強い男
【翌朝 ヒイロの部屋】
「……おはようサーシャ…サーシャ?」
日が昇って少しした頃、ヒイロがベッドで目を覚ますと……一緒に寝ていたサーシャの姿はなかった
「ん?良い匂いがするな…サーシャか?」
ヒイロがサーシャの事を気にしていると、閉じきっていないドアから美味しそうな匂いが漂ってきた
【リビング】
顔を洗ったヒイロがリビングに来ると、リビングの左手奥のキッチンから良い匂いが強く香ってくる
「サーシャ早起きだな♪」
ヒイロがキッチンに向かおうとした時
「ドスンっ!…いった~い!」
リビングの正面奥の三姉妹の部屋から鈍い音と、アリスの悲鳴が聞こえてきた
「大丈夫かアリス?」
昨日の強盗のこともあり、慌てて三姉妹の部屋のドアを開けたヒイロだが…
「んあぁ…お兄ちゃん、おはよぉ…」
ベッドからアリスが落ちた音だった
「大丈夫かアリス?……おや、カルーアが居ないな。一緒に寝てたんだろ?」
「んぅとねぇ…夢の中で「サーシャの手伝いしてくるよ」って言ってた気がするよぉ…あぅ!頭が痛いぃ……」
恐らくアリスを起こしながら言ったカルーアの言葉を、眠気のあまり夢の中のことと勘違いしているアリス
「そうか、サーシャもハイランダーウルフに肩を刺されていたもんな。俺も行くか…アリスも顔を洗ってきなさい」
「はぁーい!」
【キッチン】
「サーシャ、肩は大丈夫なのかい?」
「回復魔法で治しましたので動かせはするのですけど、まだ痛みは引きませんの……」
「ガチャ。カルーア、サーシャおはよう!」
「おはよう兄さん」
「おはようですの」
ヒイロがリビングに入ると、カルーアとサーシャがエプロンをして朝食を作っていた。サーシャは時折、右肩を気にしていた
「右肩は大丈夫なのか?」
「はい。少し痛む程度ですの」
「俺も手伝うよ」
肩を気にしているサーシャを見過ごせなかったヒイロが、自分も手伝おうとしたが、包丁を持ったカルーアが前かがみになりジト目でヒイロに話し掛けた
「何いってんのさ!兄さんもサーシャを助ける為に、かなり右手を痛めたんだろ?……わたしがするから、2人ともリビングで紅茶を飲んでなよ!」
すっかり熱も引いて元気になったカルーアに、キッチンから追い出されたヒイロとサーシャ
【リビングにて朝食中】
「もぐもぐ…うん!我ながら美味しく出来たね。まぁ、半分はサーシャが作ってたのを完成させただけなんだけどね///」
「うぅん。美味しいよカルーア♪」
謙遜するカルーアに、満面の笑みで肉を頬張るアリス(肉が無いとアリスが不機嫌そうな顔をするので、最近はこまめに肉を入れているようだ)
「朝食が済んだら、アリスとサーシャで食材を買い足しに行ってくれ」
「わたしも付いていかなくてイイのかい?」
「カルーアも元気になったとは言え、病み上がりだろ?外に出てぶり返すと良くないだろ?」
「そうですの!サーシャとアリスお姉さまに任せて欲しいですの。」
「全く過保護なんだから、みんなして…無理ない程度に部屋の掃除でもしておくよ」
仕方ないな。みたいに言いつつも、自分を心配してくれる家族の言葉に少し頬を赤らめて喜ぶカルーア
【大通り 青果店】
「今日もたくさんの人が居るねぇ…」
「ヘルメスは大きな街ですので、当然ですの。あ!新しい野菜が入ってますの!」
「野菜ぃ?それよりも、お肉買おうよぉ!ねぇ、サーシャぁ…ドシン!」
サーシャとの買い物が楽しくて、周りをよく見ていなかったアリスは巨漢の男にぶつかった
「おいおいお嬢さんたち。はしゃぎすぎるのは危ないな……」
2メートル近くの身長の男は前かがみになり、アリスに顔を近づけてきた
「ごめんなさいですの。許して欲しいですの……」
「おいおい。それじゃ俺がお嬢さん達を虐めてる悪いヤツみたいじゃねーか……まぁ、お詫びを貰えば許してやらん事もねーがな(笑)」
「きゃあぁぁぁ!」
そう言うと巨漢の男は、サーシャのベルトを掴み軽々と持ち上げた
「サーシャを離してぇ!ゲシッ、バシッ!」
サーシャに暴力を振るう巨漢男を追い払おうと、殴る蹴るをしたアリスだが……
「獣人族か…しかし、チカラが全然足りんなー……バシッ!」
「きゃううぅ!?」
アリスの手を片手で払い除けると、後ろへ吹き飛ばされたアリス
「ザワザワ、ザワザワ…」
「何見てんだコラァ!見せもんじゃねーぞ!」
騒ぎが大きくなり、周囲の人達から注目を集めた巨漢男
「ガシッ、グイー!」
巨漢男は後ろからベルトを掴まれると、そのまま上へ持ち上げられた
「な、何すんだテメェ!お、降ろしやがれ!」
「そんな可愛いお嬢さんを持ち上げておいて、どの口が言ってるんだ?……自分で飯を食えないようにしてやろうか?」
「ひいぃ!?離します!ガキを離しますから、降ろしてください!……お、覚えてろぉ!!」
巨漢男はサーシャを降ろすと、負け惜しみを言いながら人混みを掻き分けて逃げて行った
「2度と顔をみせるんじゃねーぞ!……2人とも大丈夫か?」
「助かりましたの。サーシャと言います。お名前は?」
「ガルダンだ。冒険者をしている。ガラの悪い奴も居るから、気をつけるんだ」
ぶっきらぼうな口調だが、助けてくれたガルダンに礼を言うサーシャ。続けてアリスは……
「助けてくれてありがとう。ガルダンおじちゃん♪」
「お、おじ……俺はまだ23だ。おじちゃんじゃねーよ!」
「えっ!?」
「マジかよ?」
「本当に?」
その騒動を見ていた野次馬たちは、ガルダンが23歳と言ったことに驚いていた
「どけどけ見るなよな///」
目立ったのが恥ずかしかったのか?おじちゃん呼ばわりされたのが恥ずかしかったのか?ガルダンは人混みの中へ消えていった
【アルバート家 工房】
「うぅーん。上手くいかないな……」
「ガチャ。兄さん、イチゴケーキ作ったんだけど食べない……ん、どうしたのさ。難しい顔をして?」
ヒイロがクレリア鉱石の修理が上手くいかないので悩んでいた時、カルーアが中に入ってきた
「クレリア鉱石は魔法を付与出来る特殊な素材なんだ。その分、キッチリ直さないと強度がガタ落ちしてしまうんだが、思うようにいかなくてな……」
「わたしでも手伝えるかな?」
カルーアは胸に手を当てて、自分も協力したい意志を示した
「素材を溶かして結合するんだがな、最初は高温で接続部に付着させるんだが、同化が進む度に温度を下げる必要があってな。これが思った以上に難しいんだ……」
「ねぇ。その温度調節、わたしの魔法でやってみようか?炎系の魔法はあまり得意じゃないからどれだけ手伝えるかは分からないけどね……」
「いや。魔法付与に優れた素材なんだから、魔法で温度調節すれば上手くいくかもしれないぞ。頼むカルーア!」
「し、仕方ないな///そんなに言うんなら、手伝ってあげるよ///」
カルーアは目線を逸らしたが、真っ直ぐに頼まれたのが嬉しくて顔を赤くしていた
..........................
「おお!出来たぞ。カルーアの魔法のおかげだな。ありがとう助かったぞ。見ろ!この透明な輝きを!」
「そんなに大したことはしてないよ///でも、修理が無事に終わって良かったね、兄さん♪」
カルーアの魔法による温度調節のおかげで、難しかったクレリアソードの修理を完成させたヒイロ
..........................
「ガチャ。帰りましたの…」
「お兄ちゃ~ん、カルーアぁ。帰ったよぉ!」
丁寧な挨拶をするサーシャに対し、元気いっぱいな挨拶をして家に入ってきたアリス
「ん?あぁ、お帰り2人とも。もぐもぐ…うん、美味しいぞ♪」
「そうかい?それは良かったよ♪」
「お兄ちゃん、何食べてるの?」
リビングでソファに座りながら何かを食べているヒイロが気になったアリスと、ヒイロの真横で幸せそうに座っているカルーアが気になったサーシャ
「カルーアがイチゴケーキを作ってくれたんだ……ふぅ、ご馳走さん♪」
「えぇ!?イチゴケーキぃ?カルーア!アタシも食べたい、食べたい、食べたいよぉ!!」
「わ、分かったよ姉さん。でも材料がもう無いから明日で良いよね?」
「あら?ちょうど今のお買い物で、イチゴケーキを作れる材料も買ってきましたから、一緒に作りましょう。カルーアお姉さま♪」
..........................
「もぐもぐ…はふぅ。美味しかったぁ♪カルーア、ありがとうねぇ!」
カルーアとサーシャに作ってもらったイチゴケーキを、食べ終わったアリスは…
「今夜はアタシがお兄ちゃんと一緒にお風呂に入ってから、お兄ちゃんと一緒に寝るぅ!」
と言い出した
「えっ!?」
驚いたヒイロだが、カルーアとサーシャは顔を見合わせ「今日くらいは仕方ないか(笑)」と言った。
ヒイロが食べ終わった食器の後片付けをしようと言ったのだが……
「わたし達がやっておくよ」
「任せてくださいですの♪」
カルーアとサーシャが気を使ってくれた。
「さぁ、一緒にお風呂入ろぅ。お兄ちゃん♪」
「いや、しかしだな……」
ヒイロの服を掴み嬉しそうに風呂場に向かうアリス。
「まぁ、1番エッちい事に無縁な姉さんなら、間違いは起きないだろうね」
「サーシャは間違いが起きても構いませんの♪」
「わたし達には、そういうのはまだ早いってばさw」
カルーアはヒイロに対して、全然恥じらいを見せないサーシャに呆れていた
【アリスとお風呂】
「えへ、お兄ちゃん。初めて2人で一緒にお風呂だねぇ♪アタシ、まだまだ子供だけど…宜しくねぇ♪」
アリスは少し恥じらいながらも脱衣場で服を脱ぎ始めた。
「本当に良いのか、俺と一緒に風呂に入っても?」
「どうしてぇ?家族で一緒にお風呂に入るだけだよぉ……それに、カルーアには背中流してもらったんだよねぇ?カルーアから聞いたよぉ」
「な、なにぃ!?」
(カルーアぁぁぁ!簡単にアリスに話してんじゃねーよ)
「そ、そうだな。アリスが恥ずかしくないんなら、お願いしようかな?」
「うん!任せてぇ!」
自分のことを家に住まわせてくれるヒイロに恩返しがしたかったアリスは、嬉しそうに返事をした
「……そうだ。アリスはイチゴが好きなのか?さっきもカルーアに頼んで、いちごケーキ作ってもらってたよな」
背を向けているヒイロの背後から、全身をバスローブで包んだアリスが、一生懸命にヒイロの背中を洗っていた
「うん、そうなのぉ!イチゴってぇ、甘酸っぱさが最高だよねぇ!それにぃ、お義父さんがクエスト帰りにいつも買ってきてくれたんだぁ♪」
「そうか…良いお義父さんだったんだな」
「うん、不器用だけどぉ、優しいお義父さんだったよぉ♪」
「ゴシゴシ…」
アリスはヒイロの背中を洗いながら、亡き義父のことを思い出していた
(そう言えば、お義父さんも筋肉凄かったなぁ…ガルダンさんほどじゃなかったけど…)
「そう言えばお兄ちゃんも結構、筋肉付いてるんだねぇ」
「まぁな。鍛冶屋はかなりチカラ仕事だからな。非力ではやってられないんだ。ところで、他に筋肉質な人を知ってるのか?」
..........................
アリスは昼間、巨漢男から助けてくれたガルダンのことをヒイロに話した
「そうか。今度会えたらちゃんと礼をしないとイケナイな」
「うん!アタシもお礼したいよぉ」
「そうだ!アリス達が帰ってから、カルーアがもう1回イチゴケーキ作ってくれたろ?俺の分はまだ食べてないんだ。今から半分こずつして食べないか?」
「え?いいの?お兄ちゃん!」
【夜のリビング】
お風呂を済ませた2人はリビングに来て、紅茶を2人分用意し、イチゴケーキを半分に切った
「本当にもらって良いのぉ?」
「もちろんさ。アリスはいつも元気に頑張ってくれてるからな♪」
「ありがとぉ!お兄ちゃん、大好きぃ❤︎」
食べ終えた2人は、ヒイロの部屋に行き同じベッドに潜り込んだ
【ヒイロの部屋】
「んふ。お兄ちゃんもガッチリした身体してるねぇ。匂いもお義父さんと近い感じだよぉ♪」
「そうか?アリスは……土とイチゴの匂いがするな♪」
「えへへ、土もイチゴも大好きだもーん♪」
「そうか、それじゃそろそろ寝ような?」
「うん!おやすみなさい、お兄ちゃん」
(ありがとう、お兄ちゃん。こんな凶暴なチカラを持つアタシを受け入れてくれて…アタシ、すっごく幸せだよぉ♪)
アリスはヒイロに頭を撫でられながら、このアルバート家で過ごして良い幸せを噛み締めながら、気持ち良く眠りに落ちていった
続く




