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ヘルメスの三姉妹  作者: 龍之介21時
三姉妹との出逢い
34/44

踏み出す一歩

【サメ焼き屋】


商業ギルドを出たアリスは、急いでサメ焼き屋へ向かっていた。


「えっとぉ……ミルくんとキャルトちゃん、もう戻ってるかなぁ?」


店へ到着すると、そこにはグレイスが一人で立っていた。


「おっはよー……って、あれ?」


店内では、グレイスが一人で慌ただしく料理を作っている。


「グレイスちゃん、ミルくんとキャルトちゃんはぁ?」


「にゃんか、あの警備の男の子が、アリスちゃんちのサーシャちゃんに謝りたいことがあるって言うから、キャルトもミルについて行ってしまったんだにゃ」


グレイスは料理の手を止めることなく答えた。


「思いのほか、お客さんが早く来始めてるから、一人だと手が回らないにゃ。ちょっと手伝ってもらえないかにゃ?」


「ほえ?」


アリスは店内を見回した。

確かに、夕方前だというのに、すでに何人もの客が席についている。


「アタシでいいのぉ?」


「お願いするにゃ!」


「うーん……自分で言うのもなんだけどぉ……アタシ、料理凄く下手くそなんだけどぉ……」


「簡単なことだけでもいいから手伝ってほしいにゃ!」


グレイスに頼まれ、アリスは少し困ったように頬をかいた。


料理。

それはアリスにとって、できれば避けて通りたい分野である。


だが、目の前で一人必死に働いているグレイスを放っておくこともできなかった。


「……うん、わかったぁ」


こうしてアリスは、キャルトが戻ってくるまでの間、慣れない調理の手伝いをすることになった。


「えっと……これをこうしてぇ……?」


「アリスちゃん、それはこっちにゃ!」


「は、はいっ!」


「それは焼く前に並べるにゃ!」


「わかったぁ!」


「アリスちゃん、そっちは――」

挿絵(By みてみん)

「わぁぁぁ!待って待ってぇ!とりあえず野菜刻んでるねぇ……」


「い、いらっしゃいませにゃ」


サメ焼き屋の厨房では、しばらくの間、アリスの悲鳴が響いていた。




【アルバート家 玄関】


「すいません、帰りました」


ミルが大きな荷物を背負い、自信なさげに玄関の扉を開けた。


「ああ、ミルくん。遅かったじゃないか。何かあったのかい……おや?」


カルーアがミルの後ろを見る。


そこにはキャルトと、警備隊の制服を着た少年が立っていた。


「キャルトちゃんもいるじゃないか。それに……その警備隊の服を着た少年は?」


カルーアは少年の顔をじっと見つめた。


「ん?」


どこかで見たことがある。

だが、どうしても思い出せない。


そんなカルーアの様子を見て、ミルが口を開いた。


「すみません、サーシャさんを呼んできてもらえませんか?」


「いいけど……何かあるんだね?」


カルーアは少し首を傾げた。


「ちょっと待ってて。呼んでくるよ」


理由はよく分からなかったが、ミルが言うのなら問題ないだろう。

カルーアはそう判断し、サーシャを呼びに行った。


しばらくすると、カルーアはサーシャを連れて戻ってきた。


そして――。

サーシャと少年の目が合った。


「あ!」


サーシャの表情が変わる。


「あなたは……」


サーシャは、すぐに少年のことを思い出したようだった。


「あの……まだこの町に残っていて、ごめんなさい」


少年は申し訳なさそうに頭を下げた。


「ジュリアンさんが、警備隊でやり直せと言ってくれた言葉に甘えてしまって……」


「姉さん、彼は誰なんだい?」


カルーアが尋ねる。


「私も見覚えがあるような気がするんだけど、はっきり思い出せないんだ」


すると少年が、おずおずと口を開いた。


「あの……俺、十日ぐらい前にサーシャちゃんを誘拐しようとした……」


「え?……ああ!?」


カルーアの声が家中に響いた。


「そういうことかい!あの時の――!」


「カルーアお姉さん、すみません。サーシャがお話しします」


サーシャがカルーアを制する。

そして少年の前へ歩み寄ると、両手を腰の前で合わせ、背筋を伸ばした。


「今日は、どういったご用件でいらっしゃったんですの?」


少年はしばらく俯いていたが、やがて意を決したように顔を上げた。


「これからも、同じヘルメスの街にいるので……俺の顔を見ると、サーシャが驚いてしまうんじゃないかと思って」


少年は拳を握る。


「その前に、きっちりと謝りに来たかったんだ」


そして、深く頭を下げた。


「警備隊で心を入れ替えて、やり直すから……よかったら、この前のことを水に流してもらえませんか?」

挿絵(By みてみん)

その姿を見ていたカルーアは、腕を組んだ。


「その言葉を信じていいのかい?」


少年が顔を上げる。


「この前、この男はサーシャにナイフや毒まで使おうとしていたんだろう?」


カルーアの表情は険しい。


アルバート家に来てから二週間ほど。

最初は遠慮していたカルーアだったが、今では少しずつ、この家で暮らす者たちを家族として大切に思うようになっていた。


だからこそ――。

ヒイロやアリス、サーシャを傷つけようとした相手を、簡単に信用することなどできなかった。


「もちろんです!」


少年は真っ直ぐにカルーアを見る。


「今までは、人を傷つけて、人を騙して生きてきました。でも、これからは違います」


「……」


「人を助けて、人に優しくして生きていきたいと思っています。本当です。信じてください!」


少年は再び深く頭を下げた。


「そうは言ってもね……」


カルーアはまだ納得していない。

その時だった。


サーシャが、頭を下げている少年の頭へ、そっと手を置いた。


「今度は、ちゃんと正しい道を見つけたんですのね」


少年が驚いて顔を上げる。


「応援していますから、頑張ってほしいですの」


「サーシャ!?」


カルーアが目を丸くする。


「そんな簡単に信じていいのかい?」


サーシャは穏やかに微笑んだ。


「はい。サーシャは彼を信用しようと思いますの」


「……」


「カルーアお姉さまは、そんなサーシャを信じてほしいですの」


しばらく黙っていたカルーアだった。

やがて、小さく息を吐く。


「……まあ、サーシャ自身がそこまで言うのなら、私はこれ以上何も言わないよ」

挿絵(By みてみん)

(やれやれ、相変わらずサーシャは天使のように優しいね。危ない気もするけど……文句も言えないな)


「ありがとうございます!」


少年は深々と頭を下げた。


「サーシャ、カルーアちゃん。今までの分も含めて、俺は真面目に行きますから。よろしくお願いします!」


「頑張ってくださいですの」


「……本当に、もう悪いことはするんじゃないよ」


「はい!」


少年はもう一度頭を下げると、立ち上がった。


「では、自分の仕事に戻りますから」


(やっぱりサーシャは最高の女だった……幸せになってくれ)


そう言って、少年はアルバート家を後にした。


その姿を見届けたキャルトも、穏やかな笑顔を浮かべる。


「じゃあ、私もお姉ちゃんがお店で待ってるから、これで失礼するにゃん」


キャルトは手を振りながら、サメ焼き屋へ戻っていった。




【サメ焼き屋】


十数分後。


「ただいまにゃん」


サメ焼き屋へ戻ってきたキャルトは、店内を見回した。

そして――。


「……」


目を丸くする。

そこには、汗だくになりながら必死に働いているアリスの姿があった。


「い、いらっしゃいませぇ!」


アリスは慣れない作業に追われ、完全に余裕を失っていた。


グレイスも必死に調理を続けている。

夕方前だというのに、思っていた以上に客が増えていたのだ。


「お姉ちゃん、手伝うにゃん!」


キャルトもすぐに作業へ加わった。

すると――。


「キャルトちゃんだ……助かったぁ……」


アリスの顔が明らかに明るくなった。

そして、ふと何かを思い出す。


「あ!」


「どうしたにゃん?」


「アタシのソード!商業ギルドに置きっぱなしだったぁ!」


「そうなのにゃん?」


「取りに行かなくちゃ!」


アリスは大急ぎで立ち上がった。


「じゃあグレイスちゃん、頑張ってねぇ♪」


「アリスちゃん、ちょっと待つにゃ!」


しかし――。

アリスはすでに店を飛び出していた。

キャルトが戻ってきたことで、見事に仕事から解放されたのである。


「……逃げたにゃ」


「……逃げたにゃん」


グレイスとキャルトは顔を見合わせた。




【商業ギルド】


「すみませーん!また来ちゃいましたぁ!」


アリスは、まるで友達の家でも訪ねるような気軽さで商業ギルドの扉を開けた。


すると、目の前に意外な光景があった。


ギルド長のジュリアンが、椅子に座っていちごパフェを食べていたのだ。


「あ!いちごパフェおいしそう!」


アリスの目が輝く。


「アリスちゃん、戻ってきたのか」


ジュリアンはスプーンを持ったまま苦笑した。


「これはキャルトちゃん救出に頑張ってくれたキミへのご褒美だったんだが……さっき、キミがすぐに出て行っちゃっただろ?」


「うん」


「もったいなかったから、俺が食べていたんだが……」

挿絵(By みてみん)

「えぇ!?アタシもいちごパフェ食べたいよぉ!」


「今からデザート屋にでも連れて行って食べさせてあげたいところだが……」


ジュリアンは少し困った顔をする。


「今夜、俺は町の会合に出なくちゃならないからな」


「会合?」


「ああ。夜のパーティーってやつだ」


「夜のパーティー……」


アリスの耳がぴくっと動いた。


「じゃあ、また今度の日でいいか?」


「えぇ、そうなのぉ?」


残念そうなアリス。

しかし次の瞬間――。


何かを思いついたように顔を上げた。


「夜のパーティーってことは、大人のパーティーっていうことだよねぇ!」


「まあ……そうとも言えなくもないが」


ジュリアンは首を傾げる。


「それがどうしたんだ?」


「大人のパーティーといったら、レディが嗜む行事よねぇ!」


アリスは胸を張った。


「今回、いちごパフェのことは諦めるからぁ……アタシもそのパーティーに連れてってよぉ!」


「え?」


ジュリアンは目を丸くした。


「いや、しかし……未成年が参加するような場所じゃないんだが……」


「へえ~?アタシへのご褒美、食べちゃったのにぃ?」


「うっ……」


ジュリアンが言葉に詰まる。


「……仕方ないな。今回だけだぞ」


「やったぁ!」


「ただし、俺のそばから絶対に離れるなよ。俺も注意して見ておくから」


「はーい♪」


「ネネカ、すまん。ちょっと頼まれてくれねえか」


ジュリアンは奥の部屋で、街の帳簿をつけているネネカの居る部屋に、声をかけたのだった




続く。

【次回更新のお知らせ】

次回の「ヘルメスの三姉妹」は、10月12日(月)の祝日に投稿予定です。

もちろん、いつものように火曜日の10月13日にも投稿予定しています。


通常の更新日とは異なりますので、お間違えのないようお願いいたします。


次回は、アリスがちょっとだけ「大人の世界」へ踏み出します。

お楽しみに♪

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