16話「空腹と選択肢と不快な音と」
「オ…リディオ!リディオ!」
体が揺れている感覚がリディオにあった。薄っすらと目を開けると、安心するシルエットが浮かんできた。
「ミカル……?」
「良かった起きた!もう、本当に心配したんだから!!」
肩を揺らすことをやめ、周りも気にせずリディオに抱きついた。
「な、なんでミカルが?」
「朝、また霧が発生してね。気がついたら目の前にリディオが木に寄りかかってたの。大丈夫?何もなかった?とにかく本当に無事でよかっ…よかった」
ミカルは涙ぐみながら、リディオをもう一度、強く抱きしめた。
「ちょ、ちょ。痛い痛い」
「あ、ごめんごめん」
ミカルは軽く謝りリディオから手を離した。というより、強く突き放した。リディオはため息をつき、頭を搔く。脳裏にアリアが浮かんだ。昨夜のこともあり、何故だかとても悪い予感がしたのだ。
「アリアは!?」
「アリアちゃんね。大丈夫だよ。ほら」
ミカルが指を指した先には、カミーユはその他一緒に来ていた人たちと朝ごはんを食べるアリアの姿があった。その姿を見て、リディオのお腹が大きく鳴った。
「……っ!はず…」
「話はとりあえず後で…だね!きっとカミーユ様とかもリディオの話聞きたいだろうし、リディオもお腹空いてるでしょ?」
*
「じゃぁ特に何事もなかった…ってことか?」
「その通りです。ずっと警戒はしていたのですが…何故あのようなことが起こったのか、よく分かりません。団長はどうお考えですか?」
「んー、そう言われてもなぁ。鏡からの襲撃の一環と考えるのが1番有力だが、何も無かったのならただの気象現象という可能性もある。ただなぁ…霧だけならまだしも、一種のテレポートのようなことが起こっているから。可能性としては低い…か」
カミーユが頭を悩ませていると、リアーナが手を叩く行為を一回。二人はその音でハッと現実に戻ってきた。
「団長。差し出がましいようですが、今回のことは、今考えても仕方がないのではないか、と私は思います。とにかく、今回のこと以外に特段何か起こっているわけではないですし、一旦、叡智の塔を目指すことに重きを置いてみてはいかがでしょうか?」
「んー、確かにリアーナの言う通りだな。注意を引き上げることは大前提として、とりあえず、本来の目的は果たさないといけないよな。ヨーナスさんに国の方の団の指揮も任せてあるし、一刻も早く帰るべきだ」
カミーユは持っていた水を一気に飲み干すと、急に立ち上がった。そして、外でも響くような大きな声で
「他のことは後で考える!とりあえず今は、作戦続行!」
「アリアちゃん!私のも食べる〜?美味しいよ!はい、あーん」
「あ、ベルラ様ずるいです!私だって、アリアちゃんに食べ物あげたいです〜」
ベルラとミカルが、2人してアリアに食べ物を与えて甘やかしていた。そこにルナールもおずおずと加わりながら、
「ベルラ様、ミカル様…。わ、私も…!」
「えぇ!ルナールちゃんも!?ルナールちゃんは渡す側よりむしろ渡してもらう側では…?私の分あげるー!」
「ミ、ミカル様…!恥ずかしい……です」
「おい!話聞いてるかー?」
カミーユの声など入らないほどに、女性陣の会話は盛り上がっていた。カミーユが何か指示を出していると気がついたのは会話が少し落ち着いた後。
「あ、カミーユ様。何か言ってました?」
ベルラが取ってつけたようにカミーユに聞いた。他の女性達も、そういえば何か言っていたかもしれないと、急に口を結びカミーユの方へ視線を向けた。
「別に…特に何も言ってないし」
「話聞いてなかったのは本当にごめんなさいー!ふてくされないでくださいー!」
そっぽを向くカミーユに、ミカルが全力の謝罪の言葉を口にする。その攻防に、リアーナが間に割って入った。
「まぁまぁ。団長も一旦心を落ち着かせて。食べ終わったら出発しましょう」
「リ、リアーナ様…!天使…!」
「ミカルさんも含め、皆さんも反省してくださいよ?私達には大切な役割があるんですから。ヨーナス様も含め、情報を待っている方々が沢山いらっしゃいますよ」
凛とした立ち振舞で、彼女はメンバーをまとめ上げた。
*
「ほんと、なーんにも起きなかったねぇ。びっくり」
ベルラは大きく背伸びをすると、視線を上に向けた。そこには真っすぐにそびえ立つ叡智の塔があった。カミーユは首を鳴らしながら
「ますますあの出来事が何だったのか気になるが…まぁいいか。こうして無事全員着けたし」
「それにしても……初めて来ましたけど大きいですねぇ……」
どこまでも高くそびえ立つ塔を目の前に、リディオは感嘆のため息を漏らした。ミカルとルナールも、初めての場所に興味津々の様子だった。
「副団長は来たことが…ある…のですよね…?」
「そうですね。回数が多いわけではありませんが」
「何かと必要な情報が欲しい時があるからねー。信頼できるメンバーってなると、大体副団長が入ってきちゃうのよ」
おずおずと聞くルナールに、ベルラとリアーナは笑顔で返した。
「準備はいいかー?開けるぞー?離れとけー」
団長のみが持っているブローチに右手をかざし、目を瞑る。数分すると、かざしている手から光が漏れ出し、叡智の塔の固く閉ざされたドアも淡く光りだした。
「我等の叡智、ここに。深く、感謝し、ここにある、知識を、力を、歴史を。」
ブローチからの光と、扉からの光が結ばれ一本の線となる。ゆっくりとかざしていた右手を離すと、光が粒子のように消え去った。それが合図となったかのように、固く閉ざされていた扉がゆっくりと開き始めた。
「おぉ…すご。こういう感じで開くんだ」
呆然としているリディオに、ミカルが覗き込んだ。
「リディオ、さっきから興味津々だね」
「ほら、みんなでそんなぼーっと突っ立ってないでさっさと入るぞ」
カミーユを先頭とし、全員で中へと入っていく。入ると、リディオたちの居る真ん中は広いスペースがあり、壁一面には書物が見えないくらいまで高く積み上がっていた。リディオはぐるりと体を一周させ
「うぁ…こんな大量の本から、どうやって鏡に関する本だけ見つければいいんですか…?日が暮れるどころか、1ヶ月くらい経ってもおかしくない量ですよ…」
「それなら大丈夫だ。真ん中に石碑があるだろ?あそこに探してる内容の本を思い浮かべながら手をかざすと、その本が光る」
「え!じゃぁめっちゃ楽じゃないですか!?」
「ただなぁ…。量が膨大だから、関連する本も多くていっぱい光ったり、光ったとしても上の方にまであったりして、取りに行くのが大変で、結局1日かかるんだよ。まぁ、みんなで頑張ろ……」
瞬時、カミーユがリディオ達の視界から消えた。
「え…?団長!?」
「リディオっ…。上…!」
ミカルの声で上の方を見る。上から剣と剣が合わさる時の不快な音が塔に響き渡っていた。上の方の足場でカミーユと、もう1人人影が見える。その2人が剣を交わしている。リディオは目を細めてもう1人を見る。リディオの瞳が捉えたのは、小柄な体格の少女。そして、ウェーブのかかった水色の髪。
「──アリ…ア?」




