目的達成!
【アルバート家の夜】
「………ガチャガチャ……ん、誰か居るのかい?」
眠っていたカルーアは、玄関の鍵を開けようとする音に反応した
「バカヤロウ。もっとスマートにやれねーのか!」
「兄貴。そんな大声出したら誰かに聞かれちまいますよ……」
「バカか。こんな離れた家に誰が来るかよ。ただ時間喰い過ぎだっての!」
(ヒイロ達じゃない。何か金具を使って無理に開けようとしている……泥棒?)
「ガチャ、開いたっすよ」
「よーし。工房は一番奥の部屋らしいぞ。良いか、誰も居ないがスマートにな」
(やっぱり泥棒だ。けど…どうして今日なんだろ?……兄さん達が出掛けたのがバレてる?)
玄関から右手が、三姉妹の部屋とキッチン、リビングがあり、左に行くと風呂、洗面所、ヒイロの部屋と工房がある
「バカ。ソッチじゃねー。左だ」
「あ、すんません。ギシギシ…」
盗賊の2人は一応の用心をして、足音を殺すように歩いていた。工房に行くには洗面所の前を通り、ヒイロの部屋を通って行くことになる
(彼ら工房に行く気だね…何か目当てがあるんだね)
カルーアは盗賊の2人が、全部屋を物色せずに工房を目指しているのを理解した
(あ!?クレリアソードだ!彼らは今この家に、アドルフさんのクレリアソードがある事を知っているんだ)
Bランク以下の冒険者がメインの客であるアルバート工房には、普段は盗むほど高い価値の物は無い。だが今は、アドルフから預かっているクレリアソードがあるのが、バレていると悟ったカルーア
……………………………
「兄貴。クレリアソードなんてもんねーっすよ」
「鎧も短刀もBランク以下用の物ばかりだ。まさか、エルドラ山脈に持って行ったのか?……いや、途中で傷が付いたりするとマズイから置いてあるはずだ……」
盗賊のリーダーの方は、クレリアソードが家の中にあると信じているようだ
「兄貴。さっき素通りした部屋にあるんじゃないすか?」
「そうか!高級品だから自室に保管しているんだな。行くぞ」
盗賊2人は工房を出ると、今夜カルーアが1人で寝ているヒイロの部屋を目指した
「カチャ……」
リーダーの方が微かにドアを開けて、半身で中を覗き見するように見た
「あ!?アレだ!…ギイィ…バシャぁ!」
ベッドの横に飾られているクレリアソードを見つけた兄貴分が勢いよくドアを開けると、ロープでドアノブに結ばれた天井に吊るされたバケツがひっくり返り、盗賊2人は水浸しになった
「タタタ…この家に盗みに入るなんて許さないからね!…雷よ。不届き者にお仕置を与えて!」
「ぎゃああああ!」
「あばばばばば!」
バケツの水でズブ濡れになった盗賊2人に放たれたカルーアの雷魔法。水は電気を流しやすいので、熱で本調子ではないカルーアでも一撃で失神させた
「イシスの英雄の宝剣を盗まれたら、兄さんの評判が下がるだろ?そんな事、私が許さないからね!」
カルーアは工房に行き鋼鉄製のワイヤーを持ってきて魔法で操り、2人をぐるぐる巻きにして玄関に放置した
【エルドラ山脈 中腹の朝】
「お兄さま。クレリア鉱石、見つからないですの…」
「そうだな。頂上付近に行けばあるんだろうが…危険すぎて俺達だけでは…」
「お兄ちゃん!向こうから…3体迫って来るよぉ!」
朝からクレリア鉱石を中腹エリアで探していたが見つからずに困っていた時、遠くから3体の狼がヒイロ達の方に迫っていた
「アリス!武器を持て!俺とアリスで退治するぞ!サーシャは後ろに居るんだ」
「は、はいですの……ガシッ」
サーシャはヒイロの後方に下がる時に、採掘用のノミとハンマーを手にした
「あれは…ハイランダーウルフか。餌を探して降りてきたのか。」
「あの狼たち、変な匂いがするよぉ」
「何?……あの、青黒い体。まさか、ヴォイド化しているのか?…気をつけろアリス。手強いぞ!」
「う、うん。えーいぃ!」
「ヒラリ…タシ」
先頭を走ってきたハイランダーウルフは、出会い頭のアリスの剣戟を飛んで回避した
「こいつ!…ガシィ!」
2頭目が大きく口を開けて噛み付いてきたが、ソードを横に向け噛まれるのを阻止したヒイロ
「アリスお姉さま!お兄さま!」
後方でノミとハンマーを持ち、控えているサーシャを目掛けて残りの1頭が走り出した
「きゃあぁぁ!?」
「サーシャ!」
ヒイロが咄嗟に振り向くと、ハイランダーウルフの喉にノミを射し込み、片手の爪をもう片方で押さえたサーシャが、高山犬の突進の勢いに押されて崖下へ転落して行くのが見えた
「てめぇ…邪魔だ。どきやがれぇ!」
「お兄ちゃん。目が…」
アリスが振り返ると、ヒイロの目はみるみる紅く染まっていった
「ズバッ!サーシャ、今行くぞ!」
釭血化しステイタスが急上昇したヒイロは、一撃でハイランダーウルフの腹を切り裂きサーシャを追い掛け崖を降って行った
「ぐうぅ。痛いですの…」
サーシャは前足の爪を、右肩に刺し込まれたまま落下していた
前回アリスのヴォイド化訓練で行っていた場所よりも、標高が倍くらい高いエルドラ山脈の中腹地点から落下したら、運が良くても生命は助からないだろう
「サーシャァァァ!」
ヒイロは崖に近い厳しい急傾斜を全速力で走り、落下中のサーシャに追いついた
「どきやがれっ!…バキィ!」
ヒイロは、サーシャの右肩に爪を喰い込ませているヴォイド・ハイランダーウルフを殴り落とした
「良しっ!捕まえたぞ!」
左手でサーシャの服を掴んだヒイロは、右手に持つソードを斜面に突き刺した
「ビキィッ!グアッ!」
「お兄さまっ!?」
いかにサーシャが軽いとはいえ、落下している2人分の体重をソード1本で支えたヒイロの右腕に、強い衝撃が走った
..........................
「ドサッ。はぁはぁ…よし、スペースがあるぞ。ここで一休みしよう」
「お兄さま。右手は大丈夫ですの?…あっ!?肩が真っ赤に腫れていますの…サーシャの回復魔法で治しますの…」
「助かるよサーシャ…。そういえばサーシャも右肩やられてたろ?」
「あ、はい。サーシャのは後から治しますから…」
「本当にサーシャは優しいな♪」
自分の怪我のことは眼中になく、ヒイロの怪我を一生懸命に魔法回復してくれているサーシャの頭を撫でるヒイロ
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「お兄ちゃーん!大丈夫ぅ?もう1頭はやっつけたよぉ!今、ロープを降ろすからねぇ!」
アリスは崖際から少し離れた場所に杭を打ち、そこにロープを繋いで反対側をヒイロたち目掛けて下ろし始めた
「助かったなサーシャ」
「はい!…あ!?お兄さま、あそこを見て欲しいですの」
「えっ!?…あっ!」
サーシャが指差した方に、青銀色に輝く鉱石が何本か生えていた
「凄いな。危険な急斜面に生えているから手付かずだったんだな。あんなに立派なのが沢山あるぞ」
「これで修理出来そうですか?」
「バッチリだ。おーいアリス!大きめの袋をいくつか持って、お前も降りてきてくれ!」
..........................
「たっぷり見つかって良かったですの。それに、サーシャを助けに来てくれたお兄さま……カッコ良かったですの❤︎」
サーシャは危険な急斜面を顧みずに、必死に助けに来てくれたヒイロを頬を染めて見つめていた
「ヨシ!クレリア鉱石も見つかったし、そろそろ家に帰ろうか?」
「そうですの。カルーアお姉さまが1人で留守番してますから、早く帰りますの」
あれだけ危険な目にあったのに、すぐさま熱を出しているカルーアの心配をしているサーシャ
「お兄ちゃん。お腹減ったぁ、何かなぁい?」
「そうだな。サーシャもアリスも頑張ってくれたから、干し肉でも食べようか!」
アリスもカルーアの事は心配しているが、それよりも空腹が気になって仕方ないようだ
「えっ!?良いのぉ?」
「ヴォイド化したハイランダーウルフを、1人で倒せるくらいに成長したんだからご褒美だよ」
干し肉は日持ちが良く栄養価も高いので、余程のことがない限り簡単には食べない高級品なのだが、姉妹の頑張りに振る舞ったヒイロ
【その日の夕方】
「ガチャリ。カルーア、良い子で留守番してたか?…うわ!?なんだコイツら?」
玄関を開けると、鋼鉄製のワイヤーで縛られた2人の男が居た
「おかえり兄さん達、鉱石は無事に見つけられたのかい?…コイツら?クレリアソードを盗みに入って来たから捕まえたんだ♪」
「凄いなカルーア。クレリアソードを護ってくれてありがとうな♪」
「えへへぇ。鉱石はバッチリだよぉ♪」
アリスはニコニコ顔で立派なサイズの鉱石を、カルーアに見せびらかした
「やったね兄さん!これで修理出来るんだね?」
「まぁな。でもその前に、この2人を冒険者ギルドに手渡してくるよ」
「アタシも付いてくぅ!」
「サーシャはご飯の用意をして、お待ちしていますの」
ヒイロはアリスと、盗賊2人を馬車の荷台に乗せ冒険者ギルドに向かった
..........................
「まぁ、あの盗賊さんたち懸賞金が掛かってたんですのね」
ヒイロは盗賊2人を冒険者ギルドに差し出した時に、30万ゼニーの報奨金を受け取った
「明日、アリスとサーシャで街に食材を買いに行ってもらえるか?」
「え!?姉さんとサーシャの2人だけで行ってもらうのかい?」
色々心配なアリスと、戦闘力の低いサーシャ2人に買い物に行ってもらうのに不安を感じたカルーア
「大丈夫だもぉん!アタシね、1人でヴォイド化してたハイランダーウルフを倒したんだからねぇ♪」
「え?凄いじゃないか!」
ヒイロは金勘定がシッカリしているサーシャと、ヴォイド化したハイランダーウルフを倒せたアリスの強さなら、2人で街に出しても大丈夫だと信用した
【アルバート家の晩ご飯】
「お兄さま。今夜はサーシャと一緒に寝て欲しいですの❤︎」
食事中なのに、ヒイロにベタベタ擦り寄っているサーシャ
「サーシャ…何も交代制で兄さんと一緒に寝るキマリとかないんだよ?」
「そうですけど…昨夜はカルーアお姉さまが、その前はアリスお姉さまでしたし、今夜はお兄さまの怪我を魔法で回復したサーシャの番ですの❤︎」
「そ、そうだな。今夜はサーシャと寝ようかな?」
食事の後、三姉妹、ヒイロと風呂を済ませると、ヒイロが自室に戻った時には寝巻きのサーシャがベッドに寝転んでヒイロを待ち構えていた
「お待ちしておりましたの❤︎」
【三姉妹の部屋】
「姉さん。帰ってからサーシャは兄さんにベタベタだけど、エルドラ山脈で何かあったのかい?」
「んーとねぇ、ハイランダーウルフに襲われた時にサーシャが崖下に落とされてぇ、お兄ちゃんが釭血化ってのになって助けたんだよぉ。ふあぁぁ…」
全然、恋愛感情などはないアリスは、サーシャがいつも以上にヒイロにベタベタしている事を、少しも気にしていないようだ
「やれやれ、今回はサーシャが落ちたのかい?もっと気を付けないとだね」
「うん、お腹空いたぁ…リビングに何か無いかなぁ?」
「夜に食べると太っちゃうよ?」
「そっかぁ…でも、お腹空いたなぁ」
「やれやれ、姉さんは食い気の方が大切みたいだね…」
妹がヒイロに積極的なのに、姉の方は食欲優先なことに少し呆れながら眠るカルーアだった
続く




