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ヒロインに悪役を押し付けられた悪役令嬢、追放エンド後にラスボスの悪役公爵さまに愛重めに囚われる  作者: 秋名はる


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王都の疫病

村の疫病を沈めてからしばらく経ったある日のこと。

使用人たちが、また噂をしているのを小耳に挟んだ。


「なんでも、アスタリスで猛威を振るっていたあの疫病が、今度は王都周辺でも蔓延し始めているとか……」


* * *


一方そのころ、王宮の一室でヒースとの婚約生活を謳歌していたリリィは、内心ひやりとしていた。


(アスタリスで流行っているはずの疫病が、どうして王都にまで広まってしまったの?)


実は、あの疫病はリリィが密かに撒いたものだった。


婚約宣言のイベント以来、マリアンヌとロクサーヌが辺境でのんびり過ごしているらしいという話を耳にした。それがどうにも癪に障って、少し意地になってアスタリスの地に疫病を放ってやったのだ。


(マリアンヌが、私を差し置いて辺境でよろしくやっているなんて……本当に腹立たしいわ)


そこまでは良かった。でも、病原菌の一部が王都周辺にまで広がってしまったらしい。


まずい、と思わないでもない。ゲームシナリオと酷似した展開だ。ゲームでは、ロクサーヌが王都周辺に疫病を蔓延させて町が大混乱に陥る。それをリリィが聖女の力で撃退し、民を救う救世主となる——それがハッピーエンドへの通過点のはずだった。


しかし、この世界に来てから、リリィは一度も聖女の力を使ったことがない。これまでは、危ない場面でマリアンヌに口裏を合わせてもらえば事足りた。マリアンヌが自分から打ち負かされるムーブをしてくれていたので、何もしなくて済んでいたのだ。


今更、急に魔法を使えと言われても、できる気が全くしない。


(まあでも、もうシナリオはめちゃくちゃだし、どうにかなるでしょ)


ロクサーヌとマリアンヌが婚約するなんて、ゲームにはなかった展開がすでに起きている。婚約宣言のイベントでも、ゲーム通りにロクサーヌが会場に乗り込んでリリィたちを妨害するどころか、逆に助けるような行動に出たのだ。


(これだけシナリオが崩れているなら、もうわざわざ私が動く必要もないんじゃない?)


疫病だって、王室には魔術師が大勢いる。自分が動かなくても、誰かがどうにかしてくれるはずだ。


そう楽観視して、リリィは深く考えるのをやめてしまった。


* * *


村の疫病が収まってからしばらく経ったころ、先日報告に来た役人が再び屋敷を訪ねてきた。


「先日、町を襲った疫病は、無事に収束へ向かっているとのことです」


「そうか」


「なんでも、奥様が自ら町に出向かれて治療を施してくださったとか。町の住人たちも、感謝に耐えない様子でございました」


「それはよかったな」


ロクサーヌさまはそう言って、私の方に視線を向けた。

私はなんとか微笑みを作って頷いてみせた。


疫病が無事に収まったのは本当によかった。自分の力が役に立ったことが、心から嬉しい。


ただ……不覚にもあの後自分が感染してしまったし、そのまた後に色々な意味で色々あったので、どうしてもロクサーヌさまと視線を合わせることができなかった。


「しかしながら」


役人の男が急に真剣な声を上げたので、私は現実に引き戻された。


「先日村で流行ったあの疫病なのですが、今度は王都周辺でも蔓延しているそうなのです。所領内ではマリアンヌ様の働きにより封じ込められましたが、王都では感染者がどんどん増えているとのことで……王都周辺へ向かわれる際は、くれぐれもお気をつけください」


そう報告をまとめて、役人の男は屋敷を去っていった。


* * *


その話を聞いた瞬間、私はまた落ち着いていられなくなった。


すかさずロクサーヌさまの方へ向き直る。


「ロクサーヌさま——」


「はあ……まったく、君はお人好しにも程がある」


私が口を開くより先に、ロクサーヌさまは大げさなため息をついた。


「このままでは、再び病魔に苦しむ人々が大勢出てしまいます」


「それがどうした。前回は所領内のことでもあり特別に許可を出したが、自分と関係のないことまで気にかける義理はない」


ヒースたちへの不信感は、まだ根強く残っているらしい。


「でも、その病気は村で流行ったものと同じです。私なら治せます」


王都の疫病イベントは、ゲームでもリリィたちを襲う試練として描かれていたものだ。ゲームではロクサーヌが黒幕で、リリィが聖女の力でこれを救う——という流れになっている。


本来であれば、これはリリィがなんとかすべき問題だ。でも、村で実際に疫病を撃退した実績がある私が、黙って見ていることはどうしてもできなかった。


「前回、意気揚々と出かけていったものの、帰ってきて自分が病に倒れたばかりではないか」


「そ、それは……」


痛いところを突かれて、言葉に詰まる。


「で、ですが——今回は考えがあるのです」


「考え?」


「以前、温室で栽培していた薬草のことを覚えていらっしゃいますか?」


訝しむロクサーヌさまに、私は畳み掛けた。


「あそこで育てていた薬草の中に、薬の効力を増大させる種類があるのです。ちょうど今が収穫時でして。それを使えば、今までとは比にならない効率で魔法薬を生成できます」


かねてより屋敷の温室で育ててきた薬草たち。マリアンヌのスキルなら薬草がなくても調合はできる。でも、一瓶で必ず一人分という制約がある。


「温室の薬草と組み合わせることで、一瓶で十人分の薬効に増強できるのです」


私はロクサーヌさまの前に一歩踏み出した。


「もっと多くの人を救えます」


「……まったく、どこまでお人好しなのだか」


呆れながらも、私の勢いに押されたのか。ロクサーヌさまは渋々と王都行きを許可してくれた。今回も、心配性の彼が同行することになった。

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