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7話「悪戯と安心と初めましてと」

「ふぅ………」


一旦瓦礫を横に置いて汗を拭う。戦いの後のとは思えないほどの晴天。リディオからでる汗は尋常ではない。あっという間に服が濡れた。


「とても頑張っていますね」


「うわっ!」


突然隣に現れたヨーナス。いきなりだったので、体の重心が後ろに持っていかれ、尻もちをつく。


「いってー……」


すぐさま立ち、お尻を撫でるリディオ。それをヨーナスは不思議そうな顔で見つめる。


「──何ですか?」


「いや、何で勝手に尻もちついて勝手に痛がってるのかと思いまして」


「ヨーナス様のせいですよ!というか!また盗み聞きしていましたよね!」


一度ならず二度までも……。気付けない自分が悪いんだと思ったが、結局はヨーナス様が悪いんだと言う気持ちが上回った。その怒りを真正面にぶつける。


「盗み聞きなんて人聞きの悪い……。私は、たまたま透明になっていて、たまたまあなた方を見つけて、たまたま会話を聞いていただけですよ」


「確信犯じゃないか!」


清々しい笑顔でリディオに弁解。しかしリディオは微塵も許すつもりはない。


「ミカルに言っときますよ?」


リディオが一言発した瞬間、ヨーナスは体を固めた。顔色は分かりやすいほど悪くなっていく。


「え、そんなに……?」


「いやぁ。ミカルは怖いですからね。うん。そうだ、リディオ君。彼氏である君からミカルに言ってくれませんか?ヨーナスにもっと優しくして。と」


「嫌ですよ。って言うか、彼氏じゃありませんから。ただの幼馴染みなんで」


腕を組み、そっぽを向く。


「そうなんですか?」


「そうですよ。幼馴染み以外の何でもありませんよ」


少し棘のある声。それは、怒り。気持ちを未だ伝えられていない、リディオ自身への。この言葉だって、本心ではない。


「若い人を観察していると飽きないです」


ヨーナスはくつくつと笑いながら、率直な気持ちを口に出す。


「まぁ、それはともかく。ミカルに告げ口をされるのは嫌なので」


リディオの背後に周り、お尻辺りに手をかざす。


「え、ちょ──」


「ヒール」


ヒリヒリしていた痛みは何処かへ行き、元の状態へ戻った。………が。


「何してるんですか!お尻にヒールって!」


「え──。リディオ君が痛がっていたからやったのですが、何かいけなかったでしょうか」


「ええ……。えぇ!恥ずかしいですよ!とてつもなく!」


街のど真ん中で、お尻にヒールされる男。字だけを見てもやばいのに、傍から見たらどれだけやばいのだろう。周りには他の騎士や魔道士もたくさんいる。見られていない事を祈るばかりたが……。


「じゃぁ、逆に私はどうすれば良かったのでしょう」


「簡単です。盗み聞きしなければ良かったんです」


「分かりました。次からは、なるべく気をつけましょう」


百パーセント信じられない発言だったので、ミカルに言おうと心に決めたリディオだった。


「それよりも、この周辺は被害者が多いですね。物を浮かすことの出来る魔法を使って、瓦礫の下にいる方々を助けていますが……。魔力の減りが早いです」


「まぁ、鏡に近い場所ですからね。また攻め込まれたら溜まったもんじゃないですよ」


話しながらも、二人はひたすらに手を動かしていく。もしかしたら、生きている人がいるかもしれないという、砂粒よりも小さい希望だけを頼りに。


「………?」


リディオは目を凝らした。ふと遠くを見たその視界に、何やら小さな体が膝を抱えながら座っていたからだ。見間違いではないかと、反射的に目をこすり、もう一度その方向を見る。


「よ、良かった!生きてる子がいて」


やはり見間違いなどではなかった。そう確信した瞬間、まだ生きている人がいる、という安心がどっと押し寄せてきた。きっと、あまりの恐怖に逃げられず隠れていたら、運良く助かったのだろう。やはり、まだ生きてる人はいるんだとリディオは強く実感した。


「ヨーナス様。子供がいました!」


「本当───ですね。それは何よりです。とりあえず声を掛けて避難させましょうか。この辺りの建物は、いつ崩れてもおかしくない状況ですから」


「そ、そうですね」


安心しきって、これからやらねばならないことをリディオは頭の中から抜け落ちていた。女の子を救護施設へ連れて行き健康状態の確認。大丈夫なら、その後保護施設に連れて行って引き取ってもらわなければいけない。


──親と再会できれば一番いいのだけれど、それは難しいだろうな。


「とりあえず、話しかけるか」


「私も行きますよ。リディオ君」


「え?」


「小さい子の生存なんてなかなか無いですからね。あの子が気になってしまって」


「まぁ……。そうですよね」


リディオとヨーナスは震える少女へと近づく。近くに行くと、汚れが目に見えて分かる。腰辺りまで伸びた少し癖のある水色の髪はボサボサで、ホコリを被っている。軽くレースのついた白いワンピースは茶色が元の色なのではと思うほど泥だらけ。そしてなにより、紺色の目は光がない。膝を抱え、下を俯いていてこちらを見ようとしない。 


「………」


リディオは身を屈め、少女と同じ目線に立つ。


「こんにちは。僕達は怖い人じゃないよ。ちょっとは安心してくれるといいな」


声に反応し、顔を上げる。しかし、その目は警戒心の塊だった。リディオはそれを当たり前の反応だと思った。どんどん人が亡くなっていくあの地獄を見たのだから。しかし、何と声を掛ければいいのか……。…………。


「あ」


簡単じゃないか。はじめましての人には、まず………。


「僕の名前はリディオ。良ければ、君の名前を教えてくれるかな?」

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