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ヘルメスの三姉妹  作者: 龍之介21時
三姉妹との出逢い
39/44

解除(リライト)して

【コテージ内】


ヒイロとカルーアがハブニアンの群れに襲われ、大変な事態に陥っていた頃――。


コテージで留守番をしていたアリスとサーシャにも、ちょっとした事件が起きていた。


「サーシャ、まだ痛むのぉ?」


足をかばうように歩くサーシャを見て、アリスが心配そうに尋ねた。


「え? 痛みはほとんどないんですが、まだいつものようには動かせなくて……」


「うーん……あ、薬箱があるから、これでちょっと治療してあげるねぇ♪」


「いいんですの?」


「うん!その椅子に座ってねぇ♪」


アリスはにこやかな笑顔でサーシャを促した。


普段なら、仲間の面倒を見る側であることが多い回復役のサーシャ。しかし今回は珍しく、アリスに自分の怪我を手当てしてもらうことになった。


言われるがまま椅子に腰掛け、足を台の上に乗せる。


「少しヒヤッとするけど我慢してねぇ♪」


アリスは濡らしたタオルで足首の周囲を丁寧に拭くと、すりつぶした薬草をそっと塗り、その上から包帯を軽く巻いてくれた。


「これで、サーシャの足が治ってくれるといいなぁ♪」

挿絵(By みてみん)

そう言って、純粋な笑顔を向けるアリス。


その笑顔を見たサーシャの胸に、ある考えが浮かんだ。


(これは、もしかして……アリスお姉さまは、サーシャのことが好きなんじゃありませんの?)


カルーアの可愛らしい反応も好みではある。けれど、長女であるアリスから、こんなにも無邪気な笑顔を向けられると、サーシャの胸の奥で眠っていた欲望が、むくむくと頭をもたげ始めた。


「だ、だいぶ良くなってきましたの」


「そうなのぉ? よかったぁ♪」


アリスは心底嬉しそうに笑った。


(うう……なんて純粋なお方なんでしょう……)


……などと思いながらも、サーシャの頭は別の考えでいっぱいになっていく。


「あの……アリスお姉さまは、いつもパーティーの前衛で頑張ってくださっていますから、今度はサーシャが回復魔法とマッサージを同時にして差し上げたいのですけど?」


「うん? そんなに疲れたり、ダメージを受けたりはしていないんだけどぉ?」


アリスは不思議そうに首を傾げた。


「いえいえ! お姉さまは普段から頑張っておられますから、筋肉や骨には、かなりの疲労が残っているはずですの。マッサージで疲労を回復すれば、訓練もより一層身について、もっと早く、もっと強くなれると思いますわ!」


「えっ、そうなのぉ? アドルフさんみたいに強くなれるかなぁ?」


「もちろんですの!」


「じゃあ、お願いねぇ♪」


あっさりと了承するアリス。


もちろん、彼女はサーシャの邪な企みなど、これっぽっちも疑っていなかった。


サーシャはさっそく、アリスの背中を服の上から指圧し始めた。


(はぁ……なんて柔らかく、かつ弾力のあるお背中なのでしょう……。直接触れたら、もっと素晴らしい感触が得られるのでは……)


「どうしたの、サーシャ?」


急に黙り込んだサーシャを、アリスが不思議そうに振り返る。


「い、いえ! 薬草を塗ってからマッサージをして、回復魔法をかければ、もっと効果が出ると思うんですけど?」


「そうなのぉ? じゃあ、やってもらえるぅ?」


まったく警戒していない。


その無防備な返事に、サーシャの期待は一気に膨れ上がった。


(こ、これは……アリスお姉さまも、サーシャとのスキンシップを受け入れてくださるということですわね!)


「では、薬草を塗りますので、少し服をずらさせていただきますね」


「うん、お願いねぇ♪」


アリスは何の疑いもなく、サーシャに背中を向けた。


本人の了承を得て、アリスの服を少しずらしたサーシャは、すりつぶした薬草を手のひらに広げ、回復魔法をかけながら、アリスの背中を丁寧にマッサージしていく。

挿絵(By みてみん)

(はぁ……なんて、もちもちすべすべで弾力豊かなお体なんですの! これだけで、ご飯三杯はいけてしまいますわ♪)


マッサージをしているはずのサーシャの方が、天にも昇るような気持ちになっていた。


アリスの背中を見つめるたび、心の中で膨らんでいく欲望。


(あぁ、このお身体もサーシャだけのものにしたいですの❤︎)


やがてサーシャは、ついに一歩踏み込んだ提案を口にした。


「あ、あの……アリスお姉さま。よろしければ、前の方もマッサージいたしましょうか?」


「えっ? さすがに、そこまでしてもらうと、怪我をしているサーシャに悪いよ。背中だけで十分だよ。ありがとうねぇ♪」


そう言って、アリスはサーシャの方を向き、にっこりと笑った。


その瞬間――。


ズキューン!!


サーシャの心に、強烈な衝撃が走った。


(……ああ、サーシャは……こんなにも純粋なアリスお姉さまに向かって、なんて不埒な思いを抱いていたのでしょう……!)


自分の欲望に浮かれていた心が、アリスの無垢な笑顔によって、一瞬にして冷え込んでいく。


「お姉さま……」


「どうしたの、サーシャ?」


「……あの、マッサージは終わりましたから、お洋服を着てもらっていいですの?」


「そう? ありがとうねぇ♪」


服を整えたアリスは、ふとサーシャの顔を覗き込んだ。


「ん? どうしたのぉ? なんだか、すごく真剣な顔をしているよぉ?」


サーシャは深くうつむいた。


そして――。


「申し訳ありませんでした!!」


その場に座り込むと、アリスに向かって深々と土下座した。


「ちょ、ちょっと!? どうしたの、サーシャ!?」


アリスが慌てて声を上げた、その時だった。


ガチャリ。


コテージの扉が開いた。

挿絵(By みてみん)

「お待たせ。戻ったよ……って、何やってんのさ?」


戻ってきたカルーアは、二人が仲良くくつろいでいるものと思っていた。


しかし、彼女の目の前に広がっていたのは、アリスに向かって深々と土下座するサーシャの姿だった。


「サーシャ!? あんた、一体何をしたんだい?」


「な、何もしていませんわ!」


「いや、何もしていない人間が、そんな勢いで土下座するかい!?」


「ええっと……サーシャ、どうしたのぉ?」


困惑するアリス。


サーシャは必死にごまかしたものの、カルーアはどうにも納得できなかった。


(……絶対、アリスに何かやらかしたね、こいつ)


そんな疑念を抱きながらも、カルーアには気にしていることがあった。


馬車にかけた認識阻害の魔法が、そろそろ限界を迎えるのだ。


残された時間は、あと二時間ほど。


「とにかく、兄さんと合流しよう。鉱石の採取も、まだ終わっていないんだからね」


こうしてカルーアは、サーシャとアリスを連れてヒイロと合流した。



その後、四人は再び鉱石の採取へと向かい、必要な分を手早く確保。無事に馬車のもとへと戻ってきた。


「それじゃあ、認識阻害(アンコンシャス)を解除(リライト)するよ」


カルーアが魔法を唱える。


馬たちが襲われないように、馬車ごと周囲から認識されにくくしていた魔法が解除されていく。


清らかな光が馬車を包み込むと、そこには二頭の馬に繋がれた馬車が、再び姿を現した。


馬たちの前に置いておいた食事と水は、ほとんど空になっていた。


「カルーア、ご苦労さま」


ヒイロに労いの言葉をかけられ、カルーアは嬉しそうに頬を染めた。


「べ、別に……これくらい、どうってことないよ」


照れ隠しのように答えるカルーア。


そんな姉の姿を見て、アリスも笑顔を浮かべた。


「カルーア、ありがとうねぇ♪」


「う、うん……」


カルーアはますます照れくさそうに視線をそらした。


その光景を見ていたサーシャは、再び自分の心の汚れ具合を恥じた。


(アリスお姉さまの純粋な笑顔にも、カルーアお姉さまの照れた顔にも……サーシャは、なんという邪な心を抱いてしまったのでしょう……!)


そして、サーシャは意を決してカルーアに向き直った。


「カルーアお姉さま! お願いがありますの!」


「ん? 何だい?」


「私の汚れた心も、リライトしてほしいですの!」


「……は?」


カルーアは、ぽかんと口を開けた。


「いや、何を言ってるんだい、サーシャ。この魔法は、心の汚れを取り除く魔法じゃないんだよ?」


「いえ、それでもいいんですの! どうか、お願いしますわ!」


「いや、だから……」


必死に頼み込むサーシャを見て、カルーアは困ったように頭をかいた。


「よく分からないけど……まあ、一応やってみるよ」

挿絵(By みてみん)

「ありがとうございますの!」


こうしてサーシャは、カルーアからリライトの魔法をかけてもらった。


もちろん、心の汚れを取り除く効果などない。


それでも、魔法の光に包まれたサーシャは、ほんの少しだけ心が清らかになったような気がした。


――ただし。


彼女の下心まで、きれいさっぱり解除されたわけではなかった。


こうして四人は、採取した鉱石を馬車に積み込み、アルバート家へと帰っていった。



続く。

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