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ヘルメスの三姉妹  作者: 龍之介21時
三姉妹との出逢い
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恥ずかしさに打ち勝て!

【ヒイロの部屋】


 次の日の朝。


「……もう、仲良さそうに寝ちゃってますの!」


 部屋に入ったサーシャは、ベッドの上で寄り添うように眠っているヒイロとカルーアを見て、思わず声を上げた。


 昨日からカルーアの様子がおかしい。


 いや、正確には、以前と比べてヒイロに対する態度が変わったと言うべきだろう。


 以前のカルーアなら、姉妹の中でも特にしっかり者として振る舞い、ヒイロに甘えることも控えめだった。ところが最近は、ヒイロと一緒にいることを以前ほどためらわなくなっている。


 昨夜も当然のように彼の隣で眠り、今もまるで離れたくないとでも言うように、ぴったりと寄り添っていた。


「……カルーア、そんなに怒るなよ……」

挿絵(By みてみん)

「……兄さん、いやらしく触らないで……」


「もう! 夢の中まで仲良くしないでほしいですの!」


 どうやら二人は夢の中でも、何やら仲良く会話をしているらしい。


 サーシャは頬を膨らませると、二人の肩を揺すった。


「兄さん! カルーア! 朝ですの! いつまで寝ているんですの!」


「ん……ああ、もう朝か」


 ヒイロが目をこすりながら起き上がる。


 その隣では、カルーアも眠そうに目を開けていた。


「……おはよう、サーシャ」


「おはようございます、ではありませんの! 二人とも、仲良く寝すぎですの!」


「何を言ってるんだ?」


「何でもありませんの!」


 サーシャはぷいっと顔を背けた。


 そんな彼女の態度に、ヒイロとカルーアは顔を見合わせる。


 どうやら、朝からサーシャの機嫌を損ねてしまったらしい。


 もっとも、二人にはその理由を深く考えるつもりはなかった。


 朝食の時間も迫っている。


 ヒイロたちは身支度を整えると、サーシャと一緒にリビングへ向かった。


 


【リビング】


「皆さん、あの……少し時間をいただけますか?」


 リビングでは、アリスとミルが朝食の準備を手伝っていた。


 テーブルを囲んで食事を始めようとしたところで、ミルが遠慮がちに手を挙げる。


「どうしたんだ、ミルくん?」


「実は、皆さんに相談したいことがあって……」


 そう言うと、ミルは一度部屋を出ていった。


 何だろうと顔を見合わせる一同。


 やがて戻ってきたミルの姿を見て、サーシャの目が大きく見開かれた。


「まあ! すごく似合ってますの! どうしたんですの、それ♪」

挿絵(By みてみん)

 そこにいたのは、セーラー服姿のミルだった。


 普段の服装とはまるで違う、可愛らしい衣装。本人は落ち着かない様子で、裾を気にしながら皆の反応をうかがっている。


「あ、あの……明日からこの服でお店に立ってほしいと、グレイスさんに言われたんですけど……」


「遊ばれてるね」


 カルーアが即座に言った。


「そうだな」


 ヒイロも同意する。


 二人には、グレイスが面白がってミルにこの服を着せようとしている姿が、容易に想像できた。


 もっとも、衣装そのものはミルによく似合っている。


 それは否定できなかった。


「ボク、どうしても嫌だって言ったんです。そしたら、『じゃあ多数決で決めましょう』って言われちゃいまして……」


「多数決?」


「はい。グレイスさんが賛成で、皆さん四人のうち三人が反対してくれたら、この服を着ないで済むんですけど……どうでしょうか?」


 ミルは期待を込めた目で一同を見渡した。


 どうやら、グレイスは最初からこの状況を想定していたらしい。


「ミルが嫌なら着なくていいんじゃないか?」


 カルーアは率直に答えた。


「まあ、似合ってるとは思うけど、嫌なら断ればいいんじゃないか?」


 ヒイロも同じ意見だった。


 無理に嫌なことをさせる必要はない。店の売り上げが上がるからといって、本人の気持ちを無視するのは違うだろう。


 しかし――。


「こんなに似合ってるんだから、着ないなんてもったいないですの❤︎」


 サーシャは最初から反対する気など、まったくなかった。


「ええっ!?」


 ミルが悲鳴を上げる。


「だって、本当に可愛いですの♪ お客さんだって、きっと喜びますの!」


「そ、そんなぁ……」


 頼みの綱だったサーシャが、まさかの賛成派。


 ミルが絶望しかけた、その時だった。


「アタシも、すごくいいと思うよぉ!」


 アリスが笑顔で手を挙げた。


「その服で働くのはありだと思う。お客さんにも喜ばれるよぉ!」


「アリスさんまで!?」


 これでアルバート家の四人は、賛成二人、反対二人。


 意見は完全に真っ二つに割れてしまった。


 そして、グレイスの賛成票を加えれば――。


「うわぁ! ボク、明日からこの服で働くことになっちゃったぁ!」


 ミルは両手で顔を覆った。


 こうなることを予想していたグレイスに、まんまとはめられてしまったのである。


 もっとも、サメ焼き屋の繁盛を考えれば、グレイスの判断にも商売上の理由はあるのだろう。


 だが、当のミルにとっては、素直に喜べる話ではなかった。


 

 朝食を済ませた一同は、改めてテーブルを囲んで話し合いを始めた。


「しかし、ミルくんのおかげでサメ焼き屋があんなに繁盛していると、家にいてもらう時間が減ってしまうなぁ。となると、四人でクエストに出かけるのは難しいな……」


 ヒイロは腕を組んで考え込んだ。


 ミルが店で働くようになったことで、家の仕事を任せられる時間は減っている。


 それ自体は喜ばしいことだ。店が繁盛すればグレイスたちも助かるし、ミル自身にとっても新しい経験になる。


 しかし、ヒイロには鍛冶屋の仕事がある。


 魔物の襲撃で破損した装備の修理依頼は、まだ大量に残っていた。


 三姉妹と一緒にクエストへ出かけている間は、当然ながら鍛冶の作業を進められない。


 このままでは、いつまで経っても仕事が片づかないのだ。


「ねえ、お兄ちゃん!」


 その時、アリスが椅子から立ち上がった。


「アタシたち、強くなったから、お兄ちゃん抜きでクエストに行っても大丈夫だと思うのぉ」


「うーん……危険なエリアを避けていけば、何とかなるかもしれないね」


 カルーアも考え込むように頷いた。


 三人は、ヒイロと一緒に冒険を続ける中で、確実に成長している。


 以前なら苦戦していた魔物にも対応できるようになったし、それぞれの得意分野も磨かれてきた。


 いつまでもヒイロに頼りきりというわけにはいかない。


「お兄さまがご一緒してくださるのは嬉しいのですけど、それだと鍛冶屋のお仕事が進みませんよね?」


 サーシャもヒイロの仕事を心配していた。


「兄さんから見て、わたしたちだけじゃ不安なのかい?」


 カルーアが問いかけると、ヒイロは少し考えてから答えた。


「そうだなぁ……三人とも強くなっているのは間違いない。でも、それぞれに弱点があるんだ。せめてそこを克服しないと、危険だと思うんだ」


「弱点があるのぉ?」


 アリスが首を傾げる。


 自分たちが成長していることには自信があったが、弱点があると言われると、思い当たることがないらしい。


「今から俺が、それぞれの弱点を教えてあげるよ。それを克服できたら、俺抜きでクエストに行ってもいいぞ」


「やる! 絶対にやる! どんな訓練でも頑張るんだからぁ!」


 アリスは迷うことなく答えた。


 妹たちだけで冒険に出られるようになる。


 それは、三姉妹にとって大きな一歩だ。


「そうか。じゃあ今から着替えて、ソードを持って中庭に来てくれ」


「え、着替えるの?」


 アリスは不思議そうに首を傾げた。


 訓練をするのだから、動きやすい服に着替えるのだろうか。


 そう考えたアリスだったが、ヒイロはそれ以上の説明をしなかった。


 


【アルバート家の庭】


 中庭に出ると、ヒイロは木剣ではなく、訓練用の刃を削ったソードを手にして待っていた。


 アリスもソードを二本持ち、彼と向かい合う。


 ただし、その格好は普段の訓練とは大きく違っていた。


「ね、ねえ、お兄ちゃん。どうしてアタシ、パジャマで戦わないといけないのかなぁ?」

挿絵(By みてみん)

 アリスは、自分の服装を気にしながら尋ねた。


獣人族には、寝る時に裸で過ごす者も少なくない。


 アリスもアルバート家で暮らし始めた頃は、そうした習慣に従って裸で寝ていた。


 しかし、ある時カルーアから「さすがにそれは……」と指摘され、彼女の言いたいことを察したアリスは、サーシャが用意してくれたパジャマを着るようになったのだ。


 もっとも、寝る時に下着まで着ける習慣はなかった。


 アリスにとっては、パジャマを着て寝るようになっただけでも、共同生活に合わせた大きな変化だったのである。

 


「そこにアリスの弱点があるからだよ。とりあえず、普通に訓練を始めようか?」


「う、うん……」


 理由は分からないが、ヒイロが必要だと言うのなら、やってみるしかない。


 アリスは気持ちを切り替え、二本のソードを構えた。


「いくよ、お兄ちゃん!」


「ああ、来い!」


 アリスが踏み込む。


 二本の剣が連続して振るわれ、ヒイロの防御を揺さぶった。


 以前と比べて、剣の扱いは格段に上達している。左右の剣を使い分ける動きにも迷いが少なくなり、攻めの勢いも増していた。


 ヒイロは攻撃を受け流しながら、アリスの動きを観察する。


 パジャマ姿であることを気にしていたアリスも、戦いに集中するうちに次第に慣れてきたようだった。


「えいっ! それっ!」


 アリスの連撃が続く。


「くぅ! やるなアリス」


 ヒイロは防戦に回りながらも、彼女の剣筋を確かめていた。


 数分も経つ頃には、アリスはパジャマ姿で戦うことへの戸惑いを忘れ、ヒイロを押し始めていた。


「おお、なかなかやるじゃないか」


「えへへ! この調子なら、お兄ちゃんにも勝てちゃうかも!」


 アリスは得意げに笑う。


 その様子を見ていたヒイロは、頃合いだと判断した。


「サーシャ。水魔法でアリスの服を濡らしてくれ」


「えっ!? いいんですの? やります、やらせてほしいですの♪」


 サーシャの目が輝いた。


 姉に水魔法を使っていいという、またとない機会である。


 彼女は嬉々として魔力を練り上げると、アリスに向かって水魔法を放った。


「えっ、ちょっ――きゃーっ! 冷たいよぉ!」


 水がアリスのパジャマに降り注いだ。


「サーシャぁ! いきなり何するのぉ!」


「ヒイロお兄さまのご指示ですの♪」


「そうだけどぉ!」


 アリスは抗議しながら、自分の服を見下ろした。


 水を吸った薄いパジャマが肌に張りつき、普段とは違う感触が伝わってくる。


 その瞬間、アリスはようやく自分の置かれた状況を理解した。


「あ!? 姉さん、パジャマが濡れちゃってるけど……下着、着けてなかったの?」


「えっ!?」


 サーシャの言葉に、アリスは自分の服を見直す。


 そして、顔がみるみる赤くなった。


「あ、あああっ! 見ないでぇ!」

挿絵(By みてみん)

 アリスは慌てて身体を隠そうとする。


 さっきまで勢いよく振るっていた二本のソードは、いつの間にか構えが崩れていた。


 ヒイロを押していた時の勢いは、完全に消えている。


「そこだぞ、アリス!」


動きが鈍くなったアリスに、容赦なく攻め込むヒイロ。


 恥ずかしさに意識を奪われたアリスは、目の前の相手と戦うことすら忘れかけていた。


 その様子を見つめながら、ヒイロは静かに彼女の反応を確かめていた。




続く。

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