18話「足音と決断とざわつきと」
足音がどこからか聞こえた。リディオは顔を上げ、目を細める。そこには2つの影。汗ばんだカミーユと、リアーナが二人一緒に降りてきていた。
「みんな!!無事か!?」
最後の一段を降り終わると、カミーユは通った声で全員に話しかけた。ベルラは地面に足を伸ばして座ったまま、隣でミカルがヒールをかけていた。その状態で、状況を伝えていく。
「まぁー。ぼちぼちって感じです。私は怪我しちゃいましたけど軽傷で、今ミカルにヒールかけてるもらってるところなんで。私以外は傷一つついてないですよー。逃げられましたけどね」
「いや、ともかく皆無事でよかった…」
「敵の情けですよ。それが、とても悔しい」
唇を噛み、ベルラは何も発さなくなる。
「ごめんなさい。ベルラさん。私が、弱いばかりに…」
「リアーナやめて!そういうのがあたしは一番…」
ベルラとリアーナは相手の顔を瞳に映し、今にも泣き出しそうな顔だと互いに思っていたことだろう。そして、互いが互いに責任を感じる。何という負の連鎖なのだろうか。
「まぁ。俺も一目散に上の方に飛ばされちゃったわけだし、誰が悪いとか、ほんとにないよ。全員原因だし、全員悪くない。反省会はまた後日ってことで」
あえて楽観的に
「でもいやぁ。これからどうするか。一旦、本来の目的は達成したほうがいいのか?でも、今回の状況をいち早く伝えるべきでもある…が」
「団長。私だけでもいいです。早急に戻る指示を出していただきたいです」
「なるほど。一旦理由を聞かせてほしい」
「父と母の、安否を確認させてください」
カミーユを取り囲む空気が一瞬にしてピリついた。
「それって…そんなまさか。いや、ルナールがそう言うということは、確認したい理由でもあるのだろう。早急に戻るべきだな」
「アリアちゃんは、目的の本を回収したようでした。多く書かれているわけではないけれど、重要なことが書かれているって言っていたような…。となると、もうこの塔に私たちが求めているようなことが書かれている本は無いのでは?」
「ただ、関連しているはずの本はまだたくさん光っている…。一概に、もう有益な情報のある本が無いと断定するのはよくない」
カミーユは一息つき、一人一人に目を向けた。
「俺とリディオ、ルナールの2人は城の状況を確認してくる。きっとあの襲撃があった後だ。この塔は暫く安全であると判断する。それよりも、城の方が心配だ」
「団長…」
こういう時のカンが、カミーユはよく当たることをリディオはよく知っていた。
「他は光っている本を片っ端から集めてくれ。指揮はリアーナに任せた。ベルラさんは、リアーナの補佐を。できるだけ早く戻れるように頼んだ」
全員、先程までの混ざって混ざって、ぐちゃぐちゃになった感情を端に捨て、カミーユの命令に小さく頷く。そして、彼らの足音は一気に塔へと散らばった。
「……」
ふとリディオはルナールに視線をやると、そこに居たのは子供と騎士団が混じったような姿だった。リディオも、どんな素振りからそう感じたのか分からない。ただ漠然と、暗闇で迷子になっている子どもが泣いていると思った。
「大丈夫。…きっと大丈夫」
ルナールの頭に、そっと手を当てる。仲間だから、とかそんな理由ではなかった。迷子で不安な子供をなだめるように、魔法のような言葉を繰り返した。
「リディオ様。私を子供扱いしないでくださいますか?団長には追いついていなくても、リアーナ様に追いついていなくても、リディオ様に追いついていなくても、私だって騎士団です。選ばれし、騎士団の一人です。常に己と向き合い、磨きを極めてきました」
リディオの手をそっと持ち、頭から下ろした。そうして、リディオを見つめ、目を細める。
「──大丈夫。ですから」
彼女の向けるそれは、とても穏やかな瞳であった。
*
城に入った瞬間、何かがあったのだと、リディオは肌で感じた。城について、長い長い廊下を歩いていても、すれ違うのはたったの数人。城にいるのは、いつもの警備の半分にも満たない数であると、率直にリディオは思った。
「あっあの…」
ちょうどリディオの横を通った魔道士団の制服を着た女性。人があまり居ない中、状況を一刻も早く確認したい思いから、面識のない、ましてや騎士団ではなく魔道士団の女性に気がついたら声をかけていた。
「あの…人があまり居ませんが、何があったんですか?騎士団所属のリディオなのですが、今さっき戻ってきたばかりで状況の把握が出来ていないんです」
「リディオ……あぁ…ミカル様と仲の良い…。それに騎士団団長のカミーユ様も…」
ちらりと2人の顔に視線を移し、そのまま言葉を続ける。
「叡智の塔に向かわれて…。そうか。ご存知ないのですね。私の口からは説明しかねます。団長が全ての状況を把握しているので、どうぞこちらに」
そうして、ある部屋の扉の前まで案内をされる。彼女はそのドアの前で止まると、軽くお辞儀をしまた廊下へと歩いていった。息を整え、力強くドアをノックする。
「ヨーナスさん。カミーユです。入りますよ」
聞き馴染みのある声が部屋に入る許可を出した。ドアノブをゆっくりと回して部屋をのぞくと、ヨーナスと何人かの魔道士、騎士が大きな机を取り囲んでいた。
「無事帰ってきていたのですね。まずは、お疲れ様です。カミーユ、リディオ君、それと、ルナールさん…でしたか。貴方方三人だけですか?他の皆さんは…?」
その場にいた全員が、ハッとしたように、帰還した3人へ目を向けた。明らかに、最悪の状況を思い浮かべているような表情だった。
「安心してください。全員生きています」
カミーユがその一言を発した瞬間、安堵の空気がその場に流れた。
「なのに三人だけ戻ってきた…ふむ。何かトラブルがあったのですね」
「えぇ。おっしゃる通りです」
カミーユは塔の中で起こったことを、簡潔に話し始めた。ヨーナスは瞼を閉じ、両腕を組み、凛とした背筋を保ちながらカミーユ達の話を聞いていた。全ての話を聞いたあと、ヨーナスは床の虚空を見つめる。
「なるほど…。やはり。全てかどうかはともかく、アリアさんが言っていたことは信じて良いと考えるのが妥当でしょう」
自身の胸がざわつく感覚が、リディオ起こった。そして、ヨーナスはただ一点。リディオの瞳を目を向け口を開く。
「簡潔に言わせていただきます。王と王妃が連れ去られました」




