クマと騎士
【アルバート家 6:30】
今朝は三姉妹が、ヒイロ抜きで初めてクエストへ向かう日だった。
目的地はエルドラ山脈手前の森林地帯。ランブルベアの討伐クエストだ。
三人はいつもより早起きをして、既に朝食も済ませていた。
「良いか?ランブルベアの体毛は青緑色だ。濃い色だから一定距離に居れば、ハッキリ姿が見える。ただ、中距離や長距離で森の中に居られると、体毛が森の色と同化し目で見つけるのは難しくなるぞ」
ヒイロは対ランブルベア戦の心構えを教えてくれていた
「じゃあ、近づいたら離れない方がいいんだねぇ?」
「うーん、それはどうだろう?」
「えっ!?ダメなのぉ?」
ヒイロのアドバイスから、ランブルベアを逃がさない為には近距離からの目視が必要そうだが…
「ランブルベアは素早いんだろ?そしてチカラも強い。絶えず近距離に居たら、パワーかスピードで負けてしまうよね?」
「そうだ。カルーアの言う通りだ。だからランブルベアを討伐する時は…」
..........................
「それじゃ、お兄ちゃん行ってくるねぇ!」
「ちゃんと留守番しててよ」
「行ってきますの」
三姉妹は冒険者ギルドからレンタルした馬車に乗り、目的地を目指して出発した
【森林地帯前】
カルーアが馬車の手綱を握り、移動すること3時間遂に目的の森林地帯が見えてきた
「あそこに居るんだねぇ…」
「気を抜いちゃダメだよ」
「はい、ですの……」
初のクエストがいよいよ始まることに緊張しているアリス。自分が姉妹を守らないと、と真剣なカルーア
「良いかサーシャ。この懐中時計をお前にあげるよ。サーシャは非戦闘員だから、サーシャが時間の管理をするんだ。15時になったら帰宅準備を始めるんだ。深追いはダメだからな……」
「お兄さま……」
ヒイロからもらった懐中時計を眺め、やや緊張しているサーシャ
..........................
「見つからないねぇ……」
「警戒しているのかもね」
目的地を目指して馬車を走らせるカルーアは、姉妹の様子を確認していた
(姉さんはちょっとやる気が出過ぎてるね。サーシャは……初戦闘で硬くなってるね。まぁ、仕方ないか。わたしがシッカリするしかないね……)
カルーアが今回のクエストに対する覚悟を固めようとしていた頃。
「取り敢えずお昼にしませんか?」
時刻は12時を回っていた
(熊さんを探せるのは後3時間。1度休憩した方が良さそうですの)
「わーい!お腹空いてたんだぁ!」
「そうだね。お昼にしようか♪」
早めの朝食から5時間以上が経過していたので、空腹を感じた三姉妹。サーシャがランチボックスの蓋を開けると……
「ガサゴソ…」
「ん!?カルーア、向こうの方から何か聞こえたよぉ…」
「うん、わたしも聞こえた。音から察するに大きい奴が居るね…」
「そ、そうなんですの?」
森の奥を見つめるアリスとカルーア。足音は少しずつ三姉妹に近づいてくる
「ヒュン!…ゴツ!…グアァァァ!」
足元の小石を拾ったアリスが、その先へ投石すると怒り狂ったランブルベアが現れた
青緑の体毛に大きな身体、胸元にある稲妻のような白いアザのような印。間違いなく、聞かされていたランブルベアだ
「お弁当に反応したんだねぇ。わかるよォ、サーシャのご飯は美味しいからねぇ!」
「サーシャは、わたしの後方に!姉さんは前衛を頼むよ。魔法で支援するからね!」
「うん、任せてよぉ!」
カルーアはヒイロから教わっていた、三姉妹にとって理想的なフォーメーションを指示した
「やらせないよぉ!バキッ!…かったーいぃ……」
カルーアに向けて走り出したランブルベアに、側面から攻撃を仕掛けたアリスだったが、手の平で受け止められるとアリスの方が痛みを感じていた
「ゴアァァ!!」
ランブルベアは後ろに飛んだアリスにその素早い脚力を使い、一瞬で間合いを詰め右手を振り上げた
「姉さん!もう1回後ろに飛んで!闇を走る雷よ、魔物を倒すチカラを貸せ。ジャムル・エッジ!」
カルーアの右手から放たれた電撃が、アリスを襲おうとするランブルベアに命中した
「もらったよぉ…えぇい!ズバッ!」
ヒイロに造ってもらったアリス専用のソードが、ランブルベアの胸元を斬り裂いた!
「グオォォォ!」
叫び声を上げたランブルベアは、一心不乱に森の奥へと駆けて行った
「追うよ姉さん、けど深追いはダメだからね。サーシャも、わたしから離れないでよ」
「分かってますの…はぁはぁ…」
アリスは持てるチカラを振り絞り、カルーアは姉妹を守るために奮闘し、サーシャは初戦闘の場に居る緊張感から呼吸が荒くなっていた
【森の奥】
「グオォォ…ピタ」
必死に走っていたランブルベアが、突然足を止めて立ち止まった
「どうしたんだろ?」
「何か罠でもあるのかもね?」
逃げ惑っていたランブルベアが、イキナリ止まったことに疑問を感じているアリスとカルーア
「見て欲しいですの。あそこに誰か居ますの!」
サーシャが指さした方向には、木々の間の岩に座っている騎士が居た
「騎士の人だぁ。良かったぁ♪」
人族の騎士の姿が見えたので、思わず安心したアリスだが…
「待って姉さん。何か様子がおかしいよ」
白銀の鎧に身を包んだ騎士は、目の前に居るランブルベアの接近にも身構えることなく、岩の上に座ったままだった。
「その人…死んでいますの」
「え!?そうなのかい?」
騎士が既に死んでいるという情報に驚いたカルーアだが……
「ブシュ!」
「はぁはぁ…やったよぉ♪」
背後から足音を抑えて近づいたアリスが、背中からランブルベアの心臓を貫いた
「グオォォォ……ドサッ!」
ランブルベアは、騎士に手を差し伸べるように大地に倒れ込んだ
「ウソ!?騎士さん、動きましたの!」
「何だって!?姉さん、離れて!」
ランブルベアの最期を目撃した、死んでいるはずの騎士が動いたのだ。そして……
「お、お、お…お前たちがやったのかぁ!!!」
突然立ち上がった騎士が声を張り上げ、憎しみの火を目に灯した
「このおぉ!」
ランブルベアを仕留め、勢いに乗っているアリスが騎士にも襲いかかろうとしたが…
「バサッ!……えぇ!?」
騎士の鎧と衣服の下は、骨だけの身体だった。つまりは死霊騎士だったのだ
「サーシャ!ターンアンデッドは使えたよね?お願いするよ!」
「は、はいですの…」
カルーアに言われ、魔法の届く距離まで近寄ろうと歩き出したサーシャだが……
「オオオォォォ…」
死霊騎士が錆びたソードを振り上げ、サーシャに襲い掛かる!
「ジャムル・エッジィィ!!……あれ?」
カルーアの雷撃をモロに受けた死霊騎士だが、止まることなくサーシャに襲い掛かる!
(しまった!アンデッドだから雷撃が効かないのか!?)
「任せてぇ!!ガキィィン!」
走り込んできたアリスが、サーシャに振り下ろされた死霊騎士の古びたソードの攻撃を受け止めた
「今だよ、サーシャ!」
「彷徨える魂よ。帰るべき場所へ還るですの……ターンアンデッド!!」
「オオオォォォォォォ!!」
サーシャから放たれた聖なる光が、死霊騎士を包み込み、魂ごと天高く登っていった
..........................
【ヘルメスの街へ帰還中】
「ふぅ…まさか死霊騎士まで現れちゃうとはね…」
「カルーアの魔法もぉ、サーシャの魔法もぉ、凄かったねぇ♪」
「あはは……サーシャはドキドキでしたの……」
馬車の荷台で、両手に燻製肉を持ちガツガツ食べているアリスと、緊張を和らげるように水筒の野菜ジュースを飲んでいるサーシャ
「サーシャ。わたしにも貰えるかい?喉がカラカラだよ……」
「はい、カルーアお姉さま」
カルーアにジュースを渡してから、懐中時計を見つめるサーシャ
時刻は16時。後30分もすれば、ヘルメスの街の入り口に着く所まで戻ってきていた
【冒険者ギルド入り口】
「まぁ三姉妹のみなさん。もうクエストを済まされたのですね。素晴らしいですわ♪パチパチ♫」
受付嬢のアップルが、玄関前に止められた馬車の荷台を確認して、三姉妹を褒め讃えた
「あら、これは?……イシス王国の紋様……まぁ、死霊騎士まで討伐されたのですか?凄いですね!」
「えへへ、それほどでもぉ♪」
「ほら姉さん。調子に乗らないの」
「借りてた馬車も無事に返せましたの♪」
クエストクリアに喜ぶアリスと、浮かれる姉を叱咤するカルーア。問題なく済んだことを喜ぶサーシャ。そこへ……
「おや?アルバート君のところの三姉妹ちゃんじゃないか。キミ達もクエストをしてきたのかい?」
「やるじゃないの!」
振り返ると、陽気な妖精を連れた赤毛の軽戦士アドルフが立っていた
「まぁ、アドルフさん達もクエストを終えられたのですか?」
すかさずアドルフにも対応する受付嬢のアップル
「よっこいしょ。ドサッ……聞いていたマンティコアの数、3体じゃなくて4体だったよ。全部倒してきたけどね」
「マンティコアをおひとりで4体も?」
アドルフの偉業に、普段は冷静な態度の受付嬢も驚いていた
「ヒトリじゃないわ。リリアもガンバったんですからね!プンプン……」
「あはは。リリアの魔法サポートはいつもながら大助かりだったよ(笑)」
ケロリとマンティコア報告をし、パートナーのリリアも労っている男アドルフ。まるで本物の英雄を見たように感じたアリスは、目をキラキラさせてアドルフを見つめていた
「アドルフさん、すっごーい!まるで英雄みたいだねぇ♪」
「アドルフさんは本当に「イシス王国の英雄」なんだよ?」
「そっかぁ、そうなんだねぇ♪」
無知なアリスに補足説明するカルーア
「アルバート三姉妹さん。クエストご苦労さまでした。これは報奨金になります。死霊騎士を討伐した分も上乗せして入れておきましたからね♪」
「やったぁ!お兄ちゃん褒めてくれるかなぁ?」
「そりゃ、そうさ♪」
ヒイロに頭を撫でてもらう期待をしているアリスと、満足気なカルーア
「そうですの!アドルフさん、お兄さまがクレリアソードの修理が終わったと言ってましたの」
「本当かい?実はヒイロ君から借りてたソード、マンティコア討伐で折れてしまってね、明日からどうしようか?悩んでいたから助かるよ」
「じゃあ、イマからサンシマイのイエへむかうのね!」
アドルフは受付嬢アップルから、マンティコア討伐の報奨金を受け取ると三姉妹と合流し、アルバート家へと共に歩み出した
「ねぇねぇアドルフさん。今度アタシにも剣技を教えてよぉ!」
「いいよ。ヒイロ君に許しをもらえたら、時間のある時に教えてあげるよ」
「本当?やったぁ!」
憧れの戦士アドルフから指南の約束を得たアリスは、嬉しさのあまりぴょんぴょん跳ねながら歩いていた
「……ランブルベアを討伐したんだね。更に死霊騎士まで現れたのか、大変だったね」
「でもねぇ、アタシもカルーアもサーシャも頑張ったんだよぉ♪」
「そうなんだ……そう言えば、凶暴な熊を飼っている騎士が周囲から反対されて、どこかの森の中で暮らしているって話を聞いたことがあるね」
「アドル~それってナンジュウネンもムカシのハナシでしょ~。もうイキテないんじゃないの?」
「………」
「えっ!?」
「もしかして……」
アドルフ達の話を聞いて、何かに気が付いたカルーアとサーシャ
「ねぇ、サーシャ。今夜はアドルフさん達も居るしぃ、晩ご飯は豪華にしてねぇ♪」
ひとり全く気がついてないアリスだった。カルーアとサーシャは、ヤレヤレと目を瞑った
..........................
「あの三姉妹。見所がありますね。もしかすると、将来有望株かも?観察する必要がありそうね♪」
三姉妹の予想以上の活躍に目を輝かせる受付嬢アップルだった
続く




