襲われたアルバート家
【温泉宿からの帰り道】
温泉宿を後にした4人
「お兄さま。今日は素敵な温泉宿に連れて来て頂いて、ありがとうございましたの♪」
サーシャは満面の笑みを浮かべていた。やはり奴隷市場に居た彼女は、贅沢に無縁だったようだ
「お前達3人が本当の姉妹の様に仲良くなれるキッカケだからな、ケチケチなんて出来ないよ♪」
サーシャの過去を受け入れつつも、変に特別扱いなどはしなかったこと。お転婆なアリスの世話に追われていたカルーアも、本来の人見知りを出している暇もなかった
そんな一泊を過ごした3人は、本当の姉妹の様に仲良くなれるキッカケを得た
「姉さんは自由奔放過ぎるよw」
「だってぇ、楽しかったんだもぉん♪」
義理の三姉妹が楽しく過ごせたのなら、温泉宿に連れて来て本当に良かったと思ったヒイロ
「ところでぇ、お兄ちゃん。家に帰る道と違う気がするんだけどぉ?寄り道ぃ?」
「姉さんは人の話を聞いてなかったのかい?商業ギルドに寄る、って兄さんが言ってたじゃないか……」
「そうだったけぇ?」
「あぁ、流石に遊んでばかりいたらすぐに資金が尽きてしまうからな…そろそろ仕事もしないとな」
「サーシャが手伝えることがあれば何でも致しますから、遠慮なく言って欲しいですの♪」
「アタシも手伝うよぉ♪」
「姉さんは手伝わない方が良い気がするよ……」
「なぁんでよぉ!」
「あはは♪」
(年頃の出逢ったばかりの女の子同士の姉妹生活。もっと手間が掛かるかと思ったけど、上手くいってるみたいで良かった)
滑らかに会話する三姉妹を見て、心が和んだヒイロ。
【商業ギルド 受付】
「ガランガラン…お邪魔します!」
ヒイロは三姉妹を連れて商業ギルドにやって来た
「ヒイロさん、こんばんはお久しぶりです…6日ぶりになりますね。奥でジュリアンが待っています…どうぞ♪」
「あ!アタシと同じ獣人族のお姉さんだぁ♪」
「うふふ。私は馬科になりますけどね♪」
受付嬢で獣人族馬科のネネカさんからギルドマスターの待つ部屋に通された。
そこには細身ながら、鋭い目付きをした20代後半の男が居た
「兄さん、彼がギルマスの方なのかい?若い方なんだね」
「お嬢さん、お褒めの言葉かい?」
カルーアは先に訪ねていた冒険者の方のギルドマスターが、厳つい男性だったので、細身でカッコ良いジュリアンに驚いた
「お嬢さん達、初めましてだな。俺がギルマスのジュリアンだ、覚えてくれよ」
「ヨロシクね!ジュリアンさん」
「よろしくお願い致しますの」
アリスは元気に、サーシャは丁寧にジュリアンに挨拶を返した
「さてヒイロ、早速だが武器防具の修理依頼が8人分来ている。代金はヒイロの言い値で構わないそうだ」
「金払いの良い依頼人は助かります」
「コッチが本題なんだが…ケヌマ・ウロヤを知ってるな?」
「同じ孤児院に居たケヌマですか。発掘調査隊の見習いをしていると聞いてましたが?」
「そうだったんだがな…アイツが東の古代遺跡で何かを見つけたらしいんだが、ソレを組織に提出せずに行方を眩ましたそうだ。それに…お前の成功を妬んでるって噂だ」
ヒイロを兄として信頼し始めていた三姉妹は、彼を良く思わない男の話が出てきたので、不機嫌な顔色に変わった
「ヒイロお兄さまを妬むだなんて……」
特にヒイロと距離を縮めていたサーシャは、我慢できずに口から不満が出ていた。
【ケヌマウロヤ】
ヒイロとほぼ同じ年頃で、孤児院から発掘調査隊に就職した、ヒイロと同期の男だった
生真面目に働くのはヒイロと同じだが…コツコツと腕と信用を積み重ねていくヒイロとは反対に、ケヌマは一攫千金を狙う性格だ
「お兄ちゃんはぁ、真面目に働いてるもん!そんな不真面目な人がぁ、お兄ちゃんに勝てる訳ないもん!」
「お嬢さん達、ヒイロの事をよく分かってるんだな。その通りだ、いわゆる逆恨みってところだな。陰湿な性格な奴だ、気を付けろよ」
「そうですね。少し常識外れな行動をする奴でした……」
「それと最近、街の周辺でオークとの戦闘報告が増えている。お前への修理依頼が今後も増えるだろう。頑張ってくれよ!」
ヒイロは商業ギルドと契約している。仕事に集中すると、仕事依頼の来客が呼び鈴を鳴らしても気付けないので、ココに中継してもらっているのだ
「リヤカーを貸しますので、これで依頼品を運んでください」
「有難うございます、ネネカさん!」
ネネカから修復依頼の装備品を複数個受け取ったヒイロはリヤカーを押し、三姉妹と共にギルドを後にした
【夜の帰り道】
すっかり日も落ちかけ、辺りは薄暗くなってきていた。リヤカーを引くヒイロ。後ろからリヤカーを押すアリス。サーシャは右に、カルーアは左に並んで帰っていた
「ねぇ兄さん…さっきから気配が…」
「うん。誰かついてきてるよぉ…」
カルーアの魔法探知と、アリスの鼻がアルバート家族たちについてくる存在を感知していた
「おっと、鋭いお嬢さん達だな…小娘。動くんじゃねーぞ!」
「ひいっ!?」
物陰から現れた男がサーシャに近付き、彼女の首にダガーを押し当てた
「ケヌマか!?本当に俺を妬んでいたとはな……」
「ピーヒョロヒョロロ♪……ズシンズシン…」
ケヌマが白銀の長笛を吹くと、暗闇の中から緑色の巨漢の3体のオークが現れた
「んっ!?オークか。それと、その長笛は古代遺跡で見つけた物か?」
「その通りだ、良く知ってるな。オーク共、女どもの相手をしていろ!」
3体のオークは1体ずつ、アリス、カルーア、サーシャの前に立ちはだかった。
「ヒイロ。お前は俺の手で息の根を止めてやるぜ♪」
サーシャをオークに任せたケヌマは、腰の革袋から変わった形のナイフを取り出した
「毒を流せるナイフか……」
「よく知ってるな。流石は鍛冶屋ってとこか?貴族たちが愛用する毒牙のナイフだぜ……」
ケヌマはナイフの持ち手部分の丸ポチに指を掛けた。
「ナイフで切った時に、その丸ポチを押すと毒が流れる仕掛けのヤツだな」
「流石、よくご存知だ。しかし、丸腰の相手を襲うのは……少し気が引けるなぁ♪」
言葉とは裏腹に、薄ら笑いを浮かべてジリジリとヒイロに歩み寄っていくケヌマ。
「お兄ちゃん!コレを使ってぇ!」
リヤカーに乗せていた、温泉宿のお土産コーナーで買ってもらった日本刀の長い方をヒイロに投げ渡したアリス
「パシっ。助かったぞアリス!」
「くっ……オーク共!さっさと女どもを始末しろ!」
丸腰のヒイロをいたぶるつもりだったケヌマは、アリスに阻止され不機嫌になっていた
「アリス!カルーア!サーシャ!無理をするな、逃げろ!」
「クケケ♪そのオーク共は足も速いんだぜ。逃げられると思うなよ♪」
10代前半の三姉妹がオークに対抗出来るはずがないと考えているケヌマは、ヒイロを見ながら薄気味悪く笑った
「グオァァァ…ドサッ!」
「逃げる必要なんて無いんだけど?」
右手からの雷の光を出しているカルーアが、自分に向かって来ていたオークを軽々と撃破していた
「やるねカルーア!アタシも負けてられないんだからぁ!えぇい!」
アリスはもう1本の短い方の日本刀を持ち、オークと戦い始めたが……
「きゃあぁぁ!助けてくださいですの!」
武器も持たず、魔法も使えないサーシャがオークに追い込まれていた
「その女を人質にしてしまえ!」
「ケヌマ…ソレ以上、妹達を傷付けるなら俺も容赦はしないぞ!」
サーシャを危険に晒され、温厚なヒイロも怒りに震えていた
「はっ!この状況でテメーに何が出来る!お前の妹達は、後で俺様がトコトン可愛がってやるから安心しろ♪」
「ケヌマぁ!」
ヒイロの怒りは頂点に達した。その時ヒイロの両目は紅く染まった
「な、何だその目は?」
ヒイロが大地を蹴ると一瞬でケヌマとの間合いを詰めた。右手の日本刀でダガーを弾き飛ばすと、左手でケヌマの腹に鋭い拳を突き込んだ!
「ゲボハァッ!?」
くの字に曲がるケヌマは苦悶の表情を浮かべた
「オラァッ!」
すかさずヒイロが蹴り飛ばすと、背後の巨木にぶち当たり気を失ったケヌマ
「お兄さま…強いですの❤︎」
ヒイロは深呼吸すると、次第にいつもの目の色に戻った。そしてサーシャに近づいた
「怖い思いをさせてしまったな」
救出したサーシャをヒイロは優しく抱き留めた。
「えへへ。ちょっぴり怖かったですの♪」
涙を浮かべながらも、助けられたサーシャはヒイロに抱きつき笑顔を向けた
カルーアは雷の魔法で3体のオークを気絶させていた。アリスはリヤカーから見付けたロープでかなり強くケヌマを縛り上げた
「カルーア、強いんだな♪」
「ま、まぁね。ところで兄さん、この男はどうするんだい?」
「そうだな…リヤカーに乗せて冒険者ギルドに手渡すか」
4人は冒険者ギルドでケヌマを引渡してから、被害届を出しケヌマは逮捕された。
「く、くそぅ。こんなはずでは…」
目を覚ましたがロープで縛られているケヌマを見下ろし、サーシャは言った
「ヒイロお兄さまに嫉妬した挙句、逮捕されるなんて…とんだマヌケ野郎ですの♪」
同じ孤児院の出身ながら、牢獄に入れられたケヌマには今後、臭い飯と労働が待っている。
「お兄ちゃん、カッコ良かったよぉ♪」
「わたしも見直したよ///」
「流石はお兄さまですの♪」
ケヌマが牢獄へ連れて行かれる一方、ヒイロは三姉妹と共にアルバート家へ帰っていく。
一攫千金を夢見て近道ばかりを探した男と、目の前の仕事を一つずつ積み重ねてきた男。
二人の歩んできた道は、いつの間にか大きく違っていた。
「お兄ちゃん、帰ったら何食べるぅ?」
「姉さん、さっき露店で焼き芋を食べたばかりじゃないか……」
「ふふ♪」
そんな三人の声を聞きながら、ヒイロは笑って工房へと歩いていた。
続く




