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17話「知らない剣と怒号と願いと」

「拘束するのは…やはり不可能でしたか…」


身の丈に合わない大きめの剣をゆらりと振りながら呟くアリア。カミーユは何とか一撃を食らわせようと剣を突き立てるが、全て交わされてしまう。一撃

一撃が強いわけではない。しかし、決定打が出せない程に洗練された剣の動きであった。


「──っ」


「うぁ!あっつ」


右手で剣を扱いながら左手で火の玉を繰り出す。アリアからの急な魔法に対応できず、顔の近くに火が通った。近づくことも、離れることすらもできない。絶妙な距離感を常に保たれる。


「戦うのを続行しても、メリットはないと判断。…ここまでですかね」


ゆらりと剣を下ろし、呟くアリア。瞬間、カミーユの瞳にアリアの姿を映さなくなった。本当に、足音、一つ聞こえない。


「どういう、ことだ?」


呆然と考えていると、下の方からざわめきが聞こえてきた。それが何を意味しているのか、カミーユの考えは1つしかなかった。


「やばい…!早く下りないと!」


とは言っても、カミーユが居るのは塔の上の上。風魔法があるのならば飛び降りることが可能だが、カミーユは魔法を使うことが出来ない。本来ならば、塔に入ってすぐのところにある移動魔法が組み込まれた台を使えば、空中を使いすぐに移動が可能だが、いつの間にかこの場所にいたため足元に台がない。階段で、地道に降りる他方法がない。


「──くそっ!!」


怒号が響き渡り、カミーユは階段へと足を踏み出した。



           *


「アリア…なんで…!!」


リディオの前に映ったのは、剣を構えたアリアだった。アリアは言葉に感情を乗せずに、リディオの問に答える。


「あたしがまだここに留まっている理由…でしょうか?それなら……お答えできます。皆さんが、なるべくこの塔から出るのを遅くして……時間を稼ぎたいからです」


「そういうことを聞いているんじゃない!!!」


鼻が詰まったような、リディオの震えながらの叫びが塔に響き渡った。アリアと過ごしたのは2週間と少し。その時間は短いようで、アリアと過ごした日常の一つ一つが、欠片としてリディオの心の奥深くに刻まれている。とても──とても愛おしい存在だった。否、剣を持っている姿を見ても尚、リディオにとって愛おしい存在に変わりはない。だからこそ、聞きたかった。アリアが何故、裏切りのような行為の真似をしているのか。


「リディオさんが欲しがっているような答えは…残念ながら言うことが…できません。作戦や世界の真意に、関わってくる…ので」


「どうしても。言えない、のか?」


目を伏せ答えるアリアに、リディオの喉がきゅっと鳴った。


「リディオ!!もう話はいいわ!!」


ベルラの風魔法が、下から吹き上げリアーナの体を軽々と持ち上げた。リアーナは両手で強く鞘を握り直す。宙に浮いたリアーナは上から真っ直ぐと、剣の先がアリアを捕らえた。


「いくら一緒に過ごしてたとしても、危険な存在をいつまでも野放しにしておくわけにはいかない。っていう、あたし達副団長の判断だよ。悪く思わないでね」


先程までの調子とは違う、魔道士団ベルラの声色。その右の手の平はアリアの方に真っ直ぐと向けられていた。


「まっ……!!」


リディオが止めるよりも先に、ベルラから炎魔法が一直線に、アリアの方に向かっていった。あの火力、スピード。誰もがやった、と思った。


「そんな」


ベルラの口から、ぽつりとこぼれた言葉。アリアに向かった大きな炎は、真っ二つに割れた。通常、あり得ない光景だった。炎が消えると、剣を顔の前に立てていたアリアの姿があった。その剣は、分厚い氷を纏っており冷気が漂っていた。


「ベルラさん!!私が…!!」


ベルラに続いて、宙からリアーナが攻撃を仕掛ける。アリアは、顔の前に剣を立てたまま姿勢を変えず、視線のみベルラからリアーナの方へ。


「──っ」


その鋭い眼光は、リアーナの剣を一瞬でも躊躇させた。しかし、その躊躇いを振り払い、臆することなくアリアに突っ込む。


「とった…!!」


剣がアリアに触れるギリギリの距離。アリアの首元に当たるはずだった剣先。それは空気のみを貫いた。リアーナは思わず、感じたことをそのまま口に出す。


「消えた…!?」


「リアーナ!!後ろ!!」


「え……?」


そのベルラの音を言葉として理解するよりも先に、完璧に背後を取られた。アリアの手が、リアーナの背中にそっと触れる。そして、リアーナの姿が全員の視界から消えた。


「は……。リアーナをどこにやった!!」


瞳孔が開き、聞いたことのない、怒りを前面に出したような叫び声がベルラの口から出された。怒りと共に頭は冷静。両手の平から、炎がまた繰り出される。円を描くように、炎がアリアを囲んだ。低い声で、ベルラは問い詰める。


「答えなければ、次は……!」


「体?顔でも燃やしますか?ですが、そんなことをしたら、答えられなくなりますよ」


ベルラの顔が歪んだ。唇を噛み、次に向けて構えていた手を、ゆっくりと下ろす。アリアはその姿を見届け、一息つき、


「大丈夫…です。リアーナさんの命を奪ったりなどはしていません。ただ、塔の上の方に飛んでもらっただけですので」


言い終わると同時に、剣を大きく振りかぶった。剣からリディオの身長ほどある大きな氷壁が、スピードを持ってベルラに向かって突き進む。考える隙もなく、反射的に炎を出すベルラ。氷と炎のぶつかり合い。爆発音と同時に、煙が出た。それはベルラの視界を遮られ──


「……っ」


ガクンと膝から崩れ落ちる。右足には切り傷がついてた。切断されるような大きな傷ではない。しかし、足を引きずらなければ動くことができない。


「申し訳ないです。なるべく傷つけたくは、なかったのですが。ベルラさんは風魔法を使えるので、遠くへ飛ばしても足止めにならない…。ので、少しだけ」


「アリアちゃん。今ならまだ、あなたを庇うことが出来るのだけれど。どうかな?」


そんな中、ミカルは微笑みかけた。魔法で迎え撃つ準備もせず、ただただ無防備のままに。その声に諭されても、アリアの瞳に光は宿らず


「ミカルさん。それは、無理なお願いというものです…」


「そっ……かぁ……」


「既に、1番の目的は果たしています」


リディオに見覚えのない本が、ワープホールのような場所から取り出された。


「その本は…?」


「こちらの世界と、あちらの世界について書かれている本です。多く書かれているわけではありませんが、重要なことが書かれています。この本を得ることが、私の目的でした。なので、後は皆さんの帰還が遅れるよう最大限の足止めをしながら戻るだけなんです」


深く息を吸い、ミカルの瞳をじっと見つめた。ミカルは拳を握りしめ、体を動かさなかった。ミカルはアリアを攻撃しない。そしてまた、アリアも風魔法を操ることの出来るミカルを傷つけない。傍から見れば奇妙な空間。そして、その空間に居るのは圧倒的な力の差に、一旦攻めの姿勢を引くベルラ。未だ現実を受け入れられず、一連を見ることのみしかできないリディオ。そんな中、ルナールが一歩前に踏み出し


「先程から、行動と言動が一致していないように感じますが」


「……」


また、アリアが視界から消えた。そして、ルナールの背後へ。左手伸ばす。ルナールの背中へ触れそうだったとき、ルナールは即座に身を屈めた。そのまま流れるように、鞘から剣を抜く。アリアも直ぐ様右手でガード。剣と剣のぶつかる金属音が響いた。地面に足を踏みしめ、大剣を耐える。


「瞬間移動も、暫くは使えないんじゃないですか?先程から、使うたびに疲労の色が強くなってますよ」


「…正確には、まだ全然使えます。が、確かに、残しておきたいのは事実です」  


ルナールは脚力を活かし、宙を舞いながら後ろへ引く。そのままスピードを持ってもう一度アリアの懐に入り込む。が、またしても金属音のみが響き渡った。


「あたしと戦っている場合ではないと思いますよ」


「それは…どういう意味ですか?」


ここで仕留めるという、ブレない瞳は変わらない。しかし、アリアの言葉に眉のみがピクリと動いた。


「そのままの意味です。あたしの行動も、独断ではなく、計画の一つであり、欠片です。危険に晒されているのは、皆さんだけではない……」


全ての言葉を淡々とした口調で紡いでいく。


「例えば、ルナールさんのお父様やお母様…とか」


「……!?」


ルナールの顔が、その言葉一言で一気に歪んだ。体を硬直させ、焦点が合わなくなる。そのまま何も考えていないような仕草で、どこか空虚な目で。ただ一点を見つめながら、ルナールは剣を引き、鞘に戻した。


「ありがとうございます」


棒立ちのリディオ。横目でアリアを見ると、目が合った。何か言おうとするが、何も言えない。口が動かない。アリアは目が合ったが最後、何も言わずに顔を伏せ、一瞬で消えてしまった。

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