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ヘルメスの三姉妹  作者: 龍之介21時
三姉妹との出逢い
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サメ焼き屋と街の人々

【ヘルメスの街】


ヘルメスの町では、数日前のゴブリンの大襲撃によって、今もあちこちで復旧作業が続いていた。


 メイン通りも例外ではない。


「うーん……ここ、しばらく通れないみたいだねぇ」


 道路工事のために封鎖された通りを見ながら、アリスが首を傾げる。


「仕方ないな。少し遠回りになるけど、裏路地を通ろうか」


 アルバート家族は、裏路地へと入っていく。


 しかし――。


「だから、払わねえと店を差し押さえるって言ってんだろうが!」


「ひっ……!」


 少し進んだところで、怒鳴り声が聞こえてきた。


 見ると、ガタイのいい男が、猫耳の少女を壁に押し付けている。


「ちょっと……!」


 ヒイロが助けに向かおうとした、その時だった。


「お兄ちゃんはサーシャたちを見てて」


 アリスが腰のソードを抜く。


「大丈夫だから」


 そう言うと、アリスは少女と男の間へ割って入った。


「その子から離れてよ!」

挿絵(By みてみん)

「なんだぁ?よそ者が邪魔するんじゃねえよ!」


 男が怒鳴る。


 だが、その男がヒイロの姿を見た瞬間、表情が変わった。


「ヒイロさんじゃありませんか!」


「ああ! もしかして、時々うちに修理を頼みに来るゴローさんですか?」


「そうですそうです!」


 どうやら男は、ヒイロの鍛冶屋を利用している客だったらしい。


 ゴローは頭を掻きながら、事情を説明し始めた。


 彼はこの一帯を管理している男であり、この区画の裏路地で店を出す者から、場所代を徴収しているという。


そして、目の前の猫耳少女――グレイスと、その妹が経営しているのが、小さなサメ焼き屋だった。


「でも、最近どうにも売り上げが悪くてな。管理費を払えねえってんで、催促してたところなんですよ」


「なるほど……」


 ヒイロがグレイスを見る。

 すると、その顔に見覚えがあることに気づいた。


「あ!?」

「にゃ?」

「この前、アリスからネックレスを奪おうとした子じゃないか!」


「あ、本当だぁ」


 アリスも思い出したようだ。


「なんだ、こいつ。よそでも悪さしてたのか」


 ゴローが呆れたように言う。


「だったら、あんたらも邪魔しないでくれ。俺だって好きで怒鳴ってるわけじゃねえんだ。払ってもらわなきゃ、こっちも困るんだよ」


 その言葉にアリスは黙り込んだ。

 しばらく考えた後――。


「……でも、困ってる子は見捨てられないもん」


「姉さん……ネックレスを奪おうとした相手を助けるのかい?」


 カルーアが尋ねる。


 アリスは迷わなかった。


「困ってるなら、助けるよぉ!」


 ヒイロはそんなアリスを見て、ふっと笑った。


「アリスなら、そうだろうな」


 そしてゴローへ向き直る。


「ゴローさん。俺たちの付き合いもあるじゃないですか。ここは、見逃してやってもらえませんか?」


「……仕方ないですね」


 ゴローはため息をついた。


「今回ばかりはヒイロさんの顔を立てます。ただ――」


 鋭い目をヒイロへ向ける。


「町じゃ人気者のあんたでも、あんまり裏路地の事情には首を突っ込まない方がいいですぜ」


 そう言い残し、ゴローは去っていった。


 その後、ヒイロたちはグレイスに妹たちを呼ばせて、一緒にアルバート家へ連れて帰った。




【アルバート家リビング】


 事情を聞いたアルバート一家は、しばらく黙り込む。


 グレイスたちは表通りで店を出したかった。

 だが、表通りでは場所を借りるための最初の費用――いわば敷金や礼金のようなものが必要になる。


 そんな大金は、孤児の姉妹にはとても用意できなかった。だから、初期費用の安い裏路地で店を始めた。


 ところが、そこには別の問題があった。


 裏路地では、悪党たちから店を守ってもらうために、管理費を払わなければならない。


 その費用を払えるほど、店は繁盛しなかった。


 追い詰められたグレイスは、自分の身体能力を使って盗みを始めてしまったのだ。


「そういうことだったのか……アリス。どうする?アリスは助けたいのか?」


 アリスは少し考えた。

 そして、優しい声で答えた。


「うん。助けたい」


「良いのか?」


「だって……お店の働きで生活できてたら、泥棒なんかしなかったでしょ?」


 その言葉を聞いていたサーシャが、小さくため息をついた。


「やれやれ……アリスお姉さまは仕方ないですの」


 そしてヒイロを見る。


「お兄さま。あれを持ってきてもいいですか?」


「そうだな。持ってきてくれ」


 サーシャは部屋を出ていった。

 数分後。

 戻ってきたサーシャが、両手で抱えるようにして持ってきた袋をテーブルの上へ置く。


 ――ドシン!


 袋の中には、大量の金貨が詰まっていた。


「これで全額足りるわけではないだろうが……一銭もないよりかは、可能性があるはずだ」


 それは先日、イシスの英雄アドルフのクレリアソードを修理した報償金。

 百万ゼニー。

 ヒイロにとっては、これまで手にした中でも桁違いの大金だった。


「す……すごいにゃ……!」


 グレイスの目が輝く。


 その瞬間、彼女の意識は完全に金貨へ吸い寄せられていた。ヒイロはそんなグレイスを見て、少し目を細める。


「……グレイス」

「にゃ?」


「窓の外を見ろ」

「にゃにゃ?」


 ヒイロが指差した先には、アルバート家の裏庭がある。


 そこには、以前のゼノスとの戦いで大きく抉れ、焼け焦げた地面が残っていた。


「あれは、この前魔族の男と戦った時にカルーアが放った魔法で、あんな状態になったんだぞ」

挿絵(By みてみん)

「……」

「盗もうとか考えるなよ?」


 グレイスの妹が、恐る恐る窓の外を見る。そこにはまるで、火の精霊が暴れ回った後のような光景が広がっていた。


 その横ではカルーアが腰に手を当て、少し得意げに笑っている。


「ふふん♪」


 (そこで上機嫌になる、カルーアお姉さまは可愛いですの///)


サーシャが桃色の目線を送っていた。



 話し合った結果、まずは表通りで店を出せる場所を探してみることになった。


 その前に、サーシャが昼食を用意する。


 久しぶりにまともな食事を口にしたグレイスたちは、夢中になって箸を動かしていた。


「お、おいしいにゃ……!」


 妹も無言で食べ続けている。

 そして――。


「……ミルも、もっと食べていいからね」


「はい♪」


 アルバート家に来ていた少年、ミルも嬉しそうに食事をしていた。


 食事を終えると、グレイス、ヒイロ、アリスの三人は、店を出せそうな場所を探し町の中央通りへ向かった。

 しかし――。


「なかなか見つからないねぇ」


 アリスがぼやく。


 数日前のゴブリン大襲撃の爪痕は、まだ町の至るところに残っていた。

 壊れた建物。

 荒れた道路。

 通行できなくなった通路。

 とても新しい店を出せるような場所は見つからない。


「町を仕切ってる人にでも話を聞けたら、何とかなるかにゃあ~?」

 

「そうだ!ジュリアンさんに直接聞きに行こう!」




【商業ギルド長室】


商業ギルドを訪れた三人は、すぐにギルド長室へ通された。そこには、立派な椅子にふんぞり返るジュリアンがいた。


「なるほど。店を出したい、というわけだな」


 ヒイロから事情を聞いたジュリアンは、顎に手を当てる。


「実は俺も困っていてな。この前のゴブリンどものせいで、飲食店もかなり経営できない状態になっている」


「じゃあ……!」


「こういう状態が長く続けば、町の活気にも影響する。新しい店ができるなら、俺としても助かるのだが――」


「本当かにゃ!?」


 グレイスが身を乗り出す。


「一生懸命頑張るから、力を貸してほしいにゃっ!」


「……ところで、一つ聞きたいことがあるんだが……」


「にゃ?」


 ジュリアンの口元が、わずかに笑った。


「最近、この町で窃盗を繰り返している悪いグレイキャットという、猫科の盗人がいると聞いている」


 ジュリアンの視線が、ちらりとグレイスに刺さる。


「……んにゃ!」


 グレイスの身体が固まる。

 アリスも固まった。

 まるで石像である。

 ヒイロは心の中で呟いた。


(うわ……これ、絶対グレイスが犯人だって分かって言ってるやつだ)


 ジュリアンはさらに続ける。


「お前たち、その犯人に心当たりはないか?」


「……」


 グレイスは黙り込む。


「そういえば、お前も猫耳だな」


「え、あ、それはにゃあ……」


 答えに詰まるグレイス。

 するとジュリアンは突然、大笑いした。


「ははははは!」


「え?」


「まあ、俺は別に、そいつを是が非でも捕まえたいわけじゃない」


 ジュリアンは、グレイスに向けて手を差し伸べるポーズをした。


「心を入れ替えて真面目に働いてくれるなら、それで万々歳だ。もし、お前たちがそいつを真面目に働かせる手助けをしてくれるなら――」


 ジュリアンはニヤリと笑う。


「とっておきの場所と、店を出すための資金を融資してやってもいいぞ?」

挿絵(By みてみん)

「本当かにゃ……?」


「ああ。本当だ」


 グレイスの目に、再び光が宿る。

 しばらく黙っていた彼女は、ゆっくりと顔を上げた。


「……ごめんなさいにゃ」


 そして、その場で深々と頭を下げる。


「私が盗みをしていたグレイキャットにゃ!今日から心を入れ替えて、真面目に働くから助けてほしいにゃ!」


 ジュリアンは大笑いした。


「そうか! お前だったのか!」


 そして満足そうに頷く。


(絶対に知ってたよねぇ!)


アリスは心の中で叫んだ。


「いいだろう。心を入れ替えたかどうかは、こちらでも監視させてもらう。その代わり――」


 ジュリアンはグレイスを見る。


「お前の店の料理、俺にも味わせてもらうぞ」


「もちろんにゃ!」


 グレイスが元気よく答えた。



それから一週間後。


 町を守る警備隊詰め所の真横に、一軒の店が開店した。


 看板には大きく――

 『サメ焼き』

 と書かれている。


「いらっしゃいませにゃー!」

「はい、どうぞ!」


 グレイスと妹が忙しそうに働き、その隣ではアルバイトのミルが一生懸命に客へ商品を渡している。


 店の前には大勢の客。

 どうやら店は大繁盛のようだ。

 少し離れた場所から、その様子をヒイロとアリスが眺めていた。


「ちゃんと働いてるねぇ」

挿絵(By みてみん)

「ああ、そうだな」


 ヒイロも優しく笑う。

 そこへジュリアンがやって来た。


「うん。真面目に働いているようだな」


「ジュリアンさん。今回は本当に助かりました」


「いやいや、構わんさ」


 ジュリアンは笑った。


「実はうちの隊員の中にも、あのサメ焼きのファンが何人かいてな」


「へぇ」


「かくいう俺もだがな」


「え?」


「裏路地の店だから、ちょくちょく買いに行けないと、うちの者がぼやいていたのを聞いていてな。それなら詰め所の横で働かせれば、うちの者も気軽に買いに行けるだろう?」


 ジュリアンはニヤリと笑う。


「それに、ちゃんとあの猫耳少女が働いているかどうかも監視できる」


「はぁ……」


「ここなら裏路地でたむろしているゴロつきどもが、ちょっかいを出してくることもない。いいアイデアだろ?」


「……はい」


 ヒイロが苦笑する。

 ジュリアンはまた大笑いした。

 その横でアリスは、冷や汗を流していた。


(この人……怒らせると怖いことになりそうだなぁ……)


「それじゃあ俺たちも買いに行きましょうか?少しお客さんも少なくなったことだし。三人分、俺が出しますよ」


 結局、アドルフからもらった報償金をほとんど使わずに済んだので、今日はヒイロの奢りだ。


「いらっしゃいませにゃ!」


 店へ近づくと、グレイスたちが笑顔で迎えてくれた。


 サメ焼きを受け取ったヒイロは、グレイスに尋ねる。


「店の方は順調か?」


「順調といえば順調にゃ。でも、ちょっと困ったことがあるにゃ」


「困ったこと?」


「実は結構暇な時間もあるんにゃ」


 グレイスはミルを見る。


「このミルくん、他に働くところがないから、まだまだ生活が苦しいみたいなんにゃ。妹の分は何としても私が何とかするけど、ミルの生活まで保証するのは難しいんにゃ」


「なるほどな……」


 ヒイロは少し考えた。それからアリスと、家で留守番しているカルーアとサーシャたちの分も買い、ミルのことを相談してみることにした




続く。

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