国王陛下との謁見
王宮に招かれた私たちは、国王陛下からの謁見を受けることになった。
しかしそこで私は、なぜか下男に呼び出されて、一人別室へ案内された。
男に案内された部屋に入ると——そこにはリリィが待ち構えていた。
「マリアンヌ、一体なんてことをしてくれたの!」
振り返れば、取り乱した様子のリリィが立っていた。
「えっ? 何のこと?」
「とぼけないでよ。なんで私を差し置いて、勝手に疫病の治療なんかしたの? あれは聖女である私がするはずでしょう?」
「えっ……ああ、ごめんなさい。ちょうど同じ疫病がアスタリスの所領内でも流行っていて、私が調合した回復薬で治療に成功したものだから——」
「余計なことをしないでよ! あなたのせいで、主人公の私の出番が奪われてしまったじゃない。私が治療して民を救うはずだったのに!」
(そんなこと言われても……もう遅い)
聖女の力すら使えないくせに、よく言う。でも、確かに少し出すぎたかもしれない。
「——たしかに、少し余計なお世話だったかもしれないわ」
それは認める。
「でも、あなたこそ次からはもっと迅速に動いてくれないと。
これは遊びじゃなくて、人の命がかかって——」
「私に指図しないでよ!」
リリィは私の言葉を遮って、怒鳴り声を上げた。
「これでは、またヒース様との仲が取り持てなくなるじゃない! 余計なことをしたのはあなたなんだから、落とし前をつけてもらうわよ」
(そんな無茶な……)
そもそも、この世界はすでにゲームシナリオとは別の方向に動き始めている。私はどういうわけかロクサーヌさまと婚約することになってしまったし、ロクサーヌさまも今のところとてもラスボスとは思えないヒーローぶりを発揮している。
「……どうしろっていうの」
「いい? 今回の疫病の治療、本来は私がするはずだったの。それをあなたが横取りしたわけ。だから、あれは私がやったことにして」
「はあ?」
もうだめだ。元から強引な子だとは思っていたけれど、これには付き合いきれない。
「流石に無理よ。私が病院で治療を施したことは、ロクサーヌさまもヒース様も知っていることなんだから」
しかし、リリィは一歩も引かない。
「そ、そこをなんとかしなさいよ!」
「そんなことを言われても……」
* * *
王宮の謁見の間には、私とロクサーヌさま、ヒース王子、そしてリリィが集まっていた。
「そういうわけで、今回の疫病の治療薬は——実は私がマリアンヌさんと協力して調合したものだったのです」
リリィはそう言って、張り切って周りに聞かせた。
「それは本当なのか?」
ヒースは驚いて目を丸くした。
「は、はい……。実はあの薬は、リリィと協力して調合していたもので。それを私が量産して配っていたのです」
あの薬の調合にリリィが一部協力していたことにする——それが私にできる最大限の譲歩だった。というか、それ以外に思いつかなかった。
リリィにああ言われたものの、私も別に彼女がヒースとの恋路を歩むのを邪魔したいわけではない。今回の件は、言われてみれば少々出しゃばりだったかもしれないとも思う。
「マリアンヌさんには魔法薬生成の魔力があります。それと、私に新たに目覚めた聖女の力。それを組み合わせることで、奇跡的に調合に成功したのですわ」
私の横で、リリィは張り切ってそう言ってのける。こちらの冷ややかな視線など、どこ吹く風だった。
「——本当にそうなのか?」
しかしここで、ロクサーヌさまが疑いの目を向けた。
「魔法を使用すれば痕跡が残る。あの薬にはリリィの痕跡など欠片も見当たらなかったが……」
「で、でも、本当ですわ……。私はマリアンヌとともに疫病を撃退するのに貢献したのです」
「まあ、良いではないか。二人がそう言っているのだし」
ここでヒースが口を挟んだ。
「リリィ、君がマリアンヌとともに治療薬を調合していたのは良かった。しかし本来であれば、これらはすべて君が対処すべきだっただろう。マリアンヌの力など借りずに」
痛いところを突かれて、リリィは口ごもった。
「君は今、王室付きの聖女を目指して鍛錬を積んでいるはずだ。それなのに、未だに成果が出ていない様子だな。少しはマリアンヌを見習ったらどうだ」
「……もちろんです。私もマリアンヌさんを見習って、鍛錬に励みますわ」
当初の目論見が外れて、リリィは結局ヒースに叱られるはめになってしまった。




