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ヒロインに悪役を押し付けられた悪役令嬢、追放エンド後にラスボスの悪役公爵さまに愛重めに囚われる  作者: 秋名はる


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ジゼルからの宣戦布告

 舞踏会が始まり、男女は思い思いのペアを作ってワルツを踊り始める。

 私とロクサーヌさまは既に婚約者同士なので、踊りには参加しなかった。


 その後も、ロクサーヌさまは他の貴族たちからひっきりなしに声をかけられて忙しそうにしていた。

 敵役として忌避されるのではなく、こうして人から受け入れられているのを見るのは私も嬉しかった。


 ロクサーヌさまが対応している間、私が一人で他の令嬢たちと他愛のない会話をしていると、不意に後ろから声をかけられた。


「マリアンヌさん、ちょっとよろしいかしら」


 振り返ると、ジゼルだった。

 先程のこともあって警戒したが、また騒ぎを起こすのも憚られたので、ジゼルに従って会場を後にした。


「こんなところに呼び出して、一体なんの用ですか?」


 ジゼルは私を人気のない別室へと連れ出した。

 二人きりになったところで、私は警戒しながら問いただした。


「前回、ロクサーヌ様にはああ言われましたけれど、私は諦めていませんから。ロクサーヌ様の婚約者になるのは、この私です」


(そう言われても――私は既にロクサーヌさまの婚約者なのだけれど……)


「それは承諾しかねるわ」


 私は冷静に突き返した。


 彼女は一歩も引く気がないようだが、これは決定事項だ。ヴィクトルお兄様もロクサーヌさまもそう言っていたし、国王陛下や他の貴族たちにも既に報告を済ませている。今更どうしようもない。


 すると突然、ジゼルはこんなことを言い出した。


「マリアンヌ様には悪いですが、今夜あなたはロクサーヌ様と婚約破棄します。そして代わりに婚約するのはこの私です」


「えっ? 一体どういうこと?」


 私は首をかしげた。


「さるお方に勧められたのです。マリアンヌ様よりも私のほうが婚約者にふさわしいから、あなたがロクサーヌ様と婚約するなら後押しをしてくれると」


「一体誰がそんなことを?」


 不信感を露わにした。


「それは今は申し上げられません。でも、マリアンヌ様――惨めに婚約破棄されるのはあなたの方ですよ。今ならまだ遅くありません、自ら身を引かれては?」


「そんなのでたらめに決まっているわ」


 私は取り合わなかった。しかし、ジゼルは自信ありげな様子を崩さない。


「ふん、どう思おうが勝手ですが、今夜私はロクサーヌ様の心を取り戻します。せいぜい婚約破棄された後のことでも考えていてくださいな」


「ちょ、ちょっと待ちなさい」


 そう言ったものの、ジゼルは聞く耳を持たなかった。

 そのまま踵を返して、一人で部屋を出ていってしまった。



*  *  *



 ジゼルと別れてから、私は一人でダンスホールへ向かっていた。

 ホールへ続く廊下の隅で、誰かがうずくまって倒れているのが目に入った。


「一体どうしたのですか?」


「く、苦しい……た、助けてちょうだい……」


 うめき声を上げていたのは見知らぬ老婆だった。

 私は慌ててその方のもとへ駆け寄る。


「具合が悪いのですか? 今、治療士を探して――」


「く、薬が……」


(……薬?)


 言われてあたりを見渡すと、老婆が倒れている真横に、薬液の入った小瓶が落ちているのが目に入った。倒れ込んだ際に落としてしまったのだろうか、小瓶は割れて粉々になっていた。割れた小瓶からは、何らかの液体がこぼれ落ちている。


「この薬があれば、症状を抑えられるのですね」


 私は周囲の状況からそう理解した。

 すぐさま懐から魔法薬を調合するための小瓶を取り出すと、ある事を念じる。


(ここに落ちている薬と同じものを生成して!)


 念じると、手の中の小瓶にみるみるうちに透明な液体が生成されていった。

 私は、それを老婆の口元に差し出す。


「これを飲んでください。割れてしまった薬と同じものです」


「どうやって……?」


 老婆はうめきながらそう呟いたが、そのまま私が差し出した薬に口をつけた。


「――落ち着きましたか?」


 ややあって問いかけると、荒かった息が安定し始めていた。


「ええ、助かりました。私は持病の発作があって、あの薬を服用しなければ息が苦しくなってしまうの。いつも持ち歩いているのだけれど、さっき発作が起きたときに手が滑って落としてしまって――」


「そうだったのですね」


「あなたがいなければ危ないところでした。本当になんとお礼を言ったらよいか……」


「助かって良かったです。気にしないでください」


 私は謙遜した。

 魔法薬を調合するときは通常、薬の薬効をしっかりと連想して生成しなければならない。あの薬がどういうもので、どんな症状を緩和させるためのものなのか、私にはわからなかった。

 でも私には、疫病のときに行ったように、同じ薬をコピーして量産する能力がある。コピーするだけなら、薬の素性を知らずとも生成できるのだ。

 なんとか間に合って良かった、と胸を撫で下ろした。


「では、これで失礼しますね」


 そう言って立ち去ろうとすると、老婆が引き止めた。


「ちょっとお待ちなさい。後で必ず、お礼をさせてちょうだい。あなた、お名前は?」


「ああ、えと――マリアンヌです。マリアンヌ・ド・ヴァロア」


「ああ、ヴァロア公爵のご令嬢なのね」


 老婆は父を知っているようだった。


「この恩は必ず返します。本当にありがとう」


 そう言って、私は老婆と別れた。

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