王弟ロビンくん2
翌朝。朝食を済ませ、私室でロクサーヌさまとくつろいでいると、不意に扉をノックする者がいた。
「おねえさん!」
振り返ると、昨日のロビンくんだった。
私のもとに駆け寄るなり、いきなり抱きついてくる。
側にいたロクサーヌさまはそれをみてまなじりを吊り上げると、ひどく怪訝そうにそれを眺めていた。
「昨日はありがとう! おねえさんのおかげで、昨日初めて魔法を成功させることができたんだ。先生にも褒められたんだよ」
「そう、それは良かった!」
私はそう言って、抱きかかえていたロビンくんの頭を撫でてあげた。
昨日渡した薬が、ちゃんと効いたようだった。
「おねえさんがくれた、何事もうまくいく薬のおかげだね」
そう言って、ロビンくんはすりすりと私に擦り寄る。
「ねえ、おねえさん。もっとこのお城にいてよ。今日は僕と遊ぼうよ。また魔法を教えて」
「いいえ、残念だけど。私たちはそろそろ帰らないと――」
「えー、どうして? まだいいでしょう? ヒースお兄さまに頼んであげるよ、そしたらいいでしょう?」
(ヒース……お兄様……!)
彼の一言で、ようやく理解した。
ロビンくんは、どうやらヒース様の弟らしかった。
ゲームには登場していないキャラクターだから、わからなかった。
言われてみれば、栗毛色の髪に濃いブラウンの瞳は、ヒース王子によく似ている。
まだ幼いのに目鼻立ちは整っていて、将来を期待させるような容姿を備えていた。
「君は、ヒース様の弟くんだったのね。うーん、でもそういうわけにはいかないな~」
などと言いながら、ロビンくんにしがみつかれるがままになっていると――
ロビンくんが、ふと私の隣で面白くなさそうに睨みつけているロクサーヌさまに気づいた。
「この人は、だあれ?」
ロビンくんはロクサーヌ様の方を見上げて、少し怯えた様子で目を見開いている。
すると、ロクサーヌさまは不機嫌そうにロビンくんのことを睨みつけた。
「この方は、私の婚約者なの」
「婚約者……?」
たじたじとしながらそう答えると、ロビンくんは急に私の首に手を回してさらにしがみついてきた。
「おねえさん….僕この人なんだか怖いよ」
「えっ?」
「ねえお願い、こんな人の所へなんて言っちゃダメだ。
僕とずっとここにいようよ…」
ロビンくんは何故だか必死になって私に縋り付いてきた。
(ど、どうしちゃったの?)
「うるさいやつだ」
戸惑う私に対して、しばらく無言で眺めていたロクサーヌさまが、ここで突然立ち上がると、私にしがみついていたロビンくんを片手でひょいとつまみ上げる。
そのまま、ロビンくんを部屋からつまみ出してしまった。
再び静かになった室内で、ロクサーヌさまは不意に私の方に向き直ると、私の方を一瞥する。
「――何事もうまくいくようになる薬? そんなものがこの世に存在するはずがない」
「ああ、あれは実はですね――」
あっけにとられていた私は思い出したように、立ち上がった。
そして、昨日ロビンくんにあげたものと同じ水色の魔法薬を生成して、ロクサーヌさまに掲げて見せた。
「これは、実は薬でもなんでもないんです。ただの甘い味がする無害な液体です」
「薬ではない?」
「はい。要するに、思い込みですね。昨日の彼は泣き喚いて自信をなくしていたので、まずは元気を出してもらいたくて」
「では、本当は何の効果もないものを、薬として渡したと?」
「はい。うまくいくか私も半信半疑だったんですけど――あの様子だと効いたようですね!」
現代には、プラセボ(偽薬)という概念がある。
本来は何も薬効を含まない偽物なのだが、患者はそれを投与された安心感と思い込みから、本当に症状が改善してしまったりする。
期待する効果が患者の気持ちに左右されるような場合に、特に効果的なのだ。
ロビンくんに出会ったとき、彼の魔法がうまくいく薬を生成してあげたかった。
でも、それだともしかしたら彼のためにならないかも知れないという気持ちがよぎってしまって――とりあえず、彼を元気づけたくて一芝居打ってみた。
(彼を騙すみたいになってしまったけれど――うまくいったみたいで良かった)




