媚薬の使い道
会場に戻っても、ロクサーヌさまがどこにも見当たらない。
心配になって私室まで探しに戻ると、部屋のソファにロクサーヌさまが座っていた。
「ロクサーヌさま、先に戻られていたんですね?」
先程のジゼルとのやり取りがあったので、何かあったのではと心配していた。
彼の様子を見るに、まだ何事も起きていないようだとほっと息をつく。
ふと彼の手元を見ると――ロクサーヌさまは、私が薬の生成に使う小瓶を握りしめてそれを眺めていた。瓶の中には怪しげな青紫色の液体が入っている。その色に、心当たりがあった。
「ロクサーヌさま、それは一体どこで?」
「今しがた、ジゼルが私のもとへやってきたのだ。どうやら、私にこの薬を盛ろうとしたらしい」
「ええっ! まさか、どうして?」
ロクサーヌさまは、なみなみと薬液の入った小瓶を私の前に掲げてみせた。
私は言葉に詰まってしまった。だって、私の記憶では、あれは屋敷でメイドのローザのために生成して渡したものだ。
本気で意味がわからなかった。
どうしてそれをロクサーヌさまが持っているの?
「ジゼルはこの薬を別の誰かからもらったと言っていたが、私はこの瓶に見覚えがある。きみが魔法薬を生成するときに使うものだろう」
(ぎくり……)
この薬を生成したのが私だと、感づいているようだった。
「ど、どうして君が生成した薬をジゼルが持っていたのだ?」
「わ、私にも意味がわかりません。だって、この薬は……」
何の罪もないのに、なぜか窮地に立たされて後退る。
「君がこの薬を調合して、私に毒を盛るようにしむけたのか?」
「ち、違います!」
そもそもジゼルと私は今日が初対面だ。でも彼にしてみれば、私が生成した薬をジゼルが持っていたとなれば、私がそう仕向けたと思うのは当然かも知れない。
ジリジリと袋小路に追い詰められていった。
「ジゼルに何度も聞いたが、彼女はこの薬にどんな効果があるのか口を割らなかった。しかし、君なら知っているのだろう? 君が自分で服用して確かめてみるんだな」
ロクサーヌさまはにやりと笑ってそう言うと、私の喉元に薬の入った小瓶を押しつけた。
「ちょ、ちょっと待ってください……ゴボボボ」
(――飲んじゃった……。)
私は絶望してその場にうずくまった。自分で調合した薬でも、薬は薬なので、誰が飲んでも効果は同様に訪れる。
すぐに体が火照ってきて、視界がぼやけていくのがわかった。
「君に人を殺す技量など無いだろうから、毒薬というわけではないのだろう」
解毒剤を調合しようとして、空になった瓶に手を伸ばす。しかしロクサーヌさまがそれを遮った。足がもつれて彼の方に寄りかかってしまう。そんな私を、彼は両手で抱きとめた。
そのまま私は、彼の腕の中に沈み込んでしまった――。




