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ヘルメスの三姉妹  作者: 龍之介21時
三姉妹との出逢い
19/43

絶対の約束

【ヒイロの部屋 早朝】


まだ朝日が昇り始めた頃だった。お寝坊常習犯のアリスはもちろん、ヒイロもまだ、もう少し寝ているタイミングだった


「サーシャをぉ…離せぇ!…ゴチン!」


昨日、街でサーシャが危険な目にあったことを夢に見ていたアリスは、巨漢男に頭突きをカマそうとした


「あ!?痛た…痛いよぉ……」


しかし現実では、ヒイロの胸板に鼻の先をぶつけてしまった。それでもヒイロは何事もないかのように眠り続けていた


「やっぱりお兄ちゃんも強いんだなぁ…やっぱり筋肉なのかなぁ……」


アリスも筋トレは欠かさずやっていたが、昨日の巨漢男との力の差を思い出すと、単純な腕力では自分はまだまだ敵わないのだと思い知らされる。


「へっくちゅん!…ズズズ…」


「うわ!びっくりしたぁ…」


突然ヒイロはくしゃみをしたが、そのまま眠り続けていた。そんな彼の顔を眺めているアリスは……

挿絵(By みてみん)

(あは。お兄ちゃん可愛いなぁ♪)


マジマジとヒイロの顔を見続けていると、一昨日のカルーアの言葉を思い出した


「シャルルって嫌な女に絡まれてさ…その…つい勢いで兄さんとキスしてしまったんだ///だ、誰にも言わないでよ///」


「キスかぁ…お兄ちゃんとキス…ボっ///」


自分がヒイロとキスするシーンを想像したアリスは急に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしてしまう


「ガバッ!」


ヒイロと距離を取ろうと、その勢いで起き上がったアリスは掛け布団を引っ張ってしまった


「んお?アリスか…今朝は早起きなんだな…」


「えへへ。目が覚めちゃったぁ…」


それから家族揃って朝食を取った。


..........................


「サーシャ手伝うよ」


カルーアは食器の後片付けをしようとするサーシャの右肩のことが気になり、一緒に後片付けを始めた


「俺はちょっと工房で仕事してるからな。何かあったら呼んでくれ」


「アタシは…どうしようかな?」


前に料理の用意と片付けを手伝った際に、皿を割ったり野菜を落としたりと余計なことをして、カルーアに注意されたことを思い出したアリスは、1人で何をしようか悩んだ


「ねぇ。お兄ちゃんの仕事を見てても良い?邪魔しないからァ…」


「..........................」

「..........................」


「……良いよ。あんまり近いと火傷するかもだから、少し離れた位置に居てくれるならな」


カルーアとサーシャは、突然のアリスの提案に驚いて何も言わなかった。ヒイロも少し考えて返事したようだ


「うん。わかったぁ!」


アリスはヒイロに付いて行き工房に入っていった




【工房】


「トンカン…コンコンコン…ゴツ、ガツ…」


ヒイロはソードを眺めてはハンマーを振り下ろし、叩いた場所を観察しては熱を足したり冷ましたりしながら、時間をかけて新しいソードを作っていた。


「この前エルドラ山脈で、ヴォイド化したハイランダーウルフと戦った時に予備のソードが傷ついたからな。あれは貸し出し用だから、新しいのを作っているんだ。」


「そうなんだ。ごめんねぇ、チカラ任せに振り回して傷付けちゃってぇ…」


アリスはヒイロに言われた通り、5メートルほど距離を取ってヒイロの仕事を眺めていた。


「いや、構わないさ。お前たちが傷つくくらいなら、武器防具が傷ついた方がいい。武器防具はまた直せばいいんだからな。」


「うん、そうだねぇ…」


アリスはハンマーを振るうヒイロの手元から目を離さなかった。


普段ならすぐに飽きてしまいそうな光景なのに、今日は不思議と気になって仕方がない。


「ねぇ、お兄ちゃんはチカラあるよね?もっとチカラを入れて叩いたら、硬い武器が出来るんじゃないのぉ?」


「あはは。それじゃダメだよ。素材によって、最適な叩き具合ってのがあるんだよ。」


「そうなのぉ?」


ヒイロは手を止めてアリスの方に向き直った。


「アリスは同じくらいの歳の女の子よりチカラあるだろ?」


「それはもちろんだよぉ!」


「でもチカラ自慢の男相手には敵わないよな?」


「う、うん。昨日アタシ負けちゃったぁ……」


昨日、巨漢男に負けたことを思い出したアリス。


「けどさ、アリスはパワーだけじゃないだろ?スピードも使えば有利になるぞ!」


「あ!そうだ、そうだよねぇ!」


負けた思い出で、しょんぼりしていたアリスの顔が少し明るくなった。


「更にアリスはソードも使える。いくら怪力の男でも、武器の扱いが下手くそで足も遅かったら、その弱点を突けばアリスが勝つだろ?」


「そうだぁ…絶対に負けないよぉ!」


今度は自信満々になったアリスだが、ヒイロは険しい顔になった。


「俺はさ、アリスの純粋無垢な笑顔が大好きだよ」


「う、うん?ありがとォ?」


アリスは急に褒められた理由が分からなかったが、ヒイロは続ける。


「…が、もしもその大男が武器に長けていて、意外に素早かったらどうするんだ?」


「え?あっ!どうしよぉ……」


急にアリスは元気をなくした。


「もしもだ。3人でクエストに出た先で、アリスが1度倒したことのある魔物と同じ魔物に遭遇して「アイツ相手なら勝てる。カルーアとサーシャは絶対に守るよ」と言って、万が一守れなかったらどうするんだ?」


「そ、それは……どうしたらぁ……」


「な?人と約束するのは難しいんだ。それに、絶対に結果を出せるとも限らないんだ」


「そ、そうだよねぇ。ごめんなさい。簡単に絶対とか言っちゃってぇ…」


「アリスを責めてる訳じゃないんだ」


ヒイロは優しい笑顔で、アリスの頭を柔らかく撫でながら続けた


「特に3人(三姉妹)のパーティではアリスが前衛なのは変わらない。そのアリスが魔物に突破されたら、カルーアとサーシャのもとに魔物が行く」

挿絵(By みてみん)

「それはダメだよぉ!」


「まァな。でも、絶対に抜かさせない事を守り続けるのは難しいだろう?相手がアリスより強いこともあるし、相手が1人じゃ相手出来ないほど多いこともあるよな?」


アリスはヒイロに近付き、彼の服の端を掴んで答えを乞う目で見上げた


「そういう時って、どうしたら良いのぉ?」


「考えるんだ。全力を尽くすんだ。絶対にやり遂げる気持ちでな」


「気持ちぃ?」


ヒイロは笑顔を浮かべると膝を曲げ、アリスと同じ目線まで腰を落とした


「世の中では色々なことが起きるものだ。平和なヘルメスの街でも急に誰かに絡まれたり、勝てる相手だと思っていたら急に数が増えたりとかな」


「う、うん……」


「だから絶対の結果は約束出来ないんだよ」


「じゃあ、どうしたら良いのぉ?」


「さっきも言ったろ?全力を尽くすんだ。それでもどうにもならなかったら仕方ないさ。カルーアもサーシャもアリスを責めたりしないだろうぜ」


「そ、そうかなぁ?」


純粋無垢なアリスは、それが本当なのか?自信が持てないようだ。


「例えば昨日サーシャが崖下に落とされたよな?」


「うん、あれはビックリしたよぉ」


「俺は普段使わないようにしている紅血化の能力を使って、絶壁の斜面を走ってサーシャを追い掛けた。結果サーシャを助けられたけど、もし、助けられなかったらサーシャは俺を責めると思うか?」


「ううん。サーシャは責めない…アタシもカルーアも責めないよぉ!」


「そうだろう。俺が必死になって全力を尽くした結果だからな……俺はアリスの明るい性格が大好きだ」


「お兄ちゃん?」


「けど、考え無しに行動して家族を危険な目に遭わせたくはないよな?」


「うん、もちろん!」


「だったら全力を尽くすんだ。人の多い場所、逆に人気がなくて怪しい場所、魔物の生息地など、何かありそうな場所では常に気を張っておくんだよ」


「分かったぁ!アタシもそうするね♪」


アリスは一応の答えを知ることが出来て、満面の笑みを浮かべた


「それで良い。アリスが一生懸命にやってくれた結果なら、誰もアリスを責めたりしないよ」


「うん、ありがとぉ♪」


アリスはヒイロの顔をマジマジと見詰めた。その時、一昨日カルーアから聞いた言葉を再び思い出した


「勢いで兄さんとキスしちゃってさ///」


アリスの目の前にはヒイロの顔があった


「(*´³`*) ㄘゅ」


「ど、どうしたんだアリス?」


「……柔らかいねぇ///」


真面目な話をしていたのに、突然アリスからキスされて驚きのあまり立ち上がったヒイロ


「あのねぇ、一昨日カルーアと寝てた時に「シャルルって人に絡まれて勢いで兄さんとキスしちゃったのさ」って聞いてからァ、キスってどんなのかな?って気になっちゃったぁ///」


「か、カルーアぁぁぁ…口が軽すぎだろお!」


思えばアリスが背中を流したい!と言い始めたのも、アリスがカルーアから聞いていたからだった。今のキスもカルーアの情報からきた行動だったことを知り、憤慨したヒイロ


「…ともかくだ。少し外に出てソードの訓練しようか?」


「え!?訓練?やるやるぅ!」


急に明るい顔になったアリス


(やっぱり話ばかりじゃ退屈だったんだな)




【リビング】


「サーシャ。兄さんと姉さんは、まだ工房なのかい?」


キッチンからカルーアが、生地の入ったボウルとオタマを持って出てきた


「2人とも、先程ソードを持って中庭に行かれましたの」


「そうなんだ…じゃあ、アップルタルトでも作っててあげようかな♪」


カルーアはヒイロとアリスが疲れて戻るだろうと予想し、キッチンで甘いものを作ることにした




【中庭】


「始める前にもう少しだけ言っておくが、アリスは柔軟性とスピードに長けている。そこを活かすように考えて戦うんだよ」


「うん、分かったぁ!」


ヒイロはレンタルの刃引きしてあるロングソードを構えた。アリスは同じレンタル用のノーマルソードと、ショートソードの二刀流で構えた


「ふうぅぅ…」


ヒイロはソードを下から上へゆっくり構え上げる。水平になる手前で「ピタッ」と止めた


「え!?」


「行くぞっ!」


ヒイロが中途半端な高さでソードを止めたことに一瞬気を取られたアリスは、ヒイロの突進に対して反応が遅れた


「ブウゥン!」


素早くバックステップしてヒイロの攻撃を回避したアリスは、地面を蹴飛ばし一気に間合いを詰めようとした


「グッ!…おおぉ!」


ヒイロは振り上げたソードを途中で強引に止めると、そのまま薙ぎ払いに移行した


(攻撃が戻ってきたぁ!止めなくちゃ…でも、力で勝負したら負けちゃう。アタシの速さを使うんだぁ!)


「しゅるん…」


戻ってくるヒイロのソードを屈んで回避したアリスは、ノーマルソードをヒイロの胸元に突き立てた


「なんとぉ!…ガシッ!」


ソードを持っていない左手で、アリスのノーマルソードを持つ左手首を掴んで止めたヒイロ


しかし!アリスに閃きが走った!


(ここだぁ!!)


「えへへぇ♪」

挿絵(By みてみん)

「あっ!?」


アリスのノーマルソードは止めたが、左手に持っていたショートソードを喉元に添えられたヒイロ


「やるなアリス。冷静な判断とテクニックだったぞ♪」


「やったぁ!お兄ちゃんに初めて勝てたァ♪ねぇねぇ、頭ナデナデして♪」


「お安い御用さ。さて、そろそろ昼飯が出来てる頃だな。家に帰ろうぜ」


頭を撫でられながら上機嫌で家へ戻っていくアリス


「お兄さま!アリスお姉さま!お昼ご飯が出来ましたの♪」


家に戻るとサーシャの肉入り野菜炒めと、カルーアのアップルタルトがアリスの初勝利を称えてくれた


(初めてお兄ちゃんに勝てた!これからも強くなって妹たちを守るんだぁ♪)


「アリス。お前は長女だから妹たちを守れるようにならないとな」

挿絵(By みてみん)

「うん!もちろんだよぉ♪」


(ま、1番年上の俺は言うまでもないんだがな)


アリスに長女としての自覚を促しつつも、同時に自分への覚悟もしたヒイロ


「やった、勝てたぁ!これからも頑張るもんねぇ♪」


ヒイロからもぎ取った初勝利が、アリスに少しだけ自信を与えてくれたようだ




続く



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