義父からの贈り物
【アルバート家の近く】
「はぁはぁはぁ……くそっ、紅血化を使った反動で身体が上手く動かせない…みんな、無事でいてくれよ」
思うように動かない手足を振り、急いで家を目指しているヒイロ
「あぁぁ……そんなに吸われたら……」
(助けて兄さん……)
「もうダメですの~」
(お兄さま、サーシャはもう……)
七精守護霊を撃って魔法力が空寸前のカルーアと、元々、魔力総量が多くないサーシャの2人は、魔法力を吸うスライムに追い打ちをかけられていた
「くく、ヒイロとやらが来る前にお前たちをいたぶっておくのも一興か?」
(早く来いヒイロ)
3人ともが、ヒイロが現れるのを期待していたその時!
「コツーン……来たか!?」
男の背後で地面に石が落ちる音が鳴った。男が振り返ると……
「ソッチじゃないにゃ。コッチにゃ」
「ちょっと待て!誰だお前は!?」
少し前に、ヒイロからプレゼントされたミスリルネックレスを、アリスから奪おうとした猫耳少女だった
「誰!?あっ!……ブチブチ……」
猫耳少女がカルーアたちから距離を取ると、箱から伸びていたスライムは、カルーアとサーシャの元を離れ、箱の中に戻っていった
「にゃるほど。射程距離があるんだにゃ。とりあえず、このお宝はグレイキャット様が、もらっていくにゃ~♪」
不思議な箱を奪い、トンズラしようとするグレイキャット
「猛獣の檻は、古代人の血を引く者じゃないと使えないんだぞ!」
「にゃに!?」
この魔物を封印し、自在に操る猛獣の檻には、使用者制限があることを知らされ足を止めるグレイキャット
「にゃら、古代人を探して高値で売りつけるにゃー!さらばにゃー!」
都合良く判断して、猛獣の檻を奪ったグレイキャットは逃げていった
「はぁはぁ……よく分からないけど、助かったみたいだね……」
「魔法力を吸われて動けませんの……」
「とんだ邪魔が入ってしまったな……貴様らにはしばらく、可愛い悲鳴で楽しませてもらおうか。戻ったヒイロとやらが、怒り狂うようにな!」
貴重な猛獣の檻が、訳の分からない者に奪われてしまった八つ当たりをするように見えたが……
「そいつは見過ごせないな。誰だ貴様は?」
「兄さん!」
「お兄さま!」
「そうか、お前がヒイロ・アルバートか?俺はお前の義父のパーティを、全滅させた魔族の戦士ゼノスだ。お前の義父と同じように殺してやるぜ」
「貴様が義父さんを!?……返り討ちにしてやるぞ!」
そして、2人は戦いを開始した
..........................
「ブシュ!ぐあっ!?」
「どうした?お前の妹エルフに半身を焼かれた俺に、為す術も無いのか!」
「はぁはぁはぁ……くそっ」
カルーアの七精守護霊をギリギリ回避したゼノスだが、あまりに高火力だった為に左半身に火傷を負っているが、それ以上に紅血化の反動による疲労で、ヒイロのほうが動きが重かった
「お前の義父の死に際の「俺の息子にはお前では勝てんぞ」と言われて楽しみに来てみれば、とんだ期待外れだな!」
戦士が本職のゼノスと、鍛冶屋が本職のヒイロの戦闘力の差もあるが、初めて見る連結式ソードの独特な動きに翻弄されて切り刻まれるヒイロ
「ぐうぅ、チカラが入らん……」
ゼノスに斬られた傷と、ゴブリン戦との負傷で血を流しているヒイロの疲弊具合は、かなりのものだった
「予想とは違う展開になってしまったが、義父の後を追わせてやるぞ。ヒイロ・アルバート!」
「くそっ、もうチカラが……」
「ガキィィィン!!」
「なんでこんなことするのぉ!もう、やめてよぉ!」
「お前はさっきのネックレスの女か……」
ゼノスの連結式ソードからヒイロを救ったのは、先ほどゼノスに助けられたアリスだった
「アリス、その男は強い。下がるんだ……」
「やだぁ!アタシがお兄ちゃんや、妹たちを守るんだからぁ!!」
「ガキィィィン!バキィィン!」
「くぅ、ソードを操る魔力がもう切れたか……」
ヒイロとの戦いで、連結式ソードを巧みに操って優位に戦っていたゼノスだが、ソードを操る魔力が不足し始めた
「どうして、お兄ちゃんや妹たちを攻撃するのぉ?さっきはアタシを助けてくれたじゃないのぉ!」
「たまたまだと言っただろ!」
自分のピンチを助けてくれた男が、自分の家族を襲っているのが理解できないアリスは愚直に質問したが、男の返事はアリスが期待するものではなかった
「ええぃ!ゆらぁ……」
アリスは斜め前方に、揺らりと上半身を移動させるが……
「遅いな。邪魔をするな!」
「ここだぁ!!」
「何っ!?」
これはアドルフがヒイロとの対戦時に、三姉妹の前で見せた緩急をつけるフェイントだった。
アリスと初めて戦うゼノスには、それがフェイントとは知らずに背後を取られてしまう
「ブシュ!ぐあっ!?」
ゼノスは背中を切りつけられた。が…
「あ、ごめんなさい。大丈夫ぅ?」
アリスは先ほど助けられた借りがあったので、思わず男を心配してしまった
「戦場でその甘さは命取りだぞ!」
「ズバッ!うあっ!?」
動きを止めたアリスの脇腹を、一閃して斬り裂いたゼノス
「き、貴様……」
「姉さん!」
「アリスお姉さまっ!」
ヒイロとカルーア、サーシャの目の前で斬られたアリス。倒れた彼女の腹部から大量の血が流れている。それを間近で見ているヒイロは……
「貴様ー!俺の大切な女を、許さんぞー!!」
ヒイロの怒りはMAXになった。アリスを斬り裂いたゼノスに対し、本気の怒りがヒイロの血を紅くさせた
「ようやく本気か?はぁはぁ…見せてみろ、そのチカラを……ぐおっ!?何、これは?……ぐぁぁぁぁ!」
紅血化したヒイロの基本値は、約2倍へと上昇する。突然のヒイロのスピードとパワーに対抗しきれないゼノスは、身体中を斬り刻まれた
(ゼノス様!?)
アルバート家を囲む森の中から、一部始終を見ている魔族の女が居る。
「はぁはぁはぁ……俺はクルス家の末弟、ゼノス・クルスだ!お前ごときに負けられるかっ!!」
ボロボロになっているゼノスだが、渾身のチカラを振り絞り、水平斬りでヒイロの胴体を狙った
「俺はアリスたちの兄だっ!!……バキィィ……ドスッ!」
「うっ、ガハッ!?」
ヒイロはチカラで、ゼノスの連結式ソードを叩き落とすと、ソードを握り直しゼノスの胸に突き刺した。
「くぅ……俺の負けか……」
カルーアの七精守護霊で、半身を焼かれていた上に背中をアリスに、そしてヒイロのソードを胸に受けたゼノスは、自身の敗北を悟った
「聞かせてもらおうか、どうして俺を狙ったのかを……」
「……俺は、魔族と古代人のハーフだ。この黒い髪は古代人の血を引く証。仲間からも嫌われ者だった。父親は魔王の椅子争いに敗れてから、自暴自棄になりやがった。俺は、古代人の血でも強いことを証明したかった……」
「それで義父さんたちと戦ったのか?」
「大臣のイツカゲの命令だったがな……それでも、俺に付いてきてくれた仲間が居た。お前の義父のパーティと相打ちになったがな……」
「そうか、仲間の敵討ちに俺を選んだのか……」
「お前の義父は強かった。俺は右手を斬り落とされながらも勝ちはしたが、俺も致命傷を負わされちまってな……どうせ助からぬのなら、奴の息子と戦って散るのも悪くないかと思ったのさ……」
「そうか……他に言うことはあるか?」
ヒイロはゼノスにトドメを刺す準備として、ソードを握り直した
「ねぇ…どうしてアタシを助けてくれたのぉ?」
どうしても疑問を納得できないアリスが、弱々しい声で質問した
「俺にも妹が居てな……重なって見えちまっただけだ……ヒイロ。俺がヤラれても敵討ちとかは考えるなと言ってある……万が一、お前の前に現れたら…よろしく頼むぜ……」
ゼノスはそれきり、ピクリとも動かなくなった
「スっ、分かった……」
ヒイロは目を開けたまま死んだゼノスの目を、手でそっと閉じてあげた
「うぅ……ゼノス様!」
森から見守っていた魔族の女は馬に跨り、アレクス城を目指して立ち去った
「アリスお姉さま、シッカリするですの!」
「カルーア、魔力回復薬だ。飲めるか?」
サーシャは弱々しい回復魔法で、アリスの傷を懸命に治癒していた。ヒイロは、魔力が枯渇気味のカルーアに回復薬を飲ませた
..........................
「兄さん、何してるんだい?」
魔力枯渇から脱したカルーアが、スコップで土を掘るヒイロに質問した
「奴の墓を掘ってやるのさ」
「兄さんの生命を狙った奴の墓をかい?」
「……アイツは、俺の義父さんから、何かを頼まれてここに来た気がするんだ。多分だけどな……」
「そう、かもしれないね…手伝うよ」
アリスの手当をサーシャに任せたヒイロとカルーアは、ゼノスの遺体を土に埋めて弔った
続く
仕事などの都合により、明日以降は毎日投稿が出来ません。火曜日と土曜日の朝7時に投稿する予定ですので、今後も読んで頂けると嬉しいです




