王妃様からの招待
ある日のこと、私のもとに一通の手紙が届いた。
封蝋には王家の紋章が押されている。てっきりヒース様からかと思って開封してみると、差出人の名前を見て私は思わず二度見してしまった。
「王妃様から……私宛に?」
思わずロクサーヌ様の方を見上げると、同じ部屋でくつろいでいた彼もまた不思議そうな顔をしている。
私は、手紙を開いた。中にはこう書いてあった。
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親愛なるマリアンヌ嬢へ
お元気にしていますか?
先日は、舞踏会にて危ないところを助けていただき本当にありがとう。
近々その御礼がしたいと思っているのです。
後日、使いを出しますので
婚約者のロクサーヌ公とともに、王宮にいらして下さい。
愛を込めて、エリザベート
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「どうやら、先日の舞踏会で体調不良で倒れ込んでいた女性というのが、王妃様だったようです」
手紙の内容を読んで、私はあの夜のことを思い出した。廊下で発作を起こした老婆を薬で助けたあの一幕——まさかあの方が王妃様だったとは。
「わざわざお礼をするとは、律儀なものだな」
そう言って、ロクサーヌ様は鼻を鳴らした。
「ロクサーヌ様もご一緒にと書いてあります。もしご面倒であれば、私だけでも参上しますが」
「いや、私も付き添おう」
こうして私たちは、再び王宮へと向かうこととなった。
* * *
秋の清々しい風が吹く、よく晴れた日のことだった。
王妃様に言われた通り、私は王宮の中庭の一角にいた。中央に噴水が輝く小綺麗な庭園で、今の時期見頃の色とりどりのバラが咲き誇っている。隅にあったテラスに腰掛けて待っていると、庭先から、あの夜助けた女性が穏やかな笑顔で現れた。
「マリアンヌ、よく来てくれました」
「お招きいただきありがとうございます、王妃様」
「あなたにお礼がしたいとずっと思っていたの。でも公務が重なってしまって——遅くなってごめんなさいね」
「とんでもありません。当然のことをしたまでですから」
私が謙遜すると、王妃様は微笑みながら私を庭園の散策へと誘ってくださった。秋風が心地よく、バラの甘い香りが漂う中、私たちはゆっくりと石畳を歩いた。
「あなたの噂は、息子のヒースからもよく聞いていたのよ。
王都で流行っていた恐ろしい疫病を見事に沈めたとか」
「お役に立てて、本当に良かったです」
そう言って王妃様は私の前に立つと、両手でぎゅっと私の手を握りしめた。その手の温かさに、私は少し面食らってしまう。
「多くの命を救っていただいた。王妃としても心から感謝しています。それからロビンも——城の中で困っているところを助けてもらったと言っていましたよ」
「ああ、あの時の」
疫病を撃退した後、城の廊下で泣いていたあの少年の顔が浮かんだ。
「ロビンはまだ幼くて甘え気質が抜けないところがあって、家庭教師たちも頭を抱えていたのだけれど。あなたに元気づけてもらってから、苦手な魔法の勉強にも意欲的に励むようになったわ」
「それは良かったです」
微笑ましく思いながら相槌を打っていると、王妃様はふと足を止めて、こちらに向き直った。
「あなたはこの王室に対して、多くの貢献をしてくれています。そこで私は決めたのです——あなたを、王室付きの聖女に推薦しようかと思うのです」
「……王室付きの聖女に、私を、ですか?」
思わず聞き返してしまった。
(ど、どうしてそんなことに……)
「ご迷惑だったかしら?でも、あなたの成し遂げたことはこれから一国を支える偉大なことです。その力を、聖女として役立てていただけないかしら」
「王妃様にそう言っていただけるなんて、もったいないことです——」
口ではそう答えながら、胸の中は複雑だった。
(どうして私が聖女に……?)
ゲームの設定では、聖女になるのはリリィのはずだ。ヒース王子と無事に婚約した後、リリィはさらに二人の仲を深めるべく、王室付きの聖女を目指して特訓に励むというイベントがあった。
「でも、私なんかでよろしいのですか?王室付きの聖女は、ヒース様の婚約者であるリリィさんが目指していたはずです」
「ええ、そうなのだけれど——彼女はまだ聖女の力に目覚めていないようなの。私もヒースも、未来の王妃となる彼女のことを応援していたのだけれど」
王妃様は少し肩を落とした。
(そうだったのね……)
確かにリリィは、ヒースと婚約してからというもの鍛錬をサボりがちだった。疫病も私が治癒したし、ヒースが攫われた際も助け出したのはロクサーヌ様で、本来のゲームシナリオとはかけ離れた展開になってしまっている。
「今すぐには決められないので、一度考えさせていただいてもよいでしょうか」
「もちろんよ。とても重要な役目となるから、よくよく考えてみて」
そう言って、王妃様は去っていった。
* * *
王妃様と別れて部屋に戻ると、室内には様々な贈り物が所狭しと積み上げられていた。ドレスや宝石などの装飾品、色とりどりの菓子の箱。カラフルな包みの山が、部屋の中央に鎮座している。
「こ、こんなにたくさん……」
「良かったじゃないか。これもきみの活躍のおかげだろう」
ロクサーヌ様は贈り物の山を眺めながらそう言うと、私の方を見て静かに微笑んだ。
ロクサーヌ様に褒められるのは珍しいことで、私は少しだけ顔が熱くなった。




