カルーアの秘密
【翌日の朝食】
「さぁさ、皆さん召し上がってくださいですの♪」
「ありがとうサーシャ。いつも助かるよ♪」
「本当にいつもありがとう。それにサーシャの料理は美味しいよな♪」
今朝はサーシャが1人で朝食を作ってくれた。卵料理、肉料理、サラダ、スープ。朝食ながら、まぁまぁのボリュームだった。礼を言ったカルーアとヒイロだが……
「お兄ちゃん、大好きぃ♪」
食いしん坊のアリスだけが珍しくサーシャの朝食に注目せずに、ヒイロの隣の席に座り身体を擦り寄せていた。
「姉さん……嬉しいのは分かるけどさ、それじゃ兄さんが食べられないよw」
カルーアはアリスがヴォイド化した時の凄い能力と凶暴さを見せられても、ヒイロが受け入れてくれたからアリスが甘えているのだと理解していた。
「あはは、そうだぞ。とりあえずはサーシャの作ってくれた朝食を食べよう、な?」
「うん、そうだねぇ。いただきまーす♪」
ヒイロから「食べよう」と言われたアリスは、いつものようにガツガツとサーシャの料理を食べ始めた。
..........................
「ところでさ、なんとかアリスのヴォイド化は抑えることが出来たけど、その度に破けてしまう服と意識のコントロールが問題だな」
「そうなんだよねぇ。能力を出す度に服が破けてたら大変だもんねぇ……」
「それと、あのチカラを出していても姉さんの意思で戦えたら強いと思うな」
ヒイロが話し出したアリスのヴォイド化の問題点を、アリスとカルーアも理解していた
「この前、カルーアお姉さまの服を買いました、特殊な繊維で出来ている服を取り扱っているお店なら、高い伸縮性の服も売ってるんじゃないんですの?」
「そうだな。あの店は少し高めの服屋だが、良い服が売ってるんだよな。ヨシ!少ししたら買いに行くか!」
「良いの?お兄ちゃん!」
「もちろんだよ。それと、サーシャにも良い服を買ってあげるよ」
「えっ!?良いんですの?」
自分の提案でアリスに伸縮性の高い服を買ってもらえることになったが、サーシャ自身にも買ってもらえるとは思っていなかったので驚いた
「最初の買い物の時にカルーアに魔法の溜めが利く高い服を買ったろ?それで今回はアリスにも高い服を買うんだ。サーシャだけ買わないのは不公平だろ?」
「そうだよねぇ。流石お兄ちゃん!」
「有難うございます!嬉しいですの♪」
アリスは純粋無垢に喜んでいるのと対照的に、サーシャは目に涙を浮かべて喜んでいた
(育ってきた環境が違うから態度が全然違うんだな。そこら辺は注意して接しないとな)
同じことをしても、カルーアとアリスとサーシャでは反応が違うことから、同じことでも3人に対して合った対応を取るべきことを認識したヒイロ
【帰り道】
「お兄ちゃん。ありがとうねぇ♪」
「サーシャも、こんなに良い服を有難うですの!これで、たっぷりお兄さまの手伝いが出来ますの♪」
「2人とも本当に良かったのか?」
伸縮性の高い高級素材の服を買ってもらったアリスだが、デザインは破けた服とほぼ同じ見た目だった
サーシャも可愛い服が好きなはずなのに買ったのは、お手伝いさんが仕事をする為のような実用的な服だった
「うん。義父さんが買ってくれた服だったから……」
「お兄さまに喜んでもらえますもの」
アリスは亡き義父の為に。サーシャはヒイロの為に選んだ服だった
「2人とも優しいんだな」
ヒイロはアリスとサーシャの頭を別々の手で撫でた
「ところでさ、今日は今からどうするんだい?」
カルーアはヒイロにこの後の予定を聞いた
「そうだな……4人で出掛けようと思ってる。少し離れた平原地帯にな」
「まぁ!それでしたらサーシャがお弁当を作りますの♪」
「ありがとうなサーシャ。目的はアリスのヴォイド化中に、アリスが意識を保てるようにする訓練だ」
「え?そうなのぉ?」
ヒイロの提案をピクニックだと思い、張り切って弁当を作ってくれようと意気込んでいるサーシャだったが、1番の目的はアリスの訓練だった
「アリスの剣術はまだまだ磨きが足りないし、カルーアの魔法ももう少し確認したいからな」
「そ、そうだよね……」
(やっぱり浮かない顔をしているなカルーア……)
サーシャとアリスとは、心の距離が近くなれたと思っているヒイロだが、カルーアとはまだ何かありそうだと考えていた
【高原地帯】
「知ってるか?高い場所の方が空気が薄くてトレーニングに向いているんだよ」
「そうなんだ。お兄ちゃん、物知りぃ♪」
「それはそうと、どうやって姉さんの意識のコントロールを訓練するんだい?」
「あそこに大きな木が立ってるだろ?あの木とアリスを太いロープで繋ぐ。そして、アリスにヴォイド化してもらってカルーアから、気絶しない程度の雷撃を当ててもらうんだ。サーシャ、用意を手伝ってもらえるかい?」
「分かりましたですの」
サーシャはヒイロの後に続き、大木の方へ向かった
「姉さん。また雷を当てちゃうけど…ごめんね」
「謝ることないよぉ。アタシが強くなる為だもん!」
身内を攻撃することに強い抵抗を感じているカルーアだが、当のアリスは全く気にしていないようだ……
「ねぇ、カルーア。あれって何かなぁ?」
「え?あれは…スタンボアだね。大きな鼻で攻撃してくるんだよ」
簡単に言うと、鼻の大きい野生のイノシシが2人の視界に映った
「何でも肉料理に使うと栄養たっぷりで美味しいらしいよ」
「そうなのぉ?……捕まえてくるぅ!」
「ちょっと姉さん!?」
美味しい肉料理の材料になる生き物を見つけた!と思ったアリスは、スタンボア目掛けて走り出した
「ブヒッ!?」
アリスの接近に気がついたスタンボアは、必死に走って逃げようとしたが、流石に獣人族のアリスの足は速く、野生動物のスタンボアに追いつきそうだった
「ほらほら、捕まえちゃうよぉ♪」
「姉さん!ソッチは危ないっ!」
「え?…あっ!?」
スタンボアは崖際で急旋回した。それ以上の速度で走っていたアリスは方向転換も止まることも出来ずに、崖下へと落ちてしまった
「もう!姉さんってば!」
無我夢中でアリスの後を追い、崖下へ飛び込んだカルーア
「どうかしたのか?」
「アリスお姉さま?カルーアお姉さま?」
2人の大きな声に反応して、ヒイロとサーシャが振り返った時にはアリスとカルーアの姿は無く、逃げていくスタンボアだけが目に入った
「うわあぁぁ!落ちちゃうよぉ……」
眼下を見ると500メートルくらいの位置に地面があり、このまま激突すれば大怪我は免れられない状態だった
「姉さん、捕まって!」
全身が薄黄色く発光しているカルーアが、落下中のアリスに追いついて手を伸ばした
【昼食中】
「アリス!カルーア!」
崖下の方から声が聞こえたヒイロは、崖際まで走り2人に呼び掛けた
「おおっ!?」
すると下から強めの風圧が巻き上がってきて、その後に続いてアリスを抱き抱えたカルーアが浮かんできた
…………………………
「それにしても、よく追いついたなカルーア」
落下中の物体の落下速度は、普通ほぼ同じなので後から飛び降りたカルーアが追いつくのは不可能なのだが……
「凄かったんだよぉ!カルーアの身体がぁ、ビカーッと光ってぇ、ブァーッと飛んできたんだぁ!」
「その説明ではよく分からないですのw」
アリスの説明はいわゆる長嶋方式だったwしかし、状況を把握したヒイロはある予想を立てていた
「もしかして今のは……飛行魔法か?」
「飛行魔法ですの?」
「あぁ。かなり難易度の高い魔法で、宮廷魔導士たちが卒業までには身に付けたい魔法の上位だと聞いた事があるよ」
「ほえぇ。そんな凄い魔法なんだぁ。カルーアって凄いんだねぇ♪」
ヒイロの説明から、飛行魔法が魔法使いのエリート達が習得を夢見る上位の魔法だと知ったアリスとサーシャ
「カルーアは飛行魔法が使えるんだな?」
「ビクッ!?……う、うん。使えるよ」
質問しているヒイロも少し険しい顔をしているが、それ以上に恐怖しているかのようなカルーアの表情だった。
「いくら魔法に強いエルフ族でも、使える者は凄く限られていると聞いているよ」
「あ、あの…わたしは…普通のエルフ族だから…今までと同じように……」
カルーアは泣きそうな顔をしていた。ただでさえ好奇の目で見られる希少種族のエルフ。その中でも飛び抜けて高い魔法使いだと知られれば、普通なら富裕層とかに売り飛ばされるのは至極当然だった
「あの…わたし、このまま家に居ても良いのかな?」
そんな希少種のエルフ族の上位魔法使いを養っていると知られれば、色々な目的の者がアルバート家を訪れて家族に迷惑が掛かるのは考えるまでもなかった。しかし、ヒイロの答えは……
「何を勘違いしてるんだ。サーシャにもアリスにも同じことを言っただろ?普通とは違っていても、3人が俺の妹なのは変わりないんだよ」
「えっ!?今までと同じように、家に居ても良いのかい?」
「当たり前だろ?奴隷市場で育っていようが、凶暴な能力を持っていようが、ズバ抜けた魔法使いだろうが、3人とも俺の妹なんだよ」
「ヒイロ……ありがとう!わたし、嬉しいんだ!追い出されるんじゃないかって、不安だったんだぁ!」
涙を流しながらヒイロに抱きついたカルーア。その様子を見守っているアリスとサーシャ。
3人は異なる特殊な事情を打ち明け受け入れてもらい、本当の意味でひとつの家族へと歩み出したのだ。
【帰り道】
カルーアがズバ抜けた魔法使いであると知り、アリスの訓練も程々にした彼らは日が沈む前に帰路に就いた。
「……まだアリスとカルーアだけでクエストに出すのは不安だな。だから、しばらくは俺も付いていこうと思うんだ。何かあってからじゃ遅いからな」
「お兄ちゃんも来てくれるのぉ?」
「ありがとう。助かるよ♪」
「サーシャもついて行きますの!」
どうやら3人とも、ヒイロの提案に納得してくれたようだ。簡単めなクエストに参加しつつ、アリスのヴォイド化への慣れも同時に訓練する方向で決まった。
「おいおい2人とも。歩きづらいって///」
「わたし嬉しいんだ♪」
「お兄ちゃん、大好きだもん♪」
強い魔法力を持っている自分を、受け入れてくれたヒイロに抱きつくカルーア
昨日、人々から恐れられた獣化を見られても受け入れてくれたヒイロに、カルーアとは反対側に擦り寄るアリス。そんな3人を一歩引いた所から温かい目で見守っていたサーシャ
続く




