奪う者たち
【大森林地帯】
「これは……かなりの被害だね」
恵みとなる果実は焼け落ち、ここを住処にしている動物たちの姿も消えていた。
見渡す限りの木々が焼け焦げ、あちこちから煙が立ち上っている。
「ヒのセイレイのしわざね。ゆるしておけないわね!」
ヘルメスの街から遠く200km。北東部マナティート地方との間を埋め尽くすように広がる大密林地帯に、イシスの英雄アドルフと妖精リリアが足を踏み入れた。
三姉妹たちがヒイロからミスリルネックレスをもらっている朝のことだった
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「ガチャ」
「あ!?アドルフさん、良いところに!」
「何かあったんですか?」
借りている宿屋で朝食を済ませたアドルフたちが、食後の運動がてらに何かクエストを受けようと冒険者ギルドの扉を開けると……受付嬢アップルからすぐさま声を掛けられた
「ヘルメスの街の北部に広がる大密林地帯で、火の精霊たちが森を焼いて暴れているとの報告がありまして……」
「えぇっ!?ヤバイじゃないの!」
「そうなんです。中には火炎魔人イフリートの姿も目撃されていまして、完全にAランク認定のクエストなのですが、現在ヘルメスの街にAランクの冒険者は……」
「僕たちしかいないと……分かりました。受けましょう」
「ありがとうございます!王都クラウンからも、第2級危険災害にも認定されました。報奨金は用意しておきますので……」
「任せてください。行くよリリア!」
「もーちのロンよ!」
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「ズバッ!ギニャァァァ!」
リリアから氷魔法を付与してもらったクレリアソードを使い、次々と火の精霊を討伐していくアドルフ。すると…
「ワレの子を次々と倒しているのは貴様たちか?」
「キミがイフリートだね……」
「ワルイことしてんだから、アタリマエなのよ!」
燃え盛る木々の奥から火炎魔人イフリートが、2人の前に姿を現した
「アドル!ヤツのメとコアをみて!」
「あぁ。火炎魔人の中でも上位のイフリートみたいだね」
「ほぉ?知っていたか、炎は赤よりも青の方が高温だからな。つまり!ただの冒険者如きでは、逆立ちしてもワレに勝つのは不可能よ!!」
「御託はいいんだ。相手してもらうよ」
「ククククク、その威勢。何時までもつか、試させてもらうぞ!」
自信満々に歩み寄る上位の火炎魔人イフリートと、アドルフ達の戦いの火蓋が切って落とされた
【ヘルメスの街】
「あっ!新しい服が入ってるぅ。ねぇ、少し見ていってもいいでしょ?」
「野苺狩りの報奨金もあるからな、好きな服を選んで良いよ」
(なんだかんだ言ってもアリスも女の子だな。新しい服には目がないのか♪)
元気いっぱい天然無垢のアリスは、アルバート家に明るい陽射しを届けてくれる太陽のような女の子だが、少しガサツで服には無頓着かと思われていたが、嬉しそうに服を見ているアリスに安心を覚えたヒイロ
「ねぇねぇ、この服よくないぃ?」
「うんうん、良いね。とっても可愛いと思うよ」
「そうだよねぇ!カルーアに絶対似合うと思うんだァ♪」
「えっ!?カルーアに贈るのか?」
てっきり自分の服を選んでいると思っていたヒイロは、思わず目を丸くして驚いた。
「だってさぁ、この前崖から落ちるアタシを飛行魔法で助けてもらったでしょぉ?きちんとお礼がしたいんだぁ」
割と考えなしに行動する癖のあるアリスが、人から受けた恩を返すことを頭に入れていたことに感心したヒイロは……
「ちゃんと覚えてたんだな。偉いなアリスは……ナデナデ」
「えへへぇ♪アタシ偉い?むふふ♪」
ヒイロに撫でられたアリスは、満面の笑みを浮かべて喜んでいた
「お姉さ~ん。この緑色の服と、このピンクの服をくださ~い♪」
「はい、毎度ありがとうございます。袋に入れますね。お代は……」
(へぇ、サーシャの分の服も既に選んでいたのか……ちゃんとお姉ちゃんしてて偉いぞアリス)
「お待たせ、お兄ちゃん♪」
「サーシャの分も買ってあげたんだね。良いお姉ちゃんだなアリスは」
「そりゃそうだよぉ。目の前でカルーアが服をもらってるのを見たら、サーシャが悲しくなっちゃうもん!」
「良し!なら、俺からアリスにイチゴパフェを奢ってやるよ。この先にデザート屋さんがあってだな……」
「知ってるぅ!赤いレンガのお店でしょ?」
「なんだ、もう知ってたのか?そうだよ、ちゃんとお姉ちゃんしてるアリスへのご褒美だ」
「わーい!ありがとうお兄ちゃん。だーいすき❤︎抱きっ♪」
アリスは姉としての自分を褒められたことと、大好きなイチゴのデザートを奢ってもらえるのが嬉しくて、愛情表現のハグをした
「アイツら、結構ゼニーに余裕があるみたいにゃ。やっぱりあのネックレスは高価な物に違いないにゃ」
冒険者ギルドから2人を付かず離れずで尾行する者が居た
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「美味しかったか?」
「うん!もう最高だったよぉ♪ほっぺたが落ちるかと思っちゃったぁ♬」
「喜んでもらえて良かったよ。さぁ帰ろうか?」
「うん!またご馳走してね♪」
赤レンガのデザート屋で、大好きなイチゴパフェをご馳走してもらったアリスの足は軽く、ヒイロが横に居ることもあって、少し警戒心が緩んでいた。すると、帰り道の先に……
「うぅ…あたた……」
猫耳の少女がお腹を押さえてしゃがみこんでいた
「ねぇ、大丈夫ぅ?」
「ありがとうにゃ。少しお腹が張り裂けそうなのにゃ……」
「本当?お腹さすってあげようかぁ?」
(よしよし……もう少し近づいてくるにゃ♪)
アリスは純粋な気持ちで猫耳少女を心配し、前かがみになったその時だった!猫耳少女の右手に光り物を見つけたヒイロが…
「危ないアリス!離れるんだっ!」
「ふぇ!?」
「ブチィ!あはは、頂きにゃ♪」
右手に隠していた小刀で、アリスの首から垂れ下がったミスリルネックレスのチェーンを切り奪った猫耳少女は、凄い勢いで走り出した
「あぁぁ!?待てぇ!!」
アリスも物凄い勢いで、猫耳少女を追い掛け始めた
「おい、アリス!」
ヒイロも後を追おうとするが、リュックの中から「ガサッ」と音が聞こえ足を止めた。
「……しまった」
リュックの中には、アリスが病み上がりのカルーアと、肩が痛むサーシャに食べさせるために採った大量の野イチゴが入っている。
「これを潰すわけにはいかないな……」
ヒイロは、ネックレスを取り返すためとはいえ、アリスがカルーアとサーシャのために採った野イチゴを潰してしまうわけにはいかなかった。
「アイツは任せてぇ!」
野苺を大切にしているヒイロに気がついたアリスは、1人で猫耳少女を追いかけた
【民家が立ち並ぶ屋根の上】
(くっ、犬科だったの?思ったより速いにゃ……だったら!)
猫耳少女を追い掛けるアリスは、ヒイロからもらったネックレスを「是が非でも取り返すんだ!」
その強い感情に呼応するように、頭から狼の耳が現れ、後ろからは尻尾が伸びていた。
「えっ!?えぇ!?」
突然、猫耳少女は器用に塀や窓の縁を掴み、身軽に民家の屋根へと登っていく
「絶対に逃がさないんだからぁ!ネックレスを返してぇ!」
アリスも負けじと、見よう見まねで猫耳少女を追いかけ、屋根の上へ登っていく
「危ないアリス、止めておけ!」
ヒイロの静止を無視して、猫耳少女を追いかけるアリス
「しつこいヤツだにゃ…けどにゃ」
「やっばーい。屋根の上じゃ離されちゃうよぉ……」
僅かにアリスの方が足は速かったが、不慣れな屋根上の移動では分が悪いようだ。徐々に引き離されていく
「にゃはHAHAHA♪」
逆に、アリスから奪ったミスリルネックレスを握り締めて器用に民家から民家の屋根へと移動する猫耳少女
「くうぅ、こうなったらァ……ヒョイ。ビシュ……」
アリスは屋根の上の小石を拾い、猫耳少女目掛けてブン投げた!
「ゴツッ!ギにゃ!?……カランコロン……」
猫耳少女のお尻に直撃した小石の激痛で、手に持っていたネックレスを手放してしまった
「逮捕だぁ!!」
鬼の形相で走ってくるアリスの気迫に怯む猫耳少女。それに、落としたネックレスを拾いに戻ったら確実にアリスに捕まると予想された
「こ、今回は勘弁してやるにゃ!」
猫耳少女は負け猫の遠吠えを言い残し民家の屋根を飛び移りながら、逃げ去って行った
「はぁはぁ…良かったぁ。無事に取り戻せたよぉ…切られたチェーン直せるかなぁ?」
アリスが雨戸の上に引っかかっているミスリルネックレスに手を伸ばしたが……
「カチャ、カランカラン……」
「あぁ!ネックレスがぁ!?」
掴み損ねたネックレスは、雨戸から外れ落ちてしまった。目の前で奪い返したと思ったネックレスが、落ちていくのを見たアリスは………
「えっ……?」
アリスの顔から、笑顔が消えた。
続く




