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ヒロインに悪役を押し付けられた悪役令嬢、追放エンド後にラスボスの悪役公爵さまに愛重めに囚われる  作者: 秋名はる


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ジゼルの企み

マリアンヌに宣戦布告をした後、ジゼルは一人廊下を歩いていた。


 この後、ジゼルはロクサーヌと密かに接触することになっていた。

 ジゼルの行動を密かに指示していた人物――その御方の名は言えないが、その方がジゼルに影で助力していた。

 その御方によれば、この先にある一室にロクサーヌを待機させているとのことだった。ジゼルはその部屋を目指して進んでいく。


(諦めかけていたロクサーヌ様との婚約を取り持っていただけるなんて、かのお方には感謝しかないわ)


 ジゼルは心の中でほくそ笑んだ。

 ロクサーヌがマリアンヌと婚約したという噂は、以前から耳にしていた。そもそも、ロクサーヌがマリアンヌと婚約する前から、ジゼルとの縁談は破談になっていたのだが。


(――でも、だからといって諦めきれるわけがないでしょう)


 ジゼルは幼い頃から、ロクサーヌの父であるアスタリス公爵家と親交があった。ロクサーヌ自身の気持ちは伺い知れなかったが、彼女自身はロクサーヌとの将来を夢見て育ってきたのだ。


 そんな彼が他の誰かと婚約するなんて――最初は打ちひしがれていた。

 しかしそんな折に、ジゼルのもとに転機が訪れた。


(あのお方のおかげで、私はロクサーヌさまと結ばれるかも知れない)


 秘密裏に接触してきたその御方は、なぜだかジゼルとロクサーヌとの婚約を取り持ってくれると言い出した。しかし、それを実現するにはある障壁がある。


『ロクサーヌは既にマリアンヌと婚約している。だからまずは、その婚約を破談にしなければいけない』


 まず、ロクサーヌとマリアンヌとの仲を割くこと。それが、あのお方から持ちかけられた条件だった。


 ジゼルは手に持っていた小瓶を握りしめる。


(あのお方はおっしゃった。この小瓶の中身をロクサーヌ様に飲ませれば、ロクサーヌ様は自分の虜になると)


 小瓶の中には、何やら怪しげな青紫色の液体が入っている。


(この薬をロクサーヌさまが飲めば、彼と思いを通じ合うことができる。後は、そのまま既成事実を作ってしまえば、ロクサーヌさまとて後には引けなくなる。マリアンヌだって、離縁するしかなくなるでしょう)


 ジゼルは一人ほくそ笑むと、ロクサーヌが待つ部屋へと向かっていった。



【マリアンヌ視点に戻る】



*  *  *



 一方、王室の側近に呼び止められたロクサーヌは、城の中の一室で待機していた。

 この後、ヒースからの内密な話があるらしい。


(ヒースが内密に自分に話があるとは、一体どういう了見だ……)


 ロクサーヌが訝しんでいると、しばらくして部屋の扉をノックする者が現れた。


「ロクサーヌ様、こんばんは」


「ジゼル? なぜおまえがここに?」


「ある御方から、あなたがここにいると伺って参りましたの」


「――どういうことだ?」


 ロクサーヌは警戒心を露わにした。


「まあまあ、事情は後でご説明いたしますわ。まずはそちらにおかけくださいまし」


 ジゼルはそう言って、ロクサーヌを傍のソファへと促した。

 ロクサーヌが警戒しながらも応じると、彼女は口を切った。


「先程、ロクサーヌ様に突然駆け寄って無礼を働いたことを謝罪したいと思い、参りましたの。ロクサーヌさまがマリアンヌさまと婚約していたなんて、想像もしておりませんでした。どうかお許しください」


 ジゼルは健気にそう言って頭を下げた。


「でも、私がロクサーヌ様をお慕いしていたことは事実ですわ。それだけは信じてください」


「――そんなことを伝えるためだけに、わざわざ私をここへ呼びつけたというのか?」


 ロクサーヌは未だ不信感を顕わにして、突き放した。


「そ、そんな冷たいことをおっしゃらないでくださいな。ロクサーヌさまとマリアンヌさまが晴れて婚約された以上、きっぱりと諦めるつもりで参りましたの」


 そう言うと、ジゼルは部屋の隅にあるワインセラーから一本の赤ワインを持ってきた。


「ここで、一杯だけお付き合いいただけませんか? このワインを飲み終えましたら、金輪際あなたのことには関わりません」


 甘ったるい声でそう言いながら、ボトルの中身を二本のグラスに注いでいく。


「――これを飲み干せば、おまえはきっぱりと諦めるのだな?」


「はい、お約束いたします。もうロクサーヌ様に迷惑をかけることはいたしません」


 潤んだ目でそう言うと、ロクサーヌはワイングラスに視線を落とした。そのまま、それを口元に持っていった。 その時――。


「――こんな小細工で、私が騙せると本気で思っているのか?」


「えっ……」


 ロクサーヌはいきなり立ち上がり、片手でジゼルの手首を掴んで捻り上げた。


「い、痛い! 一体何をなさるのです」


 ジゼルがもがいて身を捩っていると、ポロリと袖口から小瓶がこぼれ落ちる。

 慌てて拾い上げようとした彼女を制するように、ロクサーヌは素早くその小瓶を掴み上げた。


「これは一体何だ? まさか、このワインのグラスにも同じものが入っているわけではあるまいな?」


「はっ……ま、待ってください。これには理由が……」


 見上げると、ロクサーヌは身も凍るような恐ろしい笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。


「この私が、このような子供だましに引っかかると思ったとしたら、心外だ。私は常に外敵から身を守る術を自分に施している。ワインに混ぜられた毒を見抜くなど造作もないこと」


 そう言って、ロクサーヌはジゼルの腕をさらに捻り上げた。


「お、お許しください。わ、私はある御方から命じられただけなのです。あなたを傷つけようとした意図はありませんわ」


「ある御方、か。それは興味深いな。では、洗いざらい喋ってもらおうか。誰がこのような愚かな企てをしたのか――」


 そう言って、ロクサーヌは凍りつくような笑みで、ぎろりとジゼルを睨みつけた。


「ひ、ひい……」


 脅しに屈したジゼルは、今回の陰謀の首謀者について洗いざらい白状した。


 それでも、ロクサーヌの頭の中には一つだけ疑問が残っていた。


(ジゼルはなぜ、"マリアンヌが生成した"薬を持っていたのだろう……?)

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