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ヒロインに悪役を押し付けられた悪役令嬢、追放エンド後にラスボスの悪役公爵さまに愛重めに囚われる  作者: 秋名はる


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リリィの犯した罪

疑いが晴れた私のもとへ、ヒース様が駆け寄ってきた。


「マリアンヌ、誤解をしてしまって申し訳なかった。正直、君がそのような大胆なことをするとは、にわかには信じられない思いでいたのだ」


「いいえ、疑いが晴れて良かったです」


リリィが自ら告発していたこともあり、ヒース様は煮え切らない様子ではあったけれど、マリアンヌにそんな度胸はないと信じていてくれたらしい。私は素直にほっと胸を撫で下ろした。


「それにしても、だとしたらリリィはなぜあのような主張をしたのか……君の言うこととあまりにも食い違っている」


私が無実ということは、嘘をついていたのは告発したリリィ本人ということになる。ヒース様がそのことをリリィに問い詰めると、リリィは不貞腐れた顔で押し黙ってしまった。


「信じてくださいませ。私は決して嘘などついておりませんわ。今回は有罪を証明できませんでしたが、いつか必ずマリアンヌの悪事を暴いてみせます」


ロクサーヌ様が今回の事件の首謀者がリリィであると知っているような素振りを見せた以上、強気には出られないのだろう。そう吐き捨てると、リリィは私たちに背を向けてその場から立ち去ろうとした。


「待て、まだ話は終わっていない」


ロクサーヌ様がリリィを引き止めた。


「もう一つ、君たちに知らせたいことがある」


そう言って、ロクサーヌ様は私とヒース様、それからリリィを連れて別室へと向かった。



* * *



案内された部屋に入って、私は思わず目を丸くした。


そこには、ジゼルと——アスタリスの屋敷を辞めたはずのメイドのローザがいたのだ。


「あなたたち……どうしてここに?」


リリィも同じく目を見開いている。部屋の中で待機していた二人は、リリィの顔を見るなり、ひどく怯えた様子で縮こまった。


「今回の件で、私はリリィの周辺人物についても調査をしていた。その中で、面白い事実が出てきた」

「面白い事実?」


思わずロクサーヌ様を振り返る。私にはこの二人の組み合わせに見覚えがあった。以前の舞踏会での、ジゼルによる婚約強奪未遂事件——そしてその時に用いられた、私がローザに調合したはずのある薬のことだ。


一体何が始まるのかと固唾を呑んでいると、黙り込んでいたジゼルがおもむろに口を開いた。


「実は私は、リリィ様より——マリアンヌ様からロクサーヌ様を奪い取るよう命じられたのです」


(ええっ!? 嘘でしょう……)


衝撃の一言に、私は声も出なかった。隣のヒース様も、まったく同じ顔をしていた。


「それは……あの舞踏会の晩のことですか?」


思わず口を挟むと、ジゼルはうつむきながら頷いた。


「はい。マリアンヌ様とロクサーヌ様が婚約されたと知った頃、どうしても諦めきれずにいた私は、ある日そのことをリリィ様にお話ししてしまったのです。するとリリィ様は、ロクサーヌ様との婚約が叶うよう取り計らってくださると仰って——それであの晩、私はロクサーヌ様に媚薬を盛ろうと企ててしまいました」


「何を言っているの、そんなのでたらめよ!」


リリィが金切り声を上げた。しかしジゼルもローザも引き下がらない。


確かに私も、あの晩のジゼルとの会話を思い出していた。彼女は「さるお方」に後押ししてもらっているようなことを言っていた。その「さるお方」が、リリィだったということか。


「私も同様です」


今度はローザが口を開いた。


「私はリリィ様より、マリアンヌ様に媚薬を調合させるよう命じられました。当時、田舎に住む母が病気で、お金に困っていたのです。リリィ様に話を持ちかけられ、お金に目が眩んでマリアンヌ様に接触してしまいました」


(そういうことだったの……)


だからあの晩、ジゼルは私が調合したはずの薬を持っていたのか。合点がいった。話を聞きながらリリィの方を横目でうかがうと、彼女は口を真一文字に結んで一言も発しない。


(なんてことをしてくれたの。一体何の理由があってそんなことを……。あの晩、企みが失敗に終わったこと自体は良かったけれど——その後が大変だったんだから!)


あの晩のことを思い出して、顔から火が出そうになった。


「一体何の話をしているのですか。私がロクサーヌ様とマリアンヌの仲を引き裂こうとしたですって? よくもそんなでたらめが言えますわね。それこそ、証拠を見せてくださいよ」


リリィは白を切って強気に出た。


しかしロクサーヌ様は、冷徹な笑みを崩さなかった。


「証拠ならある」


そう言って懐から取り出したのは、ぶ厚い手紙の束だった。ロクサーヌ様がそれをテーブルに広げると、私とヒース様は思わず身を乗り出した。


「これは、リリィが各方面に指示を出した手紙だ。筆跡は間違いなく彼女のものだよ」


数十枚にも及ぶ手紙には、確かに全てリリィのサインがある。覗き込んでいた私とヒース様は、ほとんど同時に気がついた。宛名はローザとジゼルだけではない。今回の法廷で証言をした証人、元屋敷の使用人、検察宛の手紙まで、そこには揃っていた。


「こ、これは……よく見れば、先ほどの疫病事件の証人や検察官の名前まである。一体どういうことだ」


ヒース様が不信感を露わにしてリリィを見上げる。もはやリリィに言い逃れる余地はなさそうだった。


「この手紙には、ジゼルとローザ宛て以外にも、今回の疫病事件の関係者宛てのものが混じっている。中身を読めば、リリィが事細かく指示を出していたことがわかる」


ロクサーヌ様は手紙の束を手に取りながら、勝ち誇ったような冷たい笑みを浮かべた。


「どの手紙にも、読み終わったら燃やすようにと書かれていた。しかし一部の用心深い者たちは、万が一のことを恐れて燃やさずに取っておいたらしい」


「そんな……どうして……」


リリィは青ざめて後退った。頭を抱えてブツブツと何かを呟いている。


「あの法廷でこれを突きつけてしまってもよかったんだ。しかしここはヒースの顔を立てて、穏便に済ませてやった。もしあの場でマリアンヌが有罪になる動きを見せたなら、その場で全て暴くつもりだったがな」


法廷でリリィを断罪しなかったのは、ロクサーヌ様なりのヒース様への配慮だったらしい。確かにあの場でリリィが断罪されれば、婚約者であるヒース様の心証にも傷がついてしまう。


「リリィ、これは一体どういうことだ。説明してもらおう」


「ヒース様、誤解です。これは罠ですわ。ロクサーヌ様とマリアンヌが私を陥れようとなさって——」


「しかし手紙の筆跡は、間違いなく君のものだろう?」


ヒース様がさらに詰め寄る。これだけの物的証拠を突きつけられては、さすがに信じないわけにはいかない様子だった。リリィは口ごもる。


「私は君のような小物に興味はない。しかし覚えておくんだな——たとえ小物でも、私の大事な婚約者に手を出せばどうなるのか」


ロクサーヌ様は、見る者を地の底に引きずり込むような冷酷な笑みをリリィに向けた。その瞳の前で、リリィは膝から崩れ落ちるようにへたり込んだ。


リリィはようやく観念して、自らの罪を認めた。

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