主人公”リリィ”の正体
「マリアンヌさん、放課後、二人きりでお話ししたいことがあるのです。
少しだけお時間をいただくことはできませんか?」
放課後――。
やっと授業が終わったと安堵していると、なんと突然、後ろからリリィが声をかけてきた。
もちろん、通常のストーリーではこんな展開はない。
私は飛び上がって警戒したが、誘いを断る理由もないので渋々ついていくことにした。
人気のない校舎の裏側に来ると、リリィは言った。
「ねえ、あなた、あなたも転生してきたんじゃない?
本当は私と同じ現代人なんでしょう」
「げ、現代人……!?」
リリィは、おおよそ私の知っている主人公”リリィ”とはかけ離れた声色で言った。
(…どういう事?)
突然のメタ発言に私は混乱してしまった。
「えーっと…それは_」
「隠そうとしても無駄よ。
あなたは、本当はマリアンヌなんかじゃない。私にはお見通しなんだから」
そう言って、リリィは私に詰め寄った。
(ちょっと待って_)
「_ということは、もしかしてあなたも本当はリリィじゃないの?」
「_やっぱりね。」
私の言動に、リリィは一人合点がいったように呟く。
「そうだよ。 私も転生してきたの。
まさか私の推しゲームの主人公に転生できるなんて、びっくりよね!」
リリィは認めた。この世界に、自分以外に転生者がいたなんてびっくりだ・・それも主人公。
でもたしかに、私が異世界転生することができたのだから、他の登場人物だって、転生して来ていないとは言えない。
「でも、どうして私が現代人だと分かったの?」
「そんなの簡単よ、朝の入学式の場面で気がついたの。
あなた、わざとストーリー回避して逃げたでしょう?」
どうやらリリィの子は、朝のあの一幕で、私がストーリー通りの行動を取らなかったことに感づいたようだ。
「ああ、それで」私は納得した。
「だって、仕方がないじゃない。この世界がゲーム通りなら、マリアンヌが幸せになれる結末なんてほとんど無いんだから。ゲームシナリオ通りに進めるわけにはいかないわ」
私が必死に訴えると、なぜだかリリィはとても不機嫌そうにした。
「……困るのよね。」
「えっ……?」
「だって、私は主人公なのよ? 憧れてたゲームの主人公に転生したのに、あなたがちゃんと悪徳令嬢ムーブしてくれないと、私が推しとの接近チャンスを逃してしまうじゃない!」
「……どういうこと?」意味がわからなかった。
「あなたがストーリー通りにヒース様をけしかけてくれないと、私はヒース様に印象が残らないの。
朝のあの時、あなたが展開無視して去っていってしまったせいで、本来なら私がヒース様からもらうはずだった“気遣い”とか“心配”とかのセリフがなくて、そのまま解散しちゃったのよ。
これじゃあ、ただの “モブキャラ” と一緒じゃない!!」
リリィ役の子は今朝のやりとりを思いだして、かなり苛立っているようだった。
なるほど、そういうことか。
物語の構成として、マリアンヌが妨害を行うからこそ、主人公リリィはそれを乗り越えてヒース様との仲を深めていく。私がそれをしなければ、リリィはヒース様から特別な感情を抱かれない――ということになるわけだ。
「それは、申し訳ないと思うけれど。でも私も気持ちもわかってほしい。
だって、ゲーム通りに進んだら、わたしはあなたに断罪されて、最悪命を落とすることになるのよ」
主人公展開を期待していたリリィには申し訳ないけれど、あなたと違ってこっちには生存がかかっているのだ。ストーリー通りに進むわけには行かない。
「そんなの私の知ったことじゃないわ。
そもそも推しゲームの登場人物に転生したのに、既定ルート無視するなんて、ファンのすること?」
「ええ……」
そう言われてしまうと‥私は返す言葉がない。
「でもまあ確かに、あなたの気持ちもわからなくはないわ。
わたしは運良く主人公に転生できたけれど、あなたはなんだか災難だったわね」
リリィは一瞬だけ、私に同情するような視線を向けた。
しかし、すぐに嘲笑するような笑みに変わり、一歩前に出て私にこう畳み掛けてきた。
「諦めなさいよ。私のハッピーエンドを叶えてくれたら、あなたも滅亡エンドだけは回避してあげるから。それよりも、私の言う事を聞かない方が、あなたは後悔することになるわよ。」
「どういうこと?」
「いい? あなたはどうあがいても悪徳令嬢マリアンヌなの。
この話は、基本的にストーリー通りに進むように他のキャラクターが動くようになっているみたいだし。あなたが実際にやったか、やらなかったかなんて、第三者から見れば関係のないことよ。あなたは悪役であることからは逃れられないの。」
私はリリィの言っていることの意味がいまいち掴めなかった。
「まあ見ていなさいよ。また明日、来てみたらわかるわから。じゃあね。」
そう言って、リリィは去ってしまった。




