英雄と妖精
【アルバート家前】
「帰ったらお礼にお菓子を作ってあげるよ♪」
「いや。カルーアも疲れたろ?ゆっくり休んで良いんだよ」
「ううん。お礼がしたい気分なんだ」
正直、自分の魔法力の強さを知られたら家を追い出されるだろうと予想していたカルーアは、関係なく住んで良いと言ってくれたヒイロに、感謝の手作りお菓子を食べさせたいようだ
「ん?お兄ちゃん、家の前で男の人が待ってるみたいだよぉ」
「え?お客さんかな?」
視力の良いアリスが、家の前にいる赤毛の男に気が付いた。
「あ!肩のところに座っているの、妖精さんみたいですの!」
サーシャの言うように、その男の肩に全長30センチほどの妖精が座っていた
「やぁ、キミがヒイロ・アルバート君だね?ボクはアドルフ・クリスニッジ。この子がリリア・スロットだ」
「はじめまして。ワタシは妖精のリリアよ。よろしくね♪」
「うわぁ!妖精さんって初めてみたぁ♪」
アリスは妖精を見るのが初めてなので、凄く興奮していた。
「アドルフさん?……あ!?もしかして「イシスの英雄」のアドルフさんですか?」
「あれ?ボクのこと知ってるんだ。ヘルメスの街にも知れ渡っていたのか。照れるね(笑)」
「えーと、俺に何の御用ですか?もしや、修理の依頼ですか?」
英雄と言えど戦士であれば、自分の所に訪ねてくるなら修理依頼だろうと予想したヒイロ
「そうなんだ。ぶっちゃけさせてもらうと、ここに来る前にヘパイトスさんの所を訪ねたんだけど、クラウン城の貴族様から依頼を受けていて今は、すぐに直せないって言われてね」
「なるほど。それで師匠から俺を紹介されたと……」
アドルフは手に持った剣を差し出した。
「まずは見てくれ。そして、キミの意見を聞かせて欲しい」
ヒイロはアドルフから剣を受け取り真剣に見つめた。
「こ、これは?クレリアソードじゃないんですか!?」
「お兄ちゃん。クレリアソードって?」
好奇心旺盛で尚且つ同じ剣士であるアリスが、興味津々に覗き込んできた
「クレリアは魔法付与に長けたソードなんだ。魔法剣士が手に入れたいと願う貴重なソードなんだぞ」
「流石だねヒイロ君。イシス王国を出て旅して5年になるんだけどね、時折自分で磨いてはいたのだけど、かなり傷んできてしまってね……」
「そうですね……刃こぼれもそうですが、長年の使用で内側にダメージが蓄積されている気がしますね」
「素晴らしいね!そこまで見抜くとは流石だ。ヘパイトスさんの紹介は間違いないみたいだね」
そう言うと、アドルフはヒイロの手からソードを取り戻した
「しかし、キミに修理を頼む前にキミの剣術のほどを見せて欲しいんだ」
「一流の鍛冶屋は一流の剣士であればこそ。師匠の言葉ですが……」
「そうだね。ボクもそう思うんだ、だからボクと手合わせして欲しい」
アドルフがそう言うと、妖精のリリアは彼の肩を離れ距離をとった。
「アリス。お前のソードを貸してくれ」
「うん、お兄ちゃん大丈夫ぅ?」
「任せておけ。別に殺し合いをする訳じゃないんだしな」
ヒイロは高原地帯でアリスの訓練に使っていた2本のソードのうち、長い方を受け取った。
「もちろんハンデは与えるよ。ボクは剣術が本職で、キミは鍛冶屋が本職だからね。ボクは右手一本で戦おう」
「助かります。イシスの英雄と同じ条件で戦うなんて、最初から勝敗が見えてますからね」
ヒイロはアドルフを中庭に連れて行き、三姉妹を少し離れた位置に遠ざけ、アドルフと対峙した
「ソレじゃいーい?……シアイ、カイシッ!」
リリアの号令で、ヒイロ対アドルフの試合が始まった。10数秒見つめ合う2人だったが……
「ボクの方から仕掛けさせてもらうよ……」
ユラリとアドルフが右足を前に運んだ
「ザシュッ!」
次の瞬間アドルフは左足で強く地面を蹴ると、一気に加速してヒイロの左足側面に回り込んだ
「は、速いっ!?」
最初のゆっくりな動きを見て警戒していたヒイロは、アドルフの突然の猛スピードに対応するのが遅れた
「バキイィィン!!」
「ぐぅ!?危なかった!咄嗟に両手持ちに切り替えなかったら、ソードを弾き飛ばされていた」
ソードを両手持ちに切り替えた事で、何とかソードを手放さなかったヒイロだが…
「グアッ…遅いよ!」
アドルフは間髪容れずに、ヒイロとの間合いを一気に詰めて来た。ソードを振り上げるアドルフ。
「くっ!?」
ソードを振り上げたアドルフの剣戟を防ごうと、両手でソードをガード体勢にしたヒイロだったが…
「ゲシッ!…うおっ!?…ドシン!」
アドルフはソードを振り下ろさずに、左足でヒイロの右足を払って倒した
「もう終わりかい?ヒイロ・アルバートっ!」
倒れたヒイロにソードを振り下ろそうとするアドルフ
「お兄ちゃん!」
「兄さんっ!」
「お兄さま!」
アドルフに押されているヒイロを見て耐えられなくなった三姉妹が、急いでヒイロに駆け寄ろうとしたが……
「イマは2人のショウブなの。ジャマするのはダメよ」
「あれ?身体が動かないよぉ?」
「ど、どうしたんですの!?」
魔法に精通していないアリスとサーシャは、どうして自分の身体が動かないのか理解出来ていなかった
「くっ、これは精霊魔法の束縛魔法かい?」
「サスガはエルフね。リリアのマホウがミえているのね」
リリアが小声で何かを詠唱して、両手を三姉妹の方に向けると……精霊魔法で造られた糸が三姉妹の身体を束縛していた
「見た目は可愛いけどね。リリアの精霊魔法は凄いんだ。キミ達はそこで、見守ってくれないかな?」
「くそっ!ガバッ…」
一瞬アドルフが三姉妹たちに気を取られている隙に、素早く立ち上がり構え直したヒイロ
「もう少し見させてもらうよ。ヒイロ君……」
再びアドルフがヒイロとの距離を詰めようとした時だった……
「この程度の魔法が……なんだって言うのさ!ブチッ!!」
魔法力を集中させたカルーアが風魔法を使い、自分の身体をカマイタチのような旋風で包むとリリアの束縛魔法は、ハサミで切られた糸のように地面に落ちた
「ウソっ!?リリアのマホウが、こんなカンタンに!?」
「兄さん!今助けるからっ!」
飛行魔法の応用で、自分の身体をロケットのように発射したカルーアは、一瞬でヒイロとアドルフの間に立ち塞がった。
「うん。合格だね。リリア、束縛魔法を解除してあげてくれ」
「う、うん。わかった」
何やらアドルフは納得したようで、リリアも彼の指示に従いアリスとサーシャを解放した。
【リビング】
「どうぞ、召し上がって欲しいですの……」
「ありがとう…えっと…」
「サーシャですの♪」
ヒイロは突然、合格を出してくれたアドルフを家の中に招き入れ話を聞くことにした
「どうして急に止めたんですか?」
「カルーアちゃんだっけ?彼女は普通のエルフよりも、遥かに高い魔法力を有しているね」
「ビクッ!…は、はい……」
カルーアはヒイロが強い魔法力を持つ自分を受け入れてくれた事に、感動を覚えたばかりだ。ましてや、初対面の男にイキナリバレたので驚きを隠せなかった
「彼女ほどの実力を持った魔法使いから、ヒイロ君は高い信頼を置かれている。それが分かれば、これ以上キミを試す必要はないからね」
「それが、俺を認めてくれた理由なのですか?」
ヒイロは戸惑っていた。アドルフに認められるほどの、剣技を見せる必要があるのだと思って試合を始めたからだ
「確かに鍛冶師としてのスキルも大切だけど、人に好かれる人柄も大切だとボクは思うんだ」
「ガツガツむしゃむしゃ…」
「パクパクもぐもぐ…」
ヒイロとアドルフが真剣に語り合っているその奥で、夢中になってサーシャが作ってくれた肉料理を食べているアリスと、彼女の肩に留まり同じように肉を頬張っているリリア
「何にせよ、認められて良かったじゃないか♪」
「そうだな…カルーアのおかげだな♪」
「あれほどの魔法力を持つエルフが、キミを助けるために迷わず動いた。それだけ彼女が、キミを信頼しているということだろう?なら、ボクがこれ以上キミを試す必要はないからね。」
「なるほど、それはそうですよね」
「改めて、ボクのクレリアソードの修理を依頼させてもらうよ。ドンッ!」
そう言うとアドルフは、足元の袋をテーブルの上に置いた
「これは?」
「前金さ。知ってる通りこのソードは貴重な素材、クレリアで造られている。修理するのにもお金がかかるだろ?」
「そうですね。助かります」
「完成した時、修理具合に満足させてくれたら、今のと同額を払わせてもらうよ」
ヒイロを認めたアドルフは、リビングに来てからは終始笑顔で話していた。
「ゴチソーサマー!あぁ、おナカふくれた♪」
「それじゃ、そろそろ帰ろうか?何日後に取りに来れば良いかな?」
「そうですね……1週間もらえますか?」
「1週間ね、オーケー。それと、その期間、適当なソードを貸してもらえるかな?」
ヒイロは自室に入って行き、前に亡くなった父親の新装備として丹精込めて作ったソードを持ってきた。
「それは?」
「亡くなった義父の為に、1年ほど掛けて作り上げたソードです。今の俺の技術を込めた傑作です」
ヒイロは真剣な目で、そのソードを差し出した
「ありがとうヒイロ君。キミもボクを認めてくれたんだね。大事に使わせてもらうよ。行くよリリア!」
「はーい♪ドコに行くの?」
「取り敢えず冒険者ギルドに登録に行こう。働かない訳にもイカないからね。それじゃヒイロ君、頼んだよ!」
そう言うとアドルフは、妖精リリアを連れて家から出て行った。
「ふぅ、お兄さまが無事で良かったですの♪」
「そうだねぇ。戦ってる時のあの人、目付き怖かったもんねぇ…」
「そうだな。「イシスの英雄」の名に偽り無し。って感じだったな」
ようやく落ち着いて中庭での試合を振り返ったヒイロは、アドルフが本気だったなら自分など一瞬で負けていたことを理解した
「ところで兄さん。あの人が置いていったお金、いくら入ってるんだろうね?」
「そうだな、数えてみるか……」
……………………………
「ご、50万ゼニーだ……」
「凄い金額ですの!」
「しかも、完成に満足したらそれと同額払うって言ってたよね?」
「え?そんだけあると凄いのぉ?」
前金50万ゼニーという大金に驚いたヒイロとサーシャとカルーア。アリスだけは、その金額の凄さを理解していなかった
続く




