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ヒロインに悪役を押し付けられた悪役令嬢、追放エンド後にラスボスの悪役公爵さまに愛重めに囚われる  作者: 秋名はる


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本物のリリィ

リリィは噴水に落ちたところを無事に救出された。幸い命に別状はなかったが、落下の衝撃で意識を失ったまま、しばらく目を覚まさなかった。


ロクサーヌ様の証言により、ヒース様はリリィが自ら罪を逃れるためにバルコニーから飛び降りたことを信じてくれた。しかし、それから何日経っても、リリィは一向に目を覚まさない。私たちはそのまま王宮に滞在して、彼女の回復を待ち続けた。


* * *


ある日、眠り続けていたリリィが目を覚ましたという知らせが届いた。しかし看病をしていた治療士によれば、なんだか様子がおかしいらしい。


ヒース様に呼ばれて、私たちはリリィの部屋へと駆けつけた。


「マリアンヌ、よく来てくれた。なんだかリリィの様子がおかしくて」


「変というと?」


奥のベッドを見ると、リリィは上半身を起こしてこちらを向いていた。表情は読み取れなかったが、意識を取り戻したことは確かだった。


「あなたがマリアンヌさんですね」


突然、リリィが私に話しかけてきた。


「え、そ、そうだけれど」


(どうして、私のことを知らないような言いぶりなの……?)


「あなたにお会いしたいと思っていたんです」


今度はヒース様の方を向いて、リリィはこう続けた。


「もしよければ、マリアンヌさんと二人きりでお話しさせていただけませんか?」


リリィは丁寧に二人にお願いする。

それを聞いて、ロクサーヌ様とヒース様は顔を見合わせた。


リリィがまるで別人になってしまったことに、二人も気づいているようだった。とはいえ、つい先日二人きりにしたばかりで落下事故が起きている。

しばらく考えた末に、「短時間であれば」という条件で、二人で話すことを許可してくれた。


二人が部屋を出ていくと、リリィは静かに口を開いた。


「はじめまして! 私、リリィさんの中の人と入れ替わって、代わりに現代で生活していました。本物のリリィ・ブライトです」


「ほ、本物のリリィ?」


私は思わず聞き返した。


「はい。目が覚める前は、彼女の代わりに現代で生活していたんですけど、ある日突然気を失ってしまったみたいで、気がついたら元の世界に戻っていました」


そう言って、本物のリリィを名乗る人物は微笑んだ。確かに彼女からは、あのリリィのような気の強さや強引さが微塵も感じられない。


「ど、どうしてあなたが戻れたの? 元のリリィはどうなってしまったのかしら」


「私にもよくわかりませんが……どうやらこの世界にいたリリィは、つい最近ベランダから落ちたらしいですね。その衝撃で入れ替わりが戻ったのではないかと思います」


それを聞いて、私はあることに気がついた。


「ちょっと待って。あなたがリリィの代わりに現代へ行っていたのなら——反対に、私と入れ替わった本物のマリアンヌが、現代にいるということ!?」


「いましたよ」


リリィは、さも当然のように言った。


* * *


「というわけで、今病室にいるリリィは、もともとこの世界で生まれ育った本物のリリィだったみたいです」


客室に戻った私は、ロクサーヌ様にさっきのやり取りをこっそり報告した。ヒース様は私たちが転生者だという事実を知らないので、ロクサーヌ様だけに打ち明ける。


「では、君を陥れようとしていたリリィは、入れ替わって君の元いた世界に戻ったということなのか」


「そのようです」


ロクサーヌ様は目を見開いていた。しかし、話の辻褄に不審な点はなかった。


「彼女の言っていることが確かなら、差し当たっての脅威は去った——そう考えてよいのでは」


「でも、一つ問題が残ります。本物のリリィが現代にいたということは、本物のマリアンヌも同じように現代にいて、私の姿で生活しているということになる」


「それが何か?」


「彼女もリリィと同じように、こっちへ帰りたがっているかもしれません。

 だとしたら、私はここに留まっているわけにはいかない。本物のマリアンヌさんをこちらに返してあげないといけないんです」


「……それには同意できない」


ロクサーヌ様は真剣な表情で私の顔を覗き込んだ。しかし、私の意思は固かった。


「私はマリアンヌさんと違って、向こうの世界では単なる庶民に過ぎません。私のせいで本物のマリアンヌさんが苦労しているかと思うと、いたたまれないんです」


以前聞いたように、彼は私が別人だと知ったうえで婚約してくれた。

そんな彼のことを思うと、私も胸が締め付けられる。


「走破させない。

 もし本当に帰るつもりなら……私は君を屋敷に閉じ込めてでも、この世界に留め置いてみせる」


「……?」


ふいに、ロクサーヌ様はそう呟いて、瞳を細めたて私の方を抱き寄せた。

見上げれば、彼の怪しく光る紫陽花色の瞳から、その真意は計り知れない。


(そ、それはどういう……)


不穏な発言に聞き返しかけたけれど、おそらく冗談だろうと思って、私はそのままにしておいた。


次回で最終話(完結)予定です。

最終話は、明日18時ごろ投稿予定です。

最後までよろしくおねがいします!

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