屋敷での囚われ生活
うーん、この状況はどうしたものか__。
ロクサーヌの屋敷に潜入することに成功したが、逆にこうして彼のもとに囚われてしまった。
とはいえ彼は、さすがに私を屋敷の地下牢に無造作に勾留する、というようなことはしなかった。仮にも一介の公爵令嬢であるマリアンヌを、無碍に扱うのは憚られたのだろうか。
代わりに屋敷の客間の一室のようなところをあてがわれて、そこに軟禁されるような形で滞在している。
一応、今のところ三食きちんと食事は出るし、使用人やメイドたちもひっきりなしに私の世話を焼きに来てくれる。
まるで病弱で外の出ることが出来ないお姫様を看病しているかのような高待遇だった。部屋から外に出れないことを覗けば、使用人たちは私の望むものを何だって持ってきてくれる。私は拍子抜けしてしまった。
それにしても、あのロクサーヌがまさかあんなイケメンだったとは驚きだった。
私は昨晩のやりとりを思い出しながら呟く。
ゲームで見る限りでは、彼は単なる怪しい仮面の男キャラとして存在していた。素顔なんて見たことはない。あんなに美形なのであれば、ゲーム内でも仮面なんてつけなければ良かったのに。そしたら、もっと人気出たのでは?
暇を持て余した私は、のんきにそんな事を考えていた。
(とはいえ、こうも長期間、部屋にこもりきりだと、さすがの私も退屈してきたわ__)
そんなことを考えていると、この日久しぶりに、ロクサーヌが私の滞在する部屋に様子を伺いに来た。
「ロクサーヌさま。一体、私をいつまでここに閉じ込めて置くつもりですか?」
私はすかさず、彼に詰め寄ってみせる。
すると、彼は淡々とした調子でこういった。
「君が、私に敵意がないと証明されるまでは、ここから出すつもりはない。」
「ご心配なさらずとも、あなたに敵意などありませんわ」
「それはどうかな」
私は本心からそういったつもりだった。
でも、ロクサーヌは目を細めただけで取り合わない。
「お前は王都で、ヒースの忠実な想い人だった。
そんな彼のことを、簡単に諦めきれるはずがない」
(……そんなわけ、ないでしょう)
しかし、ロクサーヌはかなり用心深い性格のようだった。
確かに、彼の立場から見れば、マリアンヌがヒースの手先である可能性を疑うのは、決して不自然ではない。
「私は、そのようなことはいたしませんわ」
「信用ならないな」
そう言いながら、不意に彼は私の目の前まで歩み寄ってくる。そして、両手で私の腕を掴むと、側の壁際に押し込めて、身動きを封じられてしまった__。
昨日と同様に、吸い込まれそうなほどに美しい顔立ちが、私の目前にまで迫ってくる。思わず心臓が跳ね上がった。
「では、君の無実を証明するために、今から、私の相手をしてもらおうか」
「……ど、どういうことですの?」
彼に上から至近距離で見下ろされ、思わず息を呑む。
彼の低い声が、耳元に落ちてきた。
彼の意図は掴めなかったが、どうやら私が既にヒースへの思いを捨て去ったことを証明するために今ここで彼の相手をせよ、と言っているらしい。
「ほ、本気ですか_?」
彼は答えない。でもこの状況で冗談を言っているとも思えない_。
混乱する私をよそに、彼はそのまま私を腕の中に抱え込む。紫の瞳が、まっすぐ私を射抜いて、目を離すことが出来なくなった。
こうなってしまったからには、私は覚悟を決めて目を瞑った__。
「っ……」
__しかし何も起こらない。
恐る恐る目を開けると、ロクサーヌさまは眼の前で私を見下ろし、どこか楽しそうに笑っていた。
「冗談だよ」
そう言って、あっさりと私を解放する。
(……か、からかわないでください!!)
喉まで出かかった叫びを、必死で飲み込んだ。
全く、そんなふうに私を弄ぶことはやめてほしい。こっちの身が持たない。
こんなとき、本物のマリアンヌだったら、もっと冷静に受け流せるのだろう。こんなのは、単なる貴族同士の戯れに過ぎないのかも知れない。でも、なにを隠そう私の中身は凡人社会人なのだ。私は思わず素でびっくりしてしまいそうなのを既のところで堪えた。
「__とはいえ、さすがの私もこの部屋にずっと籠りきりなのには退屈してきました。」
私は動揺を紛らわすために話題を変えた。
「せめてこの部屋から出していただくことはできませんか。
お城の敷地からは出ないと約束しますから。」
ロクサーヌさまは少し考え込み――やがて、頷いた。
「良いだろう。ただし条件がある。」
彼はこう言い添えた。
「屋敷の外へは私が付き添う」




