未だ消えぬ火種
【アルバート家の中庭】
「……ロ、…イロ、ヒイロ!」
「だ、誰だ!?」
聞き覚えのある声に、目を覚ましたヒイロ。
「家の中庭!?」
ヒイロがその声で目覚めた場所は、アルバート家の中庭だった。彼を起こした人物は……
「お、義父!?」
「届いたようだな。俺からの最後の贈り物が」
死んだはずのヒイロの義父が、目の前に優しい笑顔で立っていた。
「贈り物だって?」
「前から何度も言ってただろ?大切な女くらい守れる男になれ!とな」
「……だから、あの男を俺の前に向かうようにけしかけたのかよ?」
「まぁ、そうだな。勝てたようで何よりだ。どうだ?3人の女の子の中から、嫁にしたい子は見つかったか?」
「気が早ぇーよ。一緒に住み始めてまだ1週間過ぎた程度だぞ!」
「それもそうだな……おっと、時間のようだ。俺はもう逝かなきゃならん。立派な男になれよヒイロ」
「ちょ、待てよ……」
【アルバート家の朝】
「義父!……ん?……俺の部屋か?」
「ガチャ、起きたのかいヒイロ?」
ヒイロの大声を聞いたカルーアが、お粥を持って入ってきた
「コツン。ん?サーシャか」
「ふふ、サーシャはずっと姉さんと兄さんに回復魔法をかけ続けていたんだよ」
「そうか、ありがとうなサーシャ」
ヒイロは、同じベッドで寝ているサーシャの頭を優しく撫でた
「ヒイロ、ご飯は食べられるかい?サーシャ用に作ったんだけど、まだ寝てるみたいだから……」
「そうだな。頂くよ……ビキィッ!……ぐあっ!?う、腕が動かせない……」
ヒイロは使わないようにしていた紅血化の能力を、生まれて初めて同じ日に2度使用した反動で、身体のアチコチが上手く動かせなかった
「……し、仕方ないな。わたしが食べさせてあげるよ。失礼するね、サーシャ、ゴメンよ」
カルーアはお盆を持ったままベッドに上がり、サーシャを跨いでヒイロに近寄った
「ほ、ほら、口を開けなよ///食べさせてあげるからさ///」
「あ、あぁ……助かる。あーん……」
カルーアは、素直に口を開けたヒイロの顔をまじまじと見つめていた
「ガチャ。カルーアぁ!アタシのご飯まだぁ!?」
カルーアが持ったスプーンのお粥がヒイロの口に入る瞬間に、アリスが豪快に扉を開けて入ってきた
「アチチチ!」
「あ!?ゴメン兄さん!……もう、姉さんがいきなり入ってくるからだよ///」
「お兄ちゃん!目が覚めたんだねぇ。良かったぁ♪」
ヒイロに「あーん」をしている姿をアリスに見られたカルーアは顔を真っ赤にしたが、アリスはヒイロの回復を喜んでいるだけだった
..........................
「そうか、あの日からもう5日目なのか……」
「みんな心配してたんだよ。姉さんは2日目に目が覚めたんだけどね……」
「カルーアに「傷口が開くから寝てろ!」って言われたんだけどぉ、退屈だったから次の日からソードの訓練してたんだよぉ♪」
「そ、そうか。さすが獣人族は回復が早いんだな///」
ヒイロもカルーアから食べさせてもらう場面を見られて恥ずかしがっていた(アリスは全く気付いていなかったが)
【昼食後】
「あの日から5日経過しているってことは、ヘルメスの街は大丈夫だったんだな?」
「うん。あのゼノスって男が倒れてからしばらくして、急に街が静かになったんだよ。ギルドに行ってないから、詳しくは知らないんだけど……」
「そうか……なら、ギルドに行って聞いてみるか」
「お兄さま。もう動いても大丈夫なのです?」
ヒイロの顔を覗き込んで聞くサーシャ
「サーシャの回復魔法のおかげで、もう動けるようになったよ。ありがとうな♪」
「えへへ。良かったですの♪」
ヒイロの明るい顔を見たサーシャは、満面の笑みを浮かべた。
「そうだ!ね、ねぇお兄ちゃん、その……」
「なんだ?遠慮なく言っていいんだよ?」
珍しくアリスが、モジモジしながら言葉を選んでいた。
「あの魔族の人と戦ってる時にさぁ、アタシが油断して斬られた時にお兄ちゃんが……「貴様ー!俺の大切な女を、許さんぞー!!」って言ってくれたよね?アレって、その///」
「えぇ!?お兄さま、アリスお姉さまにそんな言葉を!?」
「なんだって!?兄さん、まさか姉さんのことを、そんな風に……」
スライムに魔力を吸われて意識が朦朧としていたカルーアとサーシャは、その後のことを詳しく覚えていなかったので、アリスの発言に驚愕した。
「ち、違うんだ!あれは、その……義父がさ、生前俺に「大切な女を守れる男になれよ」って何度も言ってたんだよ。あの魔族の男も俺の義父のことを何度も口に出してたろ?それでついさ……」
..........................
「なぁんだ、そうだったんだねぇ!てっきり、お兄ちゃんから愛の告白されちゃったのかと思って、ビックリしちゃったよぉ(笑)」
アリスは自分の勘違いだったことを知り、ケラケラと笑い飛ばした
「そうだよね。ふぅ、驚かさないでくれよ……」
「それはそれで面白くなりそうでしたのに(ブツブツ)」
「サーシャ!?今なんて言った?」
「何でもないんですの(笑)」
勘違いだったのだと安心したカルーアの横で、本音がボソッと出たサーシャの言葉を聞き驚いたカルーア
【冒険者ギルド】
「まぁ!ヒイロさんと三姉妹さん。ご無事だったのですね。心配してましたよ!」
ヒイロたちの顔を見た途端に、表情が明るくなった受付嬢のアップル
「お久しぶりです。リーリア姉妹を助けた後に、我が家に魔族の男が俺を狙って現れまして、俺たちの手で倒したのですが、街はどうなっているのか気になりまして……」
「あの後ですね。なだれ込んできた100以上のゴブリンに、冒険者たちと警備隊の方たちが総出で立ち向かってくれたのですが……それから、10数分後に……アドルフさんとリリアちゃんが現れて、ゴブリンたちを凄い勢いで狩りまくったという話です♪」
「そう…だったんですか…」
アップルの言葉だと、人づてに聞いた話に聞こえるのだが、アップルの表情からは、アドルフがゴブリンを倒しまくるその現場を、見ていた者のような興奮を見せていた
「もう本当に凄くて、流石は【イシスの英雄】ここにあり!って戦いぶりだったらしくて、俺も興奮が収まりませんでしたよ!」
「……俺?」
「俺って言ったぁ」
「アップルさん?」
「いつの間に俺人称に?」
受付嬢アップルは愛らしい見た目ながら、一人称「僕」の可愛い20歳のエルフなのだが、興奮冷めやらぬ彼女の口から一人称「俺」が出て、ビックリしたアルバート家の4人。
「えっ!?あ!……あはは、ちょっと興奮し過ぎちゃいましたね///」
「可愛いのになぁ…」
「変わった人だね…」
「面白いですの♪」
慌てて弁解するアップルの様子に少し引いてしまった三姉妹。
「え、えと……ゴブリン討伐の参加費として、今回は大騒動でしたので、大活躍したアドルフさんを除いては一律で1人に10万ゼニーが支払われますが、魔族の戦士を倒したとなると上乗せしないといけませんね……」
「いえ、みんなと同じで構いませんよ。その代わり三姉妹にも支払ってあげてくれませんか?」
「宜しいのですか?魔族の戦士ともなれば、低くても100万ゼニーは保証されるんですよ?」
「あの男は、俺の義父を倒した男だったんです。俺たちの手で敵討ちできただけで満足ですから」
「そうですか、分かりました…あ!?」
「どうしました?」
ヒイロと話していた途中に、アップルは何かを思い出して大きな声を出した
「商業ギルドのジュリアンさんから「ヒイロが先に冒険者ギルドの方に来たら、その後で絶対コッチにも顔を出すように」って言われてましたよ」
「ジュリアンさんが?…分かりました。この後、すぐに行きます」
ヒイロたちは、ゴブリン討伐参加費を受け取り商業ギルドへと向かった
【商業ギルド】
「ガチャ。失礼します」
「ん、あ!ヒイロ君。無事だったのね!三姉妹も、良かった……」
ヒイロたちに気が付いたネネカは明るい表情を見せたが……
「何か悩み事でも?」
「そうなのよ。あれだけの規模の襲撃事件だったでしょ?ゴブリンたちの死体の片付けもだし、巻き込まれて亡くなった人たちの後処理もだし、破壊された街の再建費とか……考えると頭が痛いのよ……」
「気にしないでいいわ……あ!?それよりも、申し訳ないんだけど……」
「何ですか?遠慮なく言ってください」
言い出しにくそうにしているネネカを気遣ったヒイロだが……
「奥の倉庫に来てもらえるかしら?」
「はい?」
ヒイロはネネカの後に続き、ギルドハウスの裏手の倉庫に入った
「も、もしかしてこれは?」
「うわぁ!凄い量の武器防具だねぇ」
「もしかして兄さんへの依頼?」
「100個以上はありそうですの」
倉庫の中にパンパンに入れられた武器防具の山が、ヒイロたちの目の前に山盛りにされていた
「ゴブリン討伐に参加した冒険者と警備隊員の物なの。ヘパイトスさんが半分は「格安でさせてもらいます」と言ってくれたのだけれど……」
「それでも、こんなに残っているんですね?」
「そうなの、急がなくて良いからお願いできるかしら?」
「気長にやってみます……」
「依頼者たちには、時間かかるから気長に待つように言ってあるからね」
正確には150体以上のゴブリンが押し寄せていて、それと戦った者たちの使用した武器防具の修理依頼が大量に押し寄せていた
「数が多すぎるから、ギルド員に明日から小分けして貴方の家に送らせてもらうわね」
「分かりました。お願いします」
【帰り道】
「とんでもない量の武器防具だったね」
「あぁ、半月……いや、ひと月は修理だけの日々になりそうだな」
カルーアに言われたが、ヒイロは既に「いつ終わるだろう」という顔をしていた
「お兄ちゃん、アタシも手伝おうかぁ?」
「あ、いや……」
「姉さんが手伝ったら、余計に時間かかるから止めとこうね」
「もうカルーアったら!プンスカプン!」
アリスの申し出は嬉しかったが、ヒイロとカルーアとサーシャにも、アリスが直すどころか破壊する絵が浮かんでいた
「お兄さま。「清掃業務中につき回り道をお願いします」だそうですの」
「そうか……なら裏通りを行くか。あまり治安は良くないけど、仕方ないな」
両方のギルドに行っている間に、街の中心地からアルバート家に向かう道が封鎖されていたので、仕方なく裏通りを行くことにした4人
【裏通り】
「ん!お兄ちゃん、何か聞こえるよ……喧嘩してるのかなぁ?」
「やれやれ、早速物騒だね。面倒ごとは困るのに……」
「いや、違うぞ。あの猫耳少女は……」
「おい!お前の「サメ焼き屋」の場所代の支払いは昨日までだと言ってたはずだよなぁ!」
「ま、待ってくれにゃ。昨日手に入れたお宝を売れば、それなりの金になるはずにゃ……」
「あ、あの猫耳女は!」
イカつい男から脅されている女の子は……あの日、アリスからネックレスを奪おうとし、ゼノスとの戦いの最中【猛獣の檻】を盗んでいった猫耳少女だった
続く




