ミスリルネックレス
【翌朝のアルバート家】
昨日の晩ご飯は、サーシャを助けてくれたアドルフたちと賑やかに済ませた。
彼らはこの街の宿を長期契約しているので、2日連続で部屋に帰らず宿屋の人に心配させては悪いからと言って、遅くならないうちに帰って行った。
「お兄さま。良かったら…朝まで一緒して欲しいですの」
「……構わないよ。一緒に居よう」
(平気そうに振る舞っているけど、やっぱり怖かったんだろうな)
過去の知り合いとは言え、あんな目にあえば12歳の女の子なら恐怖して当然だろうと考えたヒイロはその夜、サーシャが安心できるよう、風呂にも付き添い、そのまま一緒に眠った。
「……ん……お兄さま?」
サーシャが目覚めると、一緒に寝たはずのヒイロの姿はなくキッチンの方から賑やかな声が聞こえていた
【キッチン】
「ガチャ。お兄さまですの?」
「お!起きたかサーシャ。今朝の食事は俺とカルーアで作っているから、リビングで待っててくれ」
「そうだよサーシャ。こんな時くらいは任せてよ……って兄さん!?卵はもっと優しく割らないと、ほら殻が入ってるし!」
「うおぁ!?すまんすまん……」
料理慣れしていないヒイロと共に、一生懸命に朝食を作ってくれている2人のやり取りの面白さに……
「くすくす。仲が宜しいですのね♪」
(元気になったらサーシャとも一緒に作って欲しいですの)
拙くも楽しそうにしている2人の姿に、少し羨ましさを感じていたサーシャだが……
「ンゴガガガ……」
隣の三姉妹の部屋から聞こえてきたアリスの大イビキに……
「アリスお姉さまを起こしてきますの♪」
「あんまり近寄ると蹴られちゃうから、気をつけるんだよ!」
一度アリスに腹を蹴られたことがあるカルーアは、サーシャに注意を促した
【食後】
「どうだったサーシャ。頑張って作ってみたんだが…」
「もう!兄さんが雑に作り過ぎるから……」
「くすくす。とても美味しかったですの♪」
仲良くコメディな会話をしているヒイロとカルーアが、可笑しくて笑ってしまうサーシャ
「そうだ!プレゼントがあるんだ。待っててくれ、ガチャ」
そう言うとヒイロは工房まで何かを取りに行った
「ほらサーシャ。この前エルドラ山脈で採取したミスリル鉱石で作ったネックレスだよ」
「うわぁ……綺麗ですの。ありがとうございます、お兄さま♪」
「良かったじゃないかサーシャ」
「………中に金色のハートマークが入ってます……可愛いですの❤︎」
サーシャは胸元のミスリルネックレスをそっと指先で撫でながら、嬉しそうに微笑んだ。
青白く澄んだミスリル鉱石の中に、金色に着色したハート型の鋼が入っていた
「ほら、カルーアの分もあるぞ」
「えっ!?本当かい?……わたしのは、緑色のハートマークだ♪」
自分にもミスリルネックレスが渡され、嬉しそうな笑顔を見せるカルーア
「カルーアとサーシャだけズルぅい!ねぇ、アタシの分は無いのぉ!?」
サーシャとカルーアが、ヒイロの手作りネックレスをもらっているのを見たアリスは「自分の分は?」と地団駄を踏んだ。
「もちろんあるさ、ほら」
「うわぁ……アタシのには赤いハートマークだぁ。ありがとうお兄ちゃん♪」
「アリスには情熱と元気の赤色、カルーアには森林と賢さの緑色、サーシャには回復と優しさの金色を入れてみたんだ。どうかな?」
「ありがとう、お兄ちゃん♪」
「兄さん、ありがとう♪」
「ありがとうですの……」
ヒイロの説明に、笑顔で応える三姉妹。その時、突然……
「う!?うぅ…」
「どうしたサーシャ!?」
サーシャは突然、その場に蹲り、お腹を押さえていた
「大丈夫かいサーシャ?」
「少し疲れが出たみたいですの……」
「……そうだな。俺たちの新しい生活が始まって、だいたい1週間か……俺にとっては自分の家だけど、みんなには新しい場所での生活だもんな。サーシャは昨日、大変な目に遭っているし……」
「今日はゆっくり休んでいるんだ。料理は、わたしがしてあげるからさ」
「アタシ……どうしよう?」
(カルーアがサーシャの面倒を見てくれるか……なら俺とアリスは……)
ヒイロはサーシャの為にどうするか?を考えた結果……
「よし、アリス。俺たちはこれから2人でクエスト受けに行こうか?」
「え!?お兄ちゃんと2人で?」
「なんだ、俺と2人では心配か?」
「抱きっ!うぅん。お兄ちゃんと2人でお出掛け嬉しいのぉ♪」
予想外の提案に、ヒイロに抱きついて喜ぶアリス。その姿を見つめるカルーア
「2人だけで行くのかい?」
「サーシャのことはカルーアに任せるよ。帰りに美味しいスイーツを買ってきてあげるからな!」
ヒイロは自分が鍛冶仕事をすると大きな音を立ててしまうので、アリスとクエストに出掛けることで静かな家の環境を、サーシャに与えたかったのだ
「そ、そう?うん、サーシャのことは任せておいてよ」
(うぅ、わたしも兄さんと2人でクエスト行ってみたいなぁ……)
心の中でガッカリするカルーアの姿をチラリと見つめるサーシャ
【冒険者ギルド受け付け】
「ようこそいらっしゃいましたアリスちゃん。おや、今日はヒイロさんと一緒で、他の2人のお嬢さんは居ないのですか?」
「サーシャが疲労で休んでますので、カルーアに残ってもらったんですよ」
いつもながら笑顔を絶やさずにハキハキと話す受付嬢のアップル
「では代表してアリスちゃん、聞いてくださいね。Cランク冒険者に認定されました。おめでとうございます♪」
「えっ!?もうDランクじゃなくてCランクなのぉ?」
初めて登録した時にDランクの冒険者カードを受け取っていたアリス達が、Cランクに昇格したと聞かされた
「はい。Dランク冒険者とは、クエスト未達成の初心者さんで、Cランクは達成者の方、BランクはCランク用のクエストを5つ達成された方。AランクはBランククエストを5つ達成したうえに、街の責任者などに認められた方になります」
「やったァ、やったぁ♪」
無邪気にその場で飛び跳ねるアリス
「こらこら。他にも人が居るんだから、はしゃぐなら別の場所にしなさい」
「ごめんなさ~い」
「ところで、冒険者カードはお持ちですか?ランクごとにカードが変わりますので……」
受付嬢アップルは、前回三姉妹で来ている時に、アリスがカードのことを忘れていたことを覚えているようだ
「持ってきましたよ。はい、更新お願いします」
ヒイロはランクアップでカードが書き換えられることを知っていたので、家を出る時に三姉妹の冒険者カードも一緒に持ってきていた
「色以外は一緒なんだねぇ……」
「そうですよ。Dランクは白色のカード、上にいくごとに青色、緑色、赤色、そしてSランクになられましたら金色なんですよ。でも、Sランクは城のSランク騎士などの認定証書が必要になりますので、ヘルメスなどの街では発行出来ませんよ」
「へぇ、そうなんだねぇ…」
アップルは説明しながら、器用に三姉妹分の書き換え更新をしていた
「さて、本日はどのランクのクエストを受けますか?」
「えっ!?Cランクじゃないのぉ?」
冒険者はパーティで1番上のランクのクエストまで受けることができる。逆に言うと、CランクとBランクの混成パーティならBランク用クエストまでが受けられるのだ
「Bランク用クエストまでなら受注可能ですよ。なにしろヒイロさんが、Bランク冒険者ですからね」
「えぇっ!?お兄ちゃん、Bランクだったのぉ?」
「まぁな。師匠が腕のたつ鍛冶屋は、武器の扱いにも同じくらい精通してるべきだと厳しかったからな」
ヒイロは、宮廷鍛冶師ヘパイトスの元で10歳から18歳まで見習いをしていた
「じゃあさ、今日はBランククエストしちゃうのぉ?」
「ダメだよ。今日は2人しかいないんだ。それに、無理して怪我して帰ってみろ、カルーアやサーシャが心配するだろ?」
ヒイロが今日アリスとクエストを受けに来たのは、鍛冶仕事で家に大きな音を立てない為だったから、安全なクエストをしにきたのだが……
「あら?ヒイロさんでしたら、本気を出せばAランククエストでも不可能ではないのでは?」
「えっ!?いや、俺には……」
突然、受付嬢のアップルが意味深な質問をしてきた。アップルは薄っすらと笑みを浮かべている
カウンターから身を乗り出して、周りの別の者に聞かれないように小声で話すアップル
「人前で見せないようにしているチカラを使えば、Aランク並みの能力があるのですよね?」
「な!?どうしてそれを?」
街の誰にも見せないように隠してきた釭血化の能力を、何故か知っているような口ぶりのアップル
「あぁ!?野苺の採取クエストだってぇ!お兄ちゃん、これにしようよぉ♪」
受付嬢アップルに得体の知れないものを感じたヒイロだったが、好物のイチゴ採取のクエストを見つけたアリスが、絶対にそれを受けると言い出した。
「野苺狩りのクエストですね。Cランク用クエストになります。最低採取数は10個、100個までなら依頼者が買い取ってくれるそうですよ」
「………では、それでお願いします」
ヒイロはアップルに警戒心を抱いたが、アリスの好物であるイチゴ採取クエストを受けることにした
【冒険者ギルド前】
「いっぱい採れたねぇ♪」
3時間後には、アップルから指定された野苺の生息地に向かい、たっぷりの数を採って戻ってきた
「余った分でカルーアにデザートを作ってもらって、サーシャに食べてもらおうよぉ♪」
「そういう事か。優しいなアリスは」
「えへへぇ。ナデナデしてぇ♪」
妹たちを気遣った自分を褒めて欲しいアリスの頭を、優しく撫でてあげたヒイロは、少額の報奨金とたっぷり採った野苺をリュックに入れ背中に背負った
「ガサゴソ。えへへ、お兄ちゃんに作ってもらったネックレス。ちゃんと傷つけたりしなかったよぉ。綺麗だなぁ♪」
アリスはヒイロからもらったミスリルネックレスを服の中から取り出し、眺めてニコニコしていた
「ふぅ~ん。綺麗なネックレスだにゃ。値打ち物かもしれないにゃ」
ギルドの向かいの建物の屋根の上から、アリスが眺めているネックレスを凝視する謎の影があった
続く




