王都の疫病2
王都へ向かう馬車の中で、私は今回の疫病のことをひとり考え続けていた。
ゲーム内でも、王都に疫病が流行する事件が起きる。ゲームではロクサーヌの呪いが原因で、それをリリィが聖女の力で治癒するという展開だ。ゲーム後半でリリィは魔法を習得して聖女の力に目覚め、ヒースとともにロクサーヌから差し向けられる困難を乗り越えていくことになっている。
でも、王都の現状を見る限り、リリィはまだ動いていないようだった。
これまでシナリオをいくつか変えてしまったせいで、リリィが鍛錬をやめてしまったのだろうか。それとも、これから動くつもりなのだろうか。
(リリィが対応するつもりなら、私が先に動くのは余計なお世話かもしれない)
でも、少しでも貢献できるなら——そう思いながら、私は馬車の揺れに身を任せた。
* * *
「今回はくれぐれも無理をするな。所領内と違い、ここで病に倒れたら簡単には屋敷に戻れない」
「わかっています。もうあのような真似はいたしません」
また彼に看病されることになるのは、色々な意味で大変だ。言われるまでもなく、前回のヘマは繰り返すまいと心に誓っていた。
王都にたどり着いた私たちは、さっそく近隣の診療所へ向かった。中には既に大勢の患者が詰め込まれていて、皆が村での症状と同じ高熱に苦しんでいる。
私はスタッフに事情を説明してから、回復薬の調合を始めた。
どんどん薬を生成して、温室で採取した薬草の搾り汁を加えていく。葉を一枚ちぎって瓶に入れると、みるみるうちに薬液が濃いオレンジ色へと変わった。
「この薬草を加えることで、中の薬の効果が増強されます」
魔法を使うにはMPが必要だ。単純な薬であれば連続で百人分ほどまで生成できる。でもそれ以上は限界が来る。だからこそ、この薬草との組み合わせが重要だった。
「これで、一度に大勢の方に服用させることができます」
出来上がった濃いオレンジ色の強化魔法薬を小さな小瓶に分けて、診療所の看護師たちに配っていく。最初は見知らぬ貴族二人組に首をかしげていた看護師たちも、私が魔術師だとわかると快く協力してくれた。
「なんと……本当にあっという間に病が治ってしまいました」
「王室の役人たちは、ずっと何の支援もしてくださらなくて困っていたのです」
「貴方様が来てくださらなければ、助からなかったかもしれません。本当にありがとうございます」
ここにいる患者全員に薬を飲ませ終えると、皆たちまちのうちに元気を取り戻した。薬草を使った強化魔法薬も、期待した通りの効果を発揮してくれたようだ。
ただ、診療所のスタッフの話を聞く限り、リリィたちや王室の役人たちは、私が来るまで何ら対応をしていなかったらしかった。
* * *
無事に治療を終えて、帰り支度を整えて診療所から出た矢先——。
外に、王室の紋章を付けた大勢の衛士たちがやってくるのが見えた。
「マリアンヌ? 一体どうしてここに?」
衛士たちを伴って現れたのは、ヒース王子だった。
ヒース様は私たちを見るなり、明らかに警戒の色を浮かべた。
「屋敷に戻ったのではなかったのか。ここは疫病が蔓延している危険なところだ。どうして君たちが……」
私はヒース様にこれまでの経緯と、診療所での治療のことを説明した。
「というわけで、ここにいる患者の治療は終わりました。もう心配いらないと思います」
ヒース様は目を見開いた。
「まさか、君がここにいる患者を全員治療したというのか?」
「はい。所領内で流行っていた病と同じものでしたので、難しくはありませんでした」
「そうだったのか……。世話をかけてしまったな」
ヒース様はそう言って肩を落とす。そばでやり取りを聞いていたロクサーヌさまが横槍を入れた。
「全くだな。本来これはお前が対処すべき問題だろう。中央政府は怠慢ではないか」
「……確かに、我々はこの疫病への対応に苦慮していた。治療士が治癒を施しても感染者が増え続けて埒が明かなかった。治療魔法では歯が立たないので、近々王室の聖職者や聖女たちを集めて祈祷を行い、鎮めようとしていたところだったんだ」
聖女、という言葉に私はハッと息をのんだ。
ゲームシナリオでも、この病は治療魔法では対処できない。だからこそリリィの聖女の力が重要になるはずだったのだ。
「君たちが来てくれなければ、もっと深刻なことになっていただろう……」
ヒース様は素直に詫びた。
「いえ、とんでもありません」
そう答えながら、私は複雑な気持ちを抱えていた。
(ゲームどおりであれば、本来ここはリリィがなんとかすべき場面だったはずだ)
一体彼女は今、何をしているのだろう。私は少しだけ心配になった。
「患者の治療は済ませました。薬も余分に備蓄しておきましたので、また何かあればお使いください」
そう言って、余っていた薬の瓶をヒース様に差し出した。
「では、私たちはこれで——」
「ちょっと待ってくれ」
その場を去ろうとした私たちを、ヒース様が引き止めた。
正式にお礼がしたいと言って、私たちを王宮に招きたいという。
こうして私たちは、再び王宮を訪れることになった。




