消えたサーシャ
【アルバート家】
「ピンポーン♪」
「んっ?誰か来た…三姉妹か?…ガチャ…うわっ!?どうしたんだソレ?」
アルバート家は鍛冶屋を営んでいるので、玄関のドアは比較的左右の幅が大きく作られている(大人2人が同時に通れるほど)
「えへへ~討伐終わったよぉ♪」
ランブルベアを背負ったアリスが、玄関を通ろうとして引っかかっていた
「お邪魔させてもらうよ」
「アドルフさん?」
「リリアもいるわよ!」
…………………………
「そうだ!預かっていましたクレリアソードの修理、ちゃんと終わってますよ」
「見せてもらえるかな?」
ランブルベアの巨体は、広いアルバート家のドアですら通れなかったので、とりあえず玄関前に放置された
「紅茶を淹れますから、皆さんはリビングで寛いでいて欲しいですの」
「サーシャ、わたしも手伝うよ」
カルーアとサーシャはキッチンに行き、ヒイロはアドルフを連れて工房へと向かった
「こちらです。今までで最高の仕事が出来たと思ってますよ」
「なるほど……そのハンマー良いかな?……コーン、コーン……」
アドルフは叩き台の上に置かれていた小型の鉄製ハンマーを手に取ると、渡されたクレリアソードを側面から軽く叩いた
「うん。均一な澄んだ音だ。ありがとうヒイロ君。良い腕だね♪」
アドルフはヒイロが修理したクレリアソードを眺め、満足そうな顔を浮かべていた
【リビング】
「ありがとう、頂くよ」
リビングに戻ったヒイロは、サーシャたちが淹れた紅茶を飲む
「これは成功報酬の残り50万ゼニーだよ。受け取ってくれ」
「有難うございます……確かに」
一応ヒイロはアドルフの前で中身を数えた。この行為は、早く金額を確認したいとか、アドルフを疑っているとかではなく、確実に確認したから後から文句を言うことはない。そのことの証明だった
「そうだ!アドルフさん。一緒に晩ご飯を食べてください。熊鍋を作りますけどあの大きな身体です。俺たちだけでは腐らせるかもしれませんから」
「それは有り難いね。リリアも食べるよね?」
「もちろんよ♪」
リリアは羽根で宙に浮きながら、胸の前で手を組み喜んでいる
「サーシャ、熊を捌くのを手伝ってくれないか?肉が固めだからな、単純なチカラが必要なんだ」
「サーシャで役に立つのでしたら、何なりと♪」
サーシャはヒイロの手伝いが出来るのが嬉しい!と顔に書いてあった
「それじゃアリスちゃん。熊鍋が出来るまでの間、剣技の訓練をしようか?」
「え?いいのぉ。嬉しいなぁ♪」
アドルフはクレリアソードを掴み、アリスを誘って中庭に向かった
「俺が切断用の鉈でバラバラにするから、ベアの身体を押さえていてほしいんだ」
「お任せですの♪」
サーシャも嬉しそうにヒイロについて行く
「………リリアたち、することないわね」
「うん、そうだね……」
「ヒヒヒーン!」
その時、裏庭の馬小屋から「餌をくれ!」と馬の催促の鳴き声が聞こえてきた
「リリアさん。わたしはお馬さんにエサを与えてくるよ」
「ヒマだからついてってあげる」
カルーアは野菜の入った大皿とヤカンを持ち、馬小屋に向かった
【馬小屋】
「お待たせだよ。ゴトッ…ゴポゴポゴポ……」
カルーアは馬小屋の中に入り、馬の前に野菜の入った皿を置き、水飲み桶にヤカンの水を流し込んだ
「ほら、シッカリ噛んで食べるんだよ♪」
「フヒヒヒーン♪」
「いつもエサをくれてありがとうな。っていってるわよ」
リリアが宙に浮きながら、両手を腰にあてて馬の声を代弁した
「え?馬の言葉が分かるのかい?」
「まーね♪ヨウセイをなめないでよ」
どうやらリリアは動物の言葉が分かるようだ。凄い能力だと称えるカルーア
【リビング】
戻ったカルーアたち。だが、まだ部屋の中には自分たちしか居なかった
「リリアさん。今夜はお風呂を使っていってよ。風呂掃除をして綺麗にするからさ」
「そこまでいうなら♪アドルとイッショにはいらせてもらうわ♪」
リリアも乗り気なのを聞いたカルーアは、風呂掃除をして時間を使うことにした。役に立つのかは分からなかったが、リリアもカルーアに同行した
「よし。何とか捌き終わったぞ。煮込みに時間が掛かるんだよな……」
「臭みを消す香草を用意しますの」
ヒイロがサーシャと熊鍋の用意を着々と進めていると……
「ガチャ…ふぅ。アリスちゃんは筋が良いね。この短時間であれだけ身になるなんて、これは将来有望だね」
「本当にぃ?嬉しいなぁ♪」
剣技の訓練を切り上げたアドルフとアリスが帰ってきた
「ありがとうアドルフさん。姉さんに剣技を教えてもらって。まだ時間が掛かるらしいので、良かったらリリアさんとお風呂はどうですか?」
「ねぇアドル、はいりましょうよ。アセのニオイしてるわ」
「そうだね。アリスちゃんには悪いけど、先に入らせてもらうよ」
アドルフはリリアを連れて風呂場に向かった。アリスはヒイロの部屋に行き、アドルフが着られる服を取りに行った。その間にカルーアはアドルフの服を中庭で魔法洗いした
「流れる水たちよ。服を洗う清流となってください」
カルーアは魔法で生成した水の中に洗剤とアドルフの服を入れ、空中で回転する水流を生み出して洗った
..........................
「ヒイロ君。服を借りたよ」
「ねぇアドル、リリアのキガエだして」
「はいはい。ほらリリア」
リリアはハンカチで身体を包んでいた。着替えを受け取ると、脱衣所に戻り着替えていた
【食事中】
「アドルフさんの教えは分かりやすかったかい?」
「えっとね、お兄ちゃんのは教本みたいなんだけど、アドルフさんのは実戦的って言うのかなぁ?」
「アリスちゃんは身体で覚えるのが得意みたいだったよ」
「えへへ…ありがとぉ///」
憧れの強戦士であるアドルフに褒められて、顔を赤くし俯くアリス
「ね、アドル。おニク、とってちょうだい!」
「はいはい。熱いから気を付けてね」
「モグモグ…ん~!よくにこまれててオイシイわ♪」
一同は、ゆっくりと雑談を交えながら山盛りのランブルベアから取れた肉を食べていた
「すまないね。ベッドまで借りてしまって……」
食べ終わった頃には……まだ食べ尽くしてはいないのだが、かなり外も暗くなっていたので、今夜はアドルフとリリアに泊まってもらうことにしたヒイロ
【翌朝】
「朝食が出来ましたの。アドルフさん、お昼ご飯までは居て欲しいですの。まだまだ熊肉も残っていますから」
「それじゃ朝食後も、アリスちゃんに剣技を教えてあげようかな?」
「いいのぉ?やるやるぅ!」
ランブルベアから取れた肉があまりに多くて、昨日あれだけの人数で食べても、まだ半分以上残っているのだ。
「カルーア、サーシャ。俺は工房で作業しているからな」
「あれ?商業ギルドからの修理依頼は、アドルフさんのソードの前に終わらせていたんじゃなかったのかい?」
「あー、そうじゃなくてだな。修理に使う工具の方を良い素材で作ろうと思ってだな……あ!?完成した依頼品、持って行くのを忘れていたぜ……」
「やれやれですの。でしたらサーシャが届けてきますの♪」
「サーシャは働き者だね。わたしも一緒に行くよ」
「そうか?お願い出来るか?」
こうしてカルーアとサーシャは、ヒイロが終わらせていた修理済みの武器防具を届けるために商業ギルドへ向かった
..........................
「ガチャ…ぷひゃぁ。アドルフさん強すぎだよぉ……」
「ふふ、アリスちゃんは筋が良いから自信を持って」
ヘトヘトになって帰ってきたアリスを気遣うアドルフ
「あれ?カルーアとサーシャはぁ?」
ヒイロは2人に、修理品を商業ギルドまで持って行ってもらったことを説明した
「そうなんだぁ……ねぇ、お兄ちゃん聞いてよぉ。アドルフの攻撃回数が多くてぇ、回避が間に合わないからシールドが欲しいってぇ、初めて思っちゃったよぉ……」
「あはは。そんなに凄かったのか?……ん?シールド?……あぁ!?シールド持たせるの忘れてた!」
アリスの言葉にシールドだけ、カルーアとサーシャに渡し忘れていたことに気が付いたヒイロ
「アタシが行ってこようかぁ?」
「……そうだな。頼めるか?」
「うん。任せてぇ♪」
「僕らも散歩がてらついて行こうか?」
「そうね。ビヨウのためになるものね」
アリスとアドルフとリリアも出て行き、1人になったヒイロは工房で工具を作る作業に戻った
【商業ギルドの帰り道】
「サーシャってさ、本当に兄さんからの頼みごと嬉しそうに聞き入れるよね?」
「もちろんですの。お兄さまに喜んでもらえて嬉しいんですの♪」
サーシャは屈託のない笑顔で、それが自分の幸せだと言い放った
「まさか……サーシャは兄さんに恋愛感情を抱いているのかい?」
カルーアは珍しく恋愛系の話を、自分からサーシャに振った
「もちろんですの!でも珍しいですの、カルーアお姉さまから、そういう話を振ってくるだなんて……」
「あ、いや……その姉さんがさ、顔を赤くしてアドルフさんを見ていたろ?もしかして、アドルフさんにも好きって感情が芽生えたのかと思ってさ///」
「ふふ。カルーアお姉さまは分かっていませんの。アリスお姉さまはアドルフさんに、尊敬の眼差しを向けているだけで、恋愛感情は抱いていないと思いますの」
「そ、そうなのかい?」
顔を赤くして俯き加減に話しているカルーア。そんな彼女の心理に目星を付けたサーシャは、カルーアの周りをグルグル回りながら話し始めた
「カルーアお姉さまも、ヒイロお兄さまに恋愛感情を抱き始めたのですのね?」
「い、いや、そうじゃないよ……そりゃ、頼れて紳士な男性だからその…何かのキッカケがあったら……そういう気持ちも芽生えるかも知れないけど……い、いやいや…まだ、そこまでは思っていないよ…たぶん。……サーシャ?」
少し長い時間、下を向き歩きながら話していたカルーアは、サーシャの声が聞こえないことに今更気が付いた
「聞いてるのかい?」
カルーアは振り返った。
「サーシャ?……何処に行ったのさ?」
カルーアが振り返ると、さっきまで居たサーシャが忽然と姿を消していた。
街の中心部から離れているエリアなので、人通りはそれほど多くない。それでも、さっきまで隣にいたはずのサーシャが見当たらないことに、カルーアは驚きを隠せなかった。
続く




