カルーアお留守番
【ヒイロの部屋】
いつものように晩ご飯を4人で済ませると、三姉妹が先に風呂に入った。しばらくすると……
「ガチャ……兄さん。お風呂空いたよ」
カルーアがドアを開けてヒイロの部屋に入ると……ヒイロはアドルフから預かったクレリアソードを、真剣な目で眺めていた
「そうか?なら入ってくるか」
「う、うん。待ってるから……」
「あぁ、分かった」
(ん?待ってる?カルーアが俺を?)
風呂に入ると言ったヒイロに、カルーアが言った「待ってる」の意味が分からなかったヒイロだが、取り敢えず風呂を済ませて自室に戻った
「あの…待たせてもらっていたよ」
パジャマに着替えたカルーアが、ベッドの脇に腰掛けて枕を抱えながらヒイロを待っていた
「どうしたんだいカルーア?」
「その…今日はありがとうね。わたし、嬉しかったんだ。強い魔法が使えるエルフ族のわたしを見ても、同じように接してもらえたの初めてだったからさ……」
「俺はそんな事で態度を変えないよ」
「そう、だね。でも、それって凄いことだと思うんだよ。だから、その…今夜は一緒に寝てもらえるかい?」
言いながらカルーアは、顔を真っ赤にさせて下を見ていた
……………………………
カルーアはヒイロと同じベッドの上で、彼と同じ布団を被っていた
「落ち着くよ、兄さんと寝ていると…本当の兄弟みたいな気がするんだ」
「確か、カルーアも兄弟は居なかったよな?まぁ、俺もだけどさ……」
「う、うん。居なかった…はずだよ」
「居なかったはず?」
初めて4人が出逢った時の自己紹介で、全員が天涯孤独の身になったと話していた。なのに今のカルーアの言い方は……
「良く覚えていないんだ。昔エルフの里で、凄く仲の良い同じ歳くらいの姉妹のような人が居た気がするんだ。小さかったからハッキリとは覚えてないんだけど……」
「そうか。なら、今は無理に思い出さなくても良いだろう。思い出してからまた考えようぜ」
「そうだね…」
「今日は色々あって疲れたろ?そろそろ寝て、明日もサーシャの美味しい朝食を食べようぜ」
「うん。おやすみ兄さん」
「おやすみカルーア」
(姉さん、サーシャ、今なら分かるよ。どうして2人がヒイロと寝た後に嬉しそうにしていたのかが……)
20歳の男のヒイロなら、三姉妹のような若い年下の異性には興味を持つのが当たり前だと知っているカルーアは、一緒のベッドで寝ても手を出してこない彼の優しさに安心を覚えた
「寝たか?……カルーアも大変だったんだな」
カルーアも、アリスやサーシャのように簡単に人に言えない悩みを抱えていた事を理解したヒイロ
【翌朝】
「……朝か?起きてるかカルーア?……ん?」
「はぁはぁはぁ…」
目覚めたヒイロはカルーアが気になり顔を覗いて見ると……昨夜とは違い顔を赤くして辛そうに呼吸していた
「サーシャ!」
………………
「凄い高熱ですの。明日くらいまでは安静にしていた方が良いですの」
「カルーアは大丈夫なのぉ?」
「たぶん大丈夫だ。カルーアは目立たないように強い魔法を使わないようにしていたと言っていた。けど……」
「あ!魔法で飛んでアタシを助けてくれたからなのかなぁ?」
「昨日の妖精さんの拘束魔法を解いたりしたのも影響してるかもですの」
「そうだろうな。急に立て続けで強い魔法を使ったから、身体がビックリして熱が出たんだろうな」
ヒイロたちの予想では、急激な強い魔法による反動が13歳のカルーアの身体の負担になったと思われた
「ガチャ…はぁはぁ。ごめんね…鉱石採取では頑張るからさ……」
「ダメだ。カルーアは留守番していてくれ。連れては行けないよ」
「そ、そうだね…分かったよ」
カルーアは自分を受け止めてくれたヒイロに礼をしたかったから、今日から2日間出掛けての鉱石採取で張り切ろうと考えていたようだ
「ところで、お兄ちゃんは熱がうつったりしてないのぉ?」
「魔法の急激な消費による発熱みたいだから、風邪みたいにうつってはいないよ。それに、俺は釭血族だから病気には強いしな」
「釭血族、それはなんですの?」
ヒイロの口から語られた、聞き馴染みのない釭血族という言葉。
「興奮し過ぎると血が真っ赤になるんだ。血が紅くなるほど強くなれるんだけど、長い時間興奮していると後でぶっ倒れてしまうから、長い時間の興奮状態は危険なんだ」
「ほへぇ。アタシのヴォイド化と似てるねぇ」
「そうだな…けど、俺は自力で興奮状態を解除出来るぞ」
「うぅ…アタシも頑張ってコントロールを覚えるねぇ……」
ヒイロが釭血族の説明を簡単に終える頃、サーシャは幾つか食べ物と飲み物を用意しテーブルの上に置いた
「日持ちする身体に良さそうな食べ物を用意しましたので、後で食べてくださいね?」
「ありがとうサーシャ。助かるよ」
カルーアはサーシャに感謝の意味を込めて、精一杯の笑顔を見せた
「良いか、安静にして待っているんだぞ?」
「アタシがカルーアの分も頑張ってくるから、安心して待っててねぇ!」
「うん。みんな気を付けてね。待ってるよ……」
カルーアは、自分だけ採取に付いていけない事に気を落としていた。
「ヨシ。そろそろ行くか?」
「アタシ頑張るからねぇ!」
「カルーアお姉さまを心配させないように、無事で帰りますの!」
「行くぞ!」
ヒイロは家の裏庭に繋がれている馬2頭を連れてきて馬車に繋げた。採取した鉱石を運んでもらう為と、馬車で行っても10時間弱は掛かるエルドラ山脈まで走ってもらう為だ
「ヒヒーン!」
馬はヒイロたちを乗せて、エルドラ山脈へと走り出した。カルーアを家に残して……しかし、出発するヒイロたちを木の影から見ていた2つの影に誰も気が付かなかった
【エルドラ山脈麓】
「ふわぁ!大っきい山なんだねぇ…」
「向こうにお城と城下町が見えますの」
オヤツの時間になる頃、ようやくエルドラ山脈の麓に到着したヒイロたち。目的地の斜め向こうに城と大きな街が見えた
「あれはエルドラド王国の跡地だよ。今は誰も住んで居ないはずだ。豊富な鉱物資源が採取出来るエルドラ山脈の隣という場所を利用して、大きく繁栄していたらしいぞ」
「そんな場所が今は廃墟なんですのね?」
「何があったのかなぁ?」
「俺も詳しくは知らないんだが、繁栄のもうひとつの理由に大昔、地球という遠い星から来た人達が最強の人を目指して生み出した【超人類】と呼ばれた者たちを兵士として使って、隣国と戦い国土を広げたらしいぞ」
「ほへぇ、凄いんだねぇ…」
「あぁ。だが、どんなに繁栄しても争いを続けていたら、いつかは滅ぶという見本だな」
ヒイロはどこか遠く見るような目でエルドラド王国跡を眺めていた。
「今日はその王国ではなくて、山脈に登るのですよね?」
「そうなんだサーシャ。エルドラ山脈は今でも、鉱物資源の材料として使われる鉱石が生えているからな」
「アドルフさんの剣を治す材料を取りに来たんだよねぇ」
「まぁな。だけど、クレリア鉱石は希少価値が高くてな。エルドラ山脈自体もかなり発掘されているから、簡単には見つからないだろうな」
「そうなのですのね…」
ヒイロたちを乗せた馬車は、エルドラ山脈の中腹を目指して移動を始めた
【夕方過ぎ】
「やはりヘルメスの街でも売っている普通の鉱石しか見当たらないな…」
「ん~。見せてもらったあのソードと同じ色の鉱石を探せば良いんだよねぇ?でも見つからないよぉ……」
ヒイロから「クレリアソードと同じ色の鉱石を探しに来たんだ」と説明されて、ヒイロと一緒にクレリア鉱石を探していたアリスとサーシャだったが…
「もう外も暗くなってきましたの。そろそろテントを張りませんか?」
「そうだな。続きは明日にするか?昼頃までには何とかして見つけたいな。じゃないと、明日の夜までに家に帰れないからな」
「それ以上カルーアを1人にしておくのは可哀想だもんねぇ……」
「腹が減っては何とやら、ですの。取り敢えず晩ご飯にしましょう!」
サーシャに勧められて晩ご飯を取った3人。その後、焚き火をしてコーヒーを沸かし雑談をしていた
「ねぇねぇお兄ちゃん!明日はもっと上に登ったら、どうかなぁ?」
「それはダメだな……」
「どうしてですの?」
「山の頂上付近の方が発掘されてないから、貴重な鉱石は上に行くほど採取出来るとは思うが……危険なんだ。凶暴な魔物ほど高い場所に住み着いているらしくてな。冒険者ギルドも、Bランク以下だけで登るのは禁止しているほどなんだ」
「そうなんだぁ……」
「それに、これより上は道が険し過ぎて馬車を連れて行けないんだ」
「では明日は、上には登らずにまだ探していない場所を調べますのね」
「あぁ、そうしよう」
エルドラ山脈の頂上付近には、この中腹とは比べ物にならない、ギルドが禁止する程の魔物がいるらしいので断念するヒイロたち
【アルバート家の夜】
「さて、今夜はたっぷり寝て明日には元気にならないとね。コホコホ……」
サーシャが用意してくれていた食べ物と飲み物を、ゆっくり食したカルーアが今夜は早めに寝ようとしていた
「ガサガサ…」
しかし、周囲の森林を抜けてアルバート家に接近する影が2つあった
「兄貴。アルバート家は低級冒険者用の鍛冶屋っすよ。盗むほどの物は無いんじゃないすか?」
「普段ならな。実はな、昨日イシスの英雄がこの工房を訪れて、あのクレリアソードを預けたらしいんだ」
「クレリアソードっすか?1千万ゼニー出しても手に入りにくいって…」
「そうだ。しかも、朝ヒイロが最近養い始めた少女たちを連れて出て行ったろ?」
「そうっすね。何処に行ったんすかね?」
「バカか、お前は。クレリアソードの修理を引き受けたらエルドラ山脈に行かなきゃ材料が取れないんだろ?このヘルメスの街でも滅多に売ってないんだからな」
「なるほどっす。そんな高価なクレリアソードは家に保管してるはずっすね。それを今から頂いちまうんすね」
「そうだ。留守の家なら簡単だぜ♪」
2人の盗賊の男たちが、クレリアソードを狙って留守と思い込んでいるアルバート家へと近付いていた
「んぅ。ヒイロ…身体が熱いよ…」
まだ熱の引かないカルーアが、寝言を言いながらヒイロの部屋で眠っていた
続く




