コミニュケーション
【温泉宿2日目 早朝】
「……お腹空いたぁ!」
「…え!?な、なんだい?」
温泉宿の部屋で、空腹を感じ目を覚ましたアリスと、それに釣られて目を覚ましたカルーア。
「ねーねーカルーア。朝ご飯ってまだかなぁ?」
チラリと壁掛け時計を見たカルーア。
「まだ6時過ぎじゃないか。昨日、宿の人が朝7時にって言ってたよ?」
「えぇ!?お腹空いたし暇だよぉ…」
「ん、んうぅ…お姉さま達?…えっと、お風呂場は朝6時から開いてるって言われてました。時間までお風呂を楽しむのはどうですの?」
アリスとカルーアの話し声で目を覚ましたサーシャは、ふたりに朝風呂を勧めた。その横でヒイロは、まだ夢の中だった
「お風呂、入るぅ♪カルーアも!」
「やれやれ仕方ないね……サーシャも一緒に入らないかい?」
「そうですね……」
チラリとヒイロを見ると、少年のような顔で寝ているのが可愛くて「くすり」と笑ったサーシャ。
「サーシャはお兄さまと居ますから、おふたりで入って欲しいですの♪」
ヒイロを優しい目で見るサーシャに、言葉で言い表せない感情が込み上げてきたカルーア。
「分かったよ。けどサーシャ…キミは少し兄さんに対して、スキンシップが過ぎるんじゃないかな?あんなに密着されたら、兄さんも我慢しきれなくなっちゃうだろ?」
「カルーアお姉さま。私はお兄さまを信用していますの。別に、間違いが起きてもお兄さまなら後悔しませんの♪」
サーシャは、ヒイロへの気持ちを隠さずにカルーアに語った。
「そうなんだ……でも、わたし達はまだまだ子供なんだから、間違いを起こすには早いんだからね?」
「もちろん分かっていますの。ささ、アリスお姉さまが待ってますのよ?」
「うん……早まったらダメだよ!」
カルーアはアリスを追い掛けて風呂場へと向かった。優しい笑みを浮かべてサーシャはヒイロに近寄った。
「くー、スピー……」
「ふふ、気持ち良さそうに寝ていますの♪」
サーシャはヒイロの頬を、指でツンツンした。
「ん?……サーシャか?おはよう」
「おはようございますですの、お兄さま。よく眠られましたか?」
薄めの生地の淡いピンク色の浴衣を着たサーシャは、アリスよりも年上に見えそうな落ち着いた笑みをヒイロに向けた。
「あぁ。よく眠れたけど、寝起きだから喉が乾いてるな。何か飲み物をもらえるかい?」
「紅茶ならスグに用意できますの」
「ありがとう。助かるよ」
「少しお待ちくださいですの♪」
三姉妹の中でも一番ヒイロを信頼し想いを寄せ始めているサーシャは、嬉しそうに紅茶を用意し始めた。
「アリスとカルーアが居ないな?」
「まだ朝食の時間には早いので、朝風呂を楽しまれていますの」
「ゴクゴク、ありがとうな。そうか……俺たちもお風呂場に向かうか?」
サーシャが用意してくれた紅茶を飲みながら、自分達も風呂場に向かおうかと誘ったヒイロだが…
少し口元が緩んだサーシャが、期待に満ちた目でヒイロに提案をする
「部屋の前の露天風呂、サーシャ達は昨日入らなかったので一緒に入りませんか?お背中も流しますのよ♪」
「そうだな……そうするか!」
昨日も風呂場でずっと近くにサーシャが居続けたから、サーシャは自分と一緒でも嫌がらないんだな。と判断したヒイロ
「ありがとうサーシャは優しいな♪」
一生懸命、心を込めてヒイロの背中を洗っているサーシャ
「いえいえ。お兄さまがお優しいから、サーシャもお返ししたくなっているだけですの♪」
サーシャは服を買ってもらえたうえに、温泉宿に連れてきてもらい、食事と家族での宿泊まで体験させてくれたヒイロに心から感謝していた。
「そんな大した事はしてないはずだけど?」
「サーシャは十分幸せを感じてますの♪」
(やっぱり奴隷市場での生活は、我慢の連続の辛い日々だったのかな?)
「そうか?なら、俺も遠慮なくサーシャに甘えさせてもらうよ♪」
「そうして頂けると、サーシャも幸せを感じますの♪」
サーシャからしてみれば、この程度の事など苦痛でもなんでもない。むしろ、この程度でお返しになって喜ばれているのが嬉しくて仕方ないようだ
「どうしたんだアリス。タンコブが出来てるじゃないか?」
ヒイロとサーシャが部屋の前の露天風呂を楽しんで部屋に戻ると……涙目でタンコブのある頭を押さえているアリスと、そんな彼女を見て「ヤレヤレ」といった表情のカルーアが居た
「うぅ、転んで床に頭を打ったのぉ……」
「まぁ、大丈夫ですの?」
「気にすることはないよ、自業自得さ。滑りやすいから走ると危ないよ?って言ったのに「大丈夫ぅ!」って言って走って転んだんだよw」
「だぁってぇ、楽しかったんだもん……」
「もうすぐ朝食が運ばれてくるハズだけど、アリスは食べられるのか?」
アリスが本当に痛そうにしているので、朝食を食べられるのか?と気になったヒイロだが……
「食べられるよぉ。絶対に食べるもん!」
むしろ痛い思いをしたんだから、食べなきゃやってられないよ!と言わんばかりのアリスだった
【朝食の時間】
「それではごゆっくり♪」
「何かありましたら、お呼びください」
温泉宿の夫婦は手際良く朝食を部屋のテーブルに並べてくれると、そそくさと部屋を出て行った
「それじゃ食べようか?」
ヒイロの言葉に続いて朝食を始めた三姉妹だが、カルーアが不機嫌そうなアリスに気が付いた
「どうしたんだい?姉さんは、お腹空いた!絶対に食べるもん!って言ってたじゃないか……」
「だーってさぁ、お肉が無いんだもん。お魚さんばっかり……」
「あぁ!獣人族は肉を好んで食べるけど、魚はあまり食べないんだったか?」
「お魚さんは身体に良いですから、食べないとバチが当たりますのよ?」
肉がない事に不満げなアリスだが、サーシャから食べないと勿体ないと言われ、渋々食べ始めたアリス
「イヤイヤ食べ始めた割にはシッカリ完食してるじゃないか……」
「だぁってぇ、美味しかったんだもん♪」
食べ始めは不満げなアリスだったが、いざ魚を口に入れてみると……彼女の表情は激変し、あっという間に食べ終えていた
「良かったらサーシャのお魚半分食べます?」
「え?良いのぉ♪」
「ちょっとサーシャ。あんまり姉さんを甘やかすのも良くないと思うけど?」
昨日からアリスのワガママに付き合ってきたカルーアは、優しくするばかりも本人に良くはないと思い始めていた
「ありがとうねぇ、サーシャ♪」
カルーアがサーシャに話している合間に、アリスは既にサーシャの魚を半分にちぎって口の中に入れていた
「帰りに商業ギルドに寄るから、小腹が空いていたら近くの商店街通りで、何か買ってあげるからな」
「ありがとうございますの、お兄さま♪」
「ええ!?アタシもうお腹いっぱいだから、食べられないかもぉ……」
サーシャのオカズにまで手を出して、お腹をいっぱいにしたアリスは、商店街の露店の唐揚げなどが食べられないと思い後悔した
「姉さんはもう少し考えて行動することを覚えた方が良さそうだね(笑)」
「ははは。違いないな♪」
3日前に突然出会ったばかりの4人だったが、なかなか良い感じにコミュニケーションが取れ始めてきていた
【お土産コーナー】
「ありがとうございました!ガラガラガラ…」
宿の夫婦に代金を支払い礼を言ったヒイロは、宿を出ようと玄関扉を開けた時だった。
「わぁ、珍しいソードが置いてあるぅ!」
アリスの言葉に釣られてお土産コーナーを見たヒイロ
「おお、珍しいな。それは遠い星から来たという古代人が好んで使っていたソードで「日本刀」という物らしいぞ」
「へぇ、そうなんだぁ……ねぇお兄ちゃん。このソード買って、買ってよぉ!」
「姉さん?またワガママ言って!」
感情で行動するタイプのアリスは、目の前に見たこともない不思議な形のソードを見て、欲しい衝動が抑えられないようだ
「どうしますの、お兄さま?」
ヒイロの答えはどうなのだろう?と覗き込むサーシャ
「そうだな……すみません。この日本刀、大きいのと小さめなのを1本ずつ売ってもらえませんか?」
「やったぁ♪お兄ちゃん、ありがとう!」
「兄さん!そんな甘やかしてばかりいたら、姉さんの為にならないんじゃないかい?」
再びアリスのワガママを目の当たりにしたカルーアは、甘やかすのも程々にしようとヒイロを止めようとしたが…
「アリスのサイズに馴染むソードが、うちの予備には無くてだな。造るにしても数日は掛かるからさ、クエストに出るのに必要だからだよ」
「……ん~。それなら仕方ないか……」
ヒイロひとりの稼ぎでは4人の生活がいずれ破綻する。という話を聞いていた三姉妹。なら仕方ないか?と妥協したカルーア
「毎度ありがとうございます♪土産物ですので刃は削ってありますが、本気で当てれば相手の骨を砕くくらいは造作ないので、お取り扱いにはお気を付けてくださいね」
【帰り道】
「あれ、まっすぐ家に向かわないのかい?」
「カルーアお姉さま。先程ヒイロお兄さまは武器の修理の依頼状況を聞きに、商業ギルドに寄ってから帰ると言われてましたのよ」
「あ、あぁ。そうだったね……姉さんに振り回されて忘れてたよ。チラリ」
「やったぁ!カッコ良いなぁ♪」
亡くなった義父から借りていた古いソードで練習していたアリスは、新品の日本刀を2本も買ってもらったのが嬉しくて、ぴょんぴょん飛び跳ねていた
「アリス!人にぶつけたら大変だからな。落ち着いて歩きなさい!」
「はーい、分かったぁ!」
温泉宿に連れて行ってもらい、新品の日本刀を買ってもらったアリスは、ヒイロの注意を素直に聞いて静かに歩くのだった
続く




