七精守護霊
【ヘルメスの街外れ】
「うおおおぉぉ!!」
紅血化により目を真っ赤にしたヒイロが、リーリア姉妹を取り囲む20体以上のゴブリンの群れに対し、両手に握った2本のソードを振り抜き、背後から斬りかかった
「ギシェェェ!」
「ギニャァァァ!」
「アベシュ!!」
最初のうちは多対1でヒイロを倒そうとしたゴブリン達だが……
「ズバッ!ビシュ!ドスッ!」
ヒイロは紅血化の能力を使用している間は、全てのステータスが約2倍に跳ね上がっているため、数の有利を持ってしても彼を止められなかった
「ヒイィィィ!」
「アババババ!」
強すぎるヒイロに恐怖を感じたゴブリン達は抵抗するのを止め、リーリア姉妹から離れて逃走していった
「はぁはぁはぁ……大丈夫か?」
「ヒイロなの?……ありがとう♪」
「もう少しでアイツらの子供を産まされるところだったわ…ふぅ…」
ゴブリンの抵抗を受けたヒイロも無傷とは言わなかったが、素早く鋭い斬撃を絶え間なく続けたので、かなり汗をかいていた
「ねぇ、目が赤いけど……」
「あぁ。黙ってて悪かった。俺は紅血族っていうのの生き残りらしくてな。怒りで血が真っ赤になると能力が跳ね上がるんだが、使ったあとの疲労が半端なくてな……」
「そうなのね……うん。誰にも言わないでおくわ」
「そうよね?私も誰にも言わないから!」
ヒイロが自分達の前でも見せなかった能力の事情を、ある程度察知したリーリア姉妹は追求も他言もしないことを誓った
「くっ、短い方のソードは刺さり過ぎて抜けないか……」
ヒイロは2本持ってきたうち、短い方のソードがゴブリンを貫通して岩に刺さり抜けなくなっていた
「街は大丈夫なのかしら?」
「武器屋のオヤジさんの話だと、正門からなだれ込んでいるのが主力らしいぞ」
「そうなの?……シャルル、ヒイロ。まだ戦える?」
「もちろん!援護に向かいましょう」
姉のシェリーに発破を掛けられたシャルルは元気に立ち上がり、街の護衛に向かう決意をしたが……
「すまない。何か悪い予感がするんだ。俺は家に帰って三姉妹を見てくる。特にサーシャは体調不良だしな」
「そうなの?じゃあ、私たちは行くわ」
「ヒイロ。無理しないでね!」
「あぁ。シャルルとシェリーさんもな!」
リーリア姉妹は街の救援に、ヒイロは長い方のソードだけを持ちアルバート家へと走り出した
【アルバート家前】
「どちら様?うちの工房に御用ですか?」
カルーアは、サーシャに絶対家から出ないように言うと、怪しい男が家に接近する前に出迎えた
「この家に、ヒイロという男が居るだろう?俺はソイツに用がある」
(何コイツ……凄いオーラを感じる。只者じゃないね、それに兄さんに用事があるって……武器の修理依頼とかじゃなさそうだね)
「勘違いじゃないかな?ここは、わたしと姉さんと妹の3人で経営しているんだ。この街にはもう1件の鍛冶屋があるよ。ソッチの方じゃ……」
悪い予感がしたカルーアは「男は住んでないよ」ととぼけて言ったのだが……
「つまらん嘘はいい。ヘパイトス工房とやらは先に見に行った。20くらいの男は働いていなかったぞ……ピタ」
(何だい、この変わった形のソードは?明らかにヤバい男だ。兄さんに合わせる訳には……)
何とかシラを切ろうとしたカルーアだが、男はチェーンソードの先をカルーアの首筋に当てた
「今は居ないのか?お前らには用はない。俺はヒイロと戦いに来ただけだからな……」
(やっぱり!兄さんが狙いなんだ)
「そんな男は居ないって言ってるでしょ?」
「中を見させてもらうぞ」
カルーアの嘘を聞く気もない男は、アルバート家へ向けて歩き出した
( この人を中に入れるわけにはいかない。サーシャを守らないと……)
「頑固な人だね、分かったよ。ヒイロに会わせてあげるよ」
「初めからそう言え、小娘などに用はないんだ」
「わたしを倒すことが出来たらねっ!」
「何っ!?」
カルーアは詠唱を始めた。身体の内側から強い魔力が溢れ始めた
「何だ、この魔力量は!?小娘だと思っていたが……ただのエルフではないな。魔力封じの護符で……」
男は腰の小物入れから、魔力封じの護符を出そうとしていた
「世界を彩る七精霊よ。わたしの名はカルーア、わたしの呼び声に応え、難敵を打ち砕くチカラとなれ【七精守護霊】!!」
「何だこの魔力は!?冗談ではないっ!!」
左手を添えたカルーアの右手のひらから、光・闇・火・水・風・土・木の七つの属性の魔力が集約されたものが、1本の光線のようになり男に向けて発射された
「ビビビビ……バシュ!ぐぉぉぉぉ!」
七精守護霊の前に出した魔力封じの護符は、2~3秒ほど男を守ったが、高過ぎる威力の前に蒸発して消えた
「ドスン。はぁはぁはぁ…」
(あんな魔法は初めて見たぜ。直撃されたら木っ端微塵にされそうだな)
魔力封じの護符を盾としながら、一瞬で跳躍した男はかろうじて助かったが……
(熱い!身体の左半分が焼かれているように熱いぜ…あ!?今のをもう1撃されたら……)
左半身が焼かれたように痺れて動かせない男は、次弾を警戒してカルーアの方を見たが……
「はぁはぁはぁ、はぁはぁはぁ…よ、避けられたなんて……」
トンデモナイ威力の魔法だった。魔法が通過した場所は地面がえぐれ焼かれている。
しかし、そんな強い魔法を使ったカルーアも全身汗だくになり、膝を付いてうずくまっていた
「くうぅ。そりゃそうだろうぜ。その若さであんな魔法を使ったら、反動で身体が動かなくなっちまうわな」
(マズイね。魔力がスッカラカンだよ。弱い魔法をあと1発くらいしか撃てそうにない、それじゃこの男は倒せそうにないよ……)
気合いで立ち上がった男。だが、先ほどの魔法以外にも奥の手があるのでは?と警戒し、ゆっくり歩いてカルーアとの距離を詰めていく
(マズイ!わたしも立ち上がらないと……うぅ……)
カルーアも立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
【街の外れ】
「ひいぃ……街のどこにもゴブリンがいっぱいだよぉ……」
ミスリルネックレスを回収できたアリスは、ヒイロを探していたがソードを持っていなかったので、ひたすらゴブリンから逃げ回ってヒイロを探していた
「あ!あそこにソードがあるぅ!」
アリスは、ゴブリンの死体の山の1つに刺さっているソードを見つけた。
「ちょっとごめんねぇ……」
アリスはゴブリンの死体を足で踏み、チカラを込めて刺さっているソードを引き抜いた
「ふぅ、抜けたァ……あれ?これ、お兄ちゃんが造ったソードじゃないかなぁ?……やっぱりそうだぁ!」
ヒイロは自分が造った物だと分かるように、自分が製造した武器防具にはイニシャルを入れるようにしていたので、それを知っているアリスは1目でヒイロが造った物だと理解した
「ここにも、お兄ちゃん居ないなぁ……家に帰ってるかなぁ……うん。1度家に帰ろうっと」
アリスは街中を探すのをやめ、一旦家の様子を見に帰ることにした
【アルバート家の前】
「さっきの魔法は凄かったが……どうやらもう動けないようだな……コトッ」
男は懐から出したミニチュアのような物を、カルーアから少し離れた場所に置いた
「出ろ。アイツの魔力を吸え!」
「ジュバッ!」
ミニチュアサイズのサーカス小屋の模型の入り口を開けると、中から赤紫色のスライムが飛び出した
「や、やだぁ。ナニするのさ?」
「俺の武器は操るのに魔力が必要でな。先ほど少し使っちまってな。お前のその魔力、蓄えさせてもらうぞ」
「そ、そんな……嫌だ……服の中に入って来ないで~……あぁぁぁ……」
スライムが全身に張り付き、吸われた魔力が男の変わった形のソードに吸収されていく。その時……
「カルーアお姉さまを離すですの!……ドゴォォ!!」
まだ少し足のふらつくサーシャが、工房から作業用の鉄ハンマーを持ち出してきて、カルーアにまとわりつくスライムに打撃を与えたが……
「ジュバッ!」
「や、やめて欲しいですの!」
スライムには全くダメージがなく、サーシャにも絡みつき、魔力を吸い始めた
「ふっ、スライムをザコモンスターとか勘違いしているのか?スライムは火か氷の魔法でしか倒せんのだぞ?」
「うあぁぁ、それ以上吸わないでよ……」
「あぁぁ、チカラが抜けていきますの……」
【七精守護霊】を撃ち、魔力が枯渇寸前のカルーアと病み上がりのサーシャでは、男に対して為す術もなかった
男はチェーンソードを手に取ると、カルーアたちへゆっくりと歩き始めた。
続く




