」
「外食!良いのぉ?」
「温泉!良いね♪」
「楽しそうですの♪」
ヒイロは4人で出掛けようと提案した。別々の義理の親に育てられた少女達がヒイロの工房で、ひとつ屋根の下でぎこちなく姉妹生活をしていた訳だが…
「もっと、みんなと親しくなりたいんだ」
サーシャの過去を知り、3人が本当の姉妹になれるキッカケになるのではないかと感じたヒイロ
食べ終わった食器を4人で分担して片付けてから出掛けようとした時、ヒイロはある事に気が付いた
「なぁみんな。お出掛けするのに着替えないのか?」
女性に疎いヒイロでも、リーリア姉妹がクエストに行く時と、街の行事に参加するなどの時では明らかに服装が変わることくらいは知っていた
「だってぇ、この服しか持ってないもん……」
「ギルドの人に引っ張られて、何も持てずに連れてこられたからね」
「そうですの。私物は何もありませんから、着替えも無いですの……」
三者三様な所がある三姉妹だが「着替えないのか?」と聞かれた時の寂しい表情は、3人とも同じだった
「それなら温泉に行く前に、みんなの私服を買おうぜ。とりあえず2着ずつ買ってあげるよ」
遠慮は要らないよ、と言わんばかりに笑顔で三姉妹に伝えるヒイロ
「え?良いのかい?」
「お兄ちゃん、大好きぃ♪」
「それは助かりますけど……宜しいんですの?」
「当たり前だろ!それくらい買ってあげられる余裕はあるさ♪」
昨日、ヒイロの稼ぎだけでは家計が破綻する話を聞かされていたので、カルーアとサーシャはお金の心配をしたようだ
【商業都市の繁華街】
大陸の三大商業都市ヘルメスのメインストリート。店舗の種類も多く、この街で1番華やかなエリアだ。
「好きな服を2着ずつ選んで良いからな」
以前シャルルから聞かされていた、女性の服を買うのに人気のブティックに三姉妹を連れてきたヒイロ
「ちょっとカルーア。そんなヒラヒラな服でどうやって戦うのよぉ!」
「まずは、家に居る時用の服を選んでるんだよ!それよりも姉さんが手に持ってる服って、男用の服なんじゃないのかい?」
「動きやすい服のほうが良いに決まってるじゃなぁい?」
「クエスト用にしても、少しは女らしい服を選びなよね?」
アリスとカルーアの服選びに対する意見を聞いていたヒイロは、離れた場所で腕を組み見守っていた。
(義父から女の買い物は長いと相場が決まっているから、辛抱強く付き合うことが大切だぞ!……って言われてたけど、本当に長引きそうだな……)
「ねぇ、お兄さま。この服なんか可愛いと思いませんか?」
「え?……うん、とても可愛らしくて良い感じじゃないか♪サーシャに似合いそうだね」
言い争う2人をよそに、女の子っぽい可愛らしい服を手に取ってヒイロに見せるサーシャ。
(むぅ?お兄ちゃんは可愛い服が好みなのかなぁ……)
可愛らしさ重視の服を見せ、ヒイロに似合うと言われたサーシャを見て、少し考えたアリス。
「ね、ねぇ、カルーア。あくまでも動きやすさを大事にしたいんだけどぉ…その中でアタシに似合う少し可愛い服って、どんなのが良いかなぁ?」
「え?あ、うん。動きやすいけど可愛さもある服だね……一緒に選ぼうか?」
ヒイロに褒められたサーシャに影響されたアリスが、ヒイロを意識して少し考え方を変えたようだ
「ねぇ、兄さん。わたしは家用の服は決まったんだけど、クエストに出る時の服はどんなのが良いと思う?」
サーシャほどではないが、アリスより異性としてヒイロを意識しているカルーアは、敢えてヒイロに自分に似合いそうな服を聞いてみた
「そうだな……この魔法使い用の服はどうだ?素材のおかげで魔力を保持しやすいうえに、薄い割には丈夫で動きやすくもあるらしいぞ?」
ヒイロは前にシャルルから聞かされていた「女魔法使いの自分なら、こういう服が好みかな?」という意見を参考にしてカルーアに良さそうな服を選んでみたのだが……
「兄さん、なんだいその薄い生地の服は。……だいぶエッチい気がするんだけど?……わたしにそんな破廉恥な服を着させたいのかい?」
あくまでも19歳のシャルルが着る分にはお洒落で通る服なのだが、まだ13歳のカルーアに着せるには、ロリコン趣味だとか疑われる可能性もある薄めの生地の服だった
「ち、ちげーし!良い服なんだぞ?……確かに透けて見えそうな気もするが……」
「ちょっと兄さん!これはエロ目線で選んでるよね?こんなに薄くて生地も少ない服は恥ずかしいよ?」
シャルルに似合う服がカルーアにも似合うとは限らないのだが、アリスと同じように着るものを実用性で選ぶヒイロには、カルーア達に似合う服を選ぶのは難しいようだ
「お兄さまったら……幼いサーシャ達の事を、そういう目で見ていたのですか?」
「違うんだ。えーと、そうそう!【精霊樹木】と言われる希少な木から取れる繊維で編まれた服だから、魔法使いに選ばれやすい服なんだって」
「ふーん……店員さん。これと同じ素材で、わたしに似合いそうな服はないかな?」
最終的にカルーアは、店員のアドバイスを受けてクエスト用の服を決めたようだ
「有難うございました!」
こうして三姉妹にクエスト用と家用の服を1着ずつ買い与えたヒイロは、最近この街に出来た夫婦が営む【温泉宿】と言う場所に向かった
【月見亭】
日本語的に訳すとそんな意味合いの温泉宿に三姉妹を連れてきたヒイロ
「ようこそいらっしゃいました!」
「ごゆっくり寛いでくださいね♪」
入り口で、40代くらいの夫婦がアルバート一家を出迎えてくれた。朝と晩の料理付きで、新施設の【温泉】なる物が宿泊客に大人気の宿だ
「お待たせしました」
「たっぷり楽しんでくださいね」
4人が部屋に案内されて数分後、夫婦の手により豪華な食事がテーブルの上に並べられた
「いただきます♪」
..........................
「このお肉、柔らかくて美味しいよぉ♪」
「ちょっと姉さん。野菜も食べないと良くないよ?」
獣人族のアリスは肉ばかりを食べ、逆にエルフのカルーアは野菜をメインに食べていた
「お兄さま、どうぞですの♪」
「あぁ、ありがとうなサーシャ♪」
自分の食事は程々に、ヒイロの為に皿に色々よそってきたサーシャ。3人の食生活の差が見て取れた食事だった
4人は美味しい晩飯を楽しんだ
「ところで、温泉とはどのようなものなんですの?」
奴隷市場で飼われていたサーシャは温泉の知識が無いようだ
「お風呂の事なんだけど、水を火で熱した物ではなく地下から自然に湧き出てる身体に良いお湯だそうだ」
「へぇ、そうなのですのね。お兄さまと一緒に入れるなんて楽しみですの♪」
「あ、いや。俺は後からひとりで……」
「そうだよね。流石に一緒に入るのはちょっと……」
前にひとりで長風呂していた時に、誰も居ないと勘違いしたヒイロに入られ、背中も流した事のあるカルーアは、一緒に入るのは遠慮したいと言おうとしたのだが……
「お兄ちゃんも一緒に入ろうよぉ!みんなで入った方が絶対楽しいもん♪」
「いや、しかしだな……アリス!?」
天真爛漫なアリスは、異性と混浴する恥ずかしさよりも、一緒に入る楽しみのことしか考えていなかったので、ヒイロの手を取り脱衣所に向かった
..........................
「お兄さま。もう出られますの?」
「あぁ。十分に温まったからな」
「でしたらサーシャも出ますの」
家じゃない場所での入浴にテンションが上がっているアリスとカルーアは、個人経営の温泉宿である為【濁り湯】【檜風呂】【水風呂】しか無かったが、長い時間楽しんでいた
しかしサーシャは、ヒイロと一緒に出て彼に紅茶や備え付けのお菓子を提供していた
「まだ、陽は沈んでいないな。ガラガラ…お!露天風呂もあるじゃないか!」
リビングに戻ったヒイロが何気なく遮光性の扉を開けて庭を見ると、庭の中に小さいが露天風呂があった
「露天風呂があるのぉ!?入る、入るぅ♪」
温泉部屋からリビングを通り、簡単に巻いたタオル姿で露天風呂へ駆けていくアリス。
「ちょっと姉さん。走ったらダメだよ!」
カルーアはしっかりバスタオルで全身を隠して、ゆっくり露天風呂へ向かった
..........................
「お兄ちゃんも入ろうよぉ♪」
「サーシャも入らないかい?気持ち良いよ?」
すっかり露天風呂が気に入ったアリスとカルーア
「俺は明日の朝にでも入らせてもらうよ」
「それでしたらサーシャも朝に❤︎」
温泉宿を楽しむアリスとカルーアだが、サーシャはヒイロの横に居ることの方を選んでいた
【その夜】
「来て良かったな♪」
「はい、お兄さま❤︎」
「お肉美味しいよぉ……」
「もう姉さん、走ったらダメだってば……」
寝室で布団を合わせて並んで寝るアルバート家族。昨夜一緒に寝た時の、それぞれの過去を分かち合うような空気の重さは無く、全員満足した笑顔で眠りについていた
「カプっ、あむあむ……」
「痛っ!?」
食べた肉料理と間違え、寝ぼけてヒイロの腕に噛み付くアリス
「お兄さま、大好きですの❤︎」
「く、苦しいってば…」
夢の中でヒイロに抱きついているつもりのサーシャと、サーシャに抱きつかれて夢の中でも苦しんでいるカルーア
アルバート家族は初めての外食と外泊で楽しい一日を過ごせたようだ
続く




