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ヒロインに悪役を押し付けられた悪役令嬢、追放エンド後にラスボスの悪役公爵さまに愛重めに囚われる  作者: 秋名はる


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ヴィクトルお兄様(帰省)2

「お兄様が連れて行ってくださったカフェ、あそこのパフェは絶品でしたね!」


 話題のカフェを出た私は、ほくほくと微笑んだ。

 新しくできたそのカフェはすでに人気を博しており、中は賑やかに繁盛していた。お店一押しの、採れたてのいちごと生クリームをたっぷり使ったパフェは絶品だった。


「君が喜んでくれて良かったよ」


 パフェを食べ終えた私たちは、続いてウィンドウショッピングをすることになった。

 二人で通りを歩き始めたとき、不意にヴィクトルがお店に忘れ物をしたことに気づいた。


「すまない、マリアンヌ。ちょっとここで待っていてくれないか? すぐに戻る」


 そう言って、ヴィクトルは先程のカフェへ一人駆けていく。

 私は通行人の邪魔にならないよう通りの隅に立って、人の流れを何気なく眺めていた。


 そんなときだった。

 突然、通りの奥から、見知らぬ若い女性が一人こちらに向かって駆けてくる。

 よく見れば、女性は数人の男たちに追われているようだった。


「誰か――! 助けてください!」


「待ちやがれ!」


 女性は人混みをかき分けながら逃げ惑っていた。


「一体、どうしたんですか?」


 周辺の人々が何事かと顔を見合わせて様子を伺う中、私は思わず女性に声をかけた。


「助けてください……乱暴されそうなんです! 殺されてしまいますわ」


 女性は私の後ろに隠れて泣き叫んでいた。


「聞こえが悪いな。俺たちはちょっといい女がいたから声をかけただけだ」


 男たちはニタニタ笑いながら、私とその女性を取り囲んだ。


「悪いことは言わねえ、その女をこっちに渡しな」


「そ、そんな! 助けてください」


「ちょっと、やめなさい!」


 男たちは女性を私から引き剥がそうと、無理やり腕を引っ張っていた。

 すかさず私が間に入る。


「なんだ、てめえ。俺たちのすることに文句があるってのか?」


「邪魔するんじゃあ、女といえども容赦はしねえ」


 男たちはおもむろに懐からナイフを取り出した。

 側にいた女性が震えて「ひっ!」と小さく悲鳴を上げる。


「乱暴な真似はやめてください。後悔することになりますよ!」


 私は臆せずに言った。


「何だと、てめえ、舐めたこと言いやがって」


「このナイフが目に入らねえのか?」


「――私は本気で言っているのですよ。止めるなら今のうちです」


 男たちは威嚇して迫ってくるが、私は取り合わなかった。


「こいつ……痛い目を見ないとわからねえようだな」


「――そのナイフをどうするつもりかな?」


 突然、ナイフを振りかぶった男の背後から、聞き覚えのある声が響く。

 男の背後に迫っていたのは、ヴィクトルお兄様だった。


「ひい! な、何だてめえ!」


 男が後ろへ飛び退いた瞬間、ヴィクトルお兄様はいきなり男の顔面を殴りつける。

 あまりの素早い身のこなしに、男は正面からそれを受けて悶絶して倒れ込んだ。


「おまえ、私の大事な妹にナイフを向けるとは。命が惜しくないようだな」


「き、貴様!」


 周りにいた男たちが兄に襲いかかってくる。

 しかし、ここでもヴィクトルお兄様は冷静だった。


 手を前にかざして何か呟くと、途端に閃光が走った。

 次の瞬間には、彼の放った魔法により、男たちは反対側の壁に吹き飛ばされてしまった。


 流石はヴァロア家、悪徳令嬢マリアンヌの兄。

 想像通りの、優秀な魔道士だった。


「マリアンヌ、怪我はないか?」


 一瞬の出来事に呆気にとられていると、ヴィクトルお兄様が私のもとへ駆け寄ってきた。


「お兄様、ありがとうございます。助かりましたわ」


 実は、男たちに絡まれている最中、後ろからヴィクトルお兄様がかけてくるのが見えていた。

 このお兄様なら、こんな奴らなど一網打尽にできると思って、強気で応対できた。


「マリアンヌ、おまえを一人にさせてしまったばかりに、こんな目に……。兄はおまえに合わせる顔がない」


「そんな――。心配しないでください。この通り無事です」


 そう言って、私はお兄様を安心させてあげた。


 その後、男たちは通りかかった警察の手にかかり、揃って連行されていった。

 女性は私たちに何度もお礼を言うと、その場を去っていった。


 私たちはその後、予定通り買い物を楽しんで、夕方頃に屋敷へと戻っていった。



*  *  *



 屋敷に戻った私は、せっせと帰り支度を進める。

 私室でくつろいで、そんな様子を眺めていたお兄様が、ふとこんなことを言った。


「本当に戻るつもりなのか?」


「――はい? どうかいたしましたか?」


 私が首をかしげると、ヴィクトルお兄様はソファから立ち上がって私の前にやってきた。


「いや、昼間はああ言ったものの、実は今でも半信半疑なんだ。どうしておまえが、ロクサーヌと婚約することになったのか――」


「それは――」


 言われてみれば、私としてもロクサーヌさまと婚約する決め手というか、理由を聞かれると自分自身よくわからない。

 この婚約はロクサーヌさま自身が言い出したことで、私は成り行きでそれに乗っかってしまったのだが。ロクサーヌさまがなぜ急にマリアンヌと婚約したいと思ったのか、私自身よく理解できていなかった。


「覚えていないか? 初めてロクサーヌとおまえが会った日のことを――」


 ヴィクトルお兄様は、遠い過去のことを思い出すかのようにそう言った。


「幼いおまえとロクサーヌは、全然気が合っているようには見えなかった。

 どちらも気が強くて、気に食わないことがあると一歩も引かないから、うまくいくとはとても思えなかったのに――」


「そうなんですね……。私はそんな昔のことはあまりよく覚えていなくて――」


 マリアンヌとロクサーヌさまが実は幼少期に何度か交流があったこと。それは私が追放されて屋敷に押しかけてきてから数日後に、ロクサーヌさま自身が教えてくれた。


 ロクサーヌとヴィクトルは同い年だ。ゲームの設定にも書いてあった。そして二人はともに王立魔法学校の生徒だったらしい。

 そんな二人と、マリアンヌは四歳の年の差がある。だから、二人が覚えているマリアンヌの幼少期のことを私が覚えていないのは、特段不自然なことではないはずだった。


「なんだか、少し前と比べると、君はまるで人が変わったように感じる。前はもっと、私にもそっけない様子だったのだが――」


「き、気のせいでは?」


 私は冷や汗をかいて、視線をそらした。


「たしかに、おまえはヒースに見放されて学園を追い返された頃からなんだか変わったような気がする。ロクサーヌと過ごすうちに、おまえの心にも変化があったのかも知れないな」


 幸いにも、ヴィクトルお兄様は勝手に納得してくれた。


「実を言うと、おまえがすこしでもあいつに不満に思うところがあれば、私はおまえをこの屋敷に縛り付けてでも家に帰さないつもりだったよ」


 またもサラッと恐ろしいことを言ってのけた。

 私は苦笑いを返す。


「冗談はおやめください。私のことは心配いりませんわ」


「そうか。でも何かあったらすぐに兄に言うのだよ。おまえは昔から、気が強くて人に頼らない頑固なところがある」


「ありがとうございます。そう言ってもらえるだけでも、私は心強いです」


そう言って、私はヴィクトルお兄様をはぐらかした。

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