幕間の攻防
昨日のことがあってから、自室に戻ってきたリリィは投げやりにソファに身を投げた。
(疫病の件は、なんとか私も活躍したことにして、丸く治めることが出来たわ。)
でも、結局自分の対応の甘さを指摘される事になってしまった。
(まったく_出しゃばって余計なことをしてくれるし
本当に目障りな子ね)
あのマリアンヌが、自分より目立つことはないと考えていた彼女が。
今や、自分よりも活躍しはじめて、周りからも慕われ初めている_。そのことに、リリィは焦りを感じ始めていた
最初は良い駒として使っていたけれど、
彼女があのロクサーヌのところに行って、彼と婚約するといったところからおかしくなったのだ。
そして、マリアンヌとロクサーヌは台本にない動きをして、魔物を退治したり、疫病を治癒してしまうものだから、今やロクサーヌ達は貴族たちをすくったヒーローだ。少し前までは、ゲーム通りに彼の評判は最悪だったのに。
(このままでは自分の立場が危うくなってきたじゃない)
そもそも、元を正せば、ここまでのマリアンヌの動きは、全て彼女がけしかけたことだった。
でも、自分がヒロインといって疑わない彼女が、そのことを省みるはずもない。
(あそこで、大人しく彼を引き止めてくれればよかったよ_それなのに普通婚約までする??)
そこまで考えて、リリィはあることが気になった。
(そもそも、どうしてロクサーヌは急にマリアンヌと婚約しようと思ったのだろう)
幼い頃からの許嫁の関係とはいえ、めったに人を信用しない、ゲーム内の悪役であるの彼の行動は、どうも読めな無いところがある。
(彼に接触して、直接確かめて見る必要がありそうね__)
リリィは再び立ち上がると、廊下に出てエントランスの方へと歩き出した。
** *
翌朝、帰りの支度を終えて、私が王宮のエントランスのところで待っていると
ヒースが階段を降りてこちらにやってきた。
「マリアンヌ、久しぶりに再開できて嬉しかったよ」
ヒースは、にこやかにそういった。
「国王陛下も、今回のことは感心しておられた。
私としても感謝しているんだ」
「ありがとうございます。
お役に立てて私も嬉しいですわ」
私も彼に応じてそういった。
ヒース王子とは、前回の夜会以来だった。彼とはあの夜少し気まずい感じなってしまっていたので
こうして普通の対応に戻れてホッとしていた。
「それに、今回はうちのリリィと協力して治療にあたっていたとは驚いたよ
実は、学園では犬猿の仲だった二人のことを心配していたんだ。
今こうして仲直りして協力していたのだな。聞いて私も嬉しいよ」
ヒースはリリィの話を信じ込んで、勝手に感心しているようだった。
「あ、ああ。そうですね。私も微力ながら協力できて良かったです」
「学園では色々とあったけれど、これからはお互い良き友として歩んで行ければと思っているんだ。
もし、私に何かできることがあれば、協力させてほしい」
そういて、ヒースは熱っぽい視線をこちらに向けてくる。
彼としては親切心のつもりで言ってくれているのかも知れないけれど。
その圧に少しだけ圧倒されてしまった。
「ヒース様、ありがとうございます」
とはいえ、これも私の考えすぎかなとも思ったので。
この件はあまり踏み込まないようにした。
** *
階段の上から、ロクサーヌは密かにヒースとマリアンヌのそんなやり取りを盗み見ていた。
様子を伺っている彼の背後に、不意にある人物が声を駆けてくる。
ロクサーヌが振り返ると、そこにはリリィが立っていた。
「ヒース様とマリアンヌ様は、相変わらずとても親しそうですね」
振り返ると、リリィが立っていた。
「――なにが言いたい?」
ロクサーヌは威嚇するような目でリリィを睨みつける。
リリィは取り繕うように笑みを向けた。
「そ、そんな、怖い顔をなさらないでくださいませ。思ったことを言っただけです~」
「君こそ、私の心配をしている場合か? マリアンヌから無理やり奪ったのでなければ、ヒースは君の婚約者のはずだ」
おまえがヒースの心を留めておけないでどうする、とロクサーヌはリリィを責めるような言い方になった。
「奪ったなんて、失礼ですわ。私はヒース様を心からお慕いしております。それはヒース様も同じはず」
リリィはそう言って、肩をすくめてみせる。
「それよりも、わたしはロクサーヌさまのことが心配なのです。ロクサーヌさまともあろう方が、どうしてマリアンヌ様にそこまで入れ込むのですか? ロクサーヌさまにはもっとふさわしい方がいると思っていましたわ」
そう言いながら、リリィが意味深に擦り寄る。
ロクサーヌはその意図を察したのか、静かに目を細めた。
「私がどれだけマリアンヌのことを思っているか、君には到底理解できないだろう。マリアンヌ自身でさえ、私の思いのすべてを受け止めきれるとは思っていない」
「――でも、それじゃあどうして」
「それでいいんだ。私は、たとえ偶然の産物だったとしても、一度でも自分の手中に飛び込んできたものを絶対に手放すつもりはない。本人が拒んだとしてもね」
ロクサーヌの瞳には、怪しげな光が立ち込めていた。
見る者を深淵まで引きずり込んでしまいそうな、底の深い微笑み。
リリィは、マリアンヌでさえ知らないだろうロクサーヌの底深い一面を垣間見て、思わず身震いした。




