ヒースさまの思惑
夜会の夜は更けていく——。
会場には、リリィとヒース王子も揃って姿を現していた。
参列者からの挨拶を受けていた時、ちょうどそこへマリアンヌとロクサーヌが会場へ入ってくるのを見て、リリィは密かに唇を噛んだ。
(まさか……ロクサーヌの素顔があんなにも美形だったなんて……聞いてないんだけど!)
リリィの思惑通り、マリアンヌはロクサーヌと婚約した。それ自体は、うまくいったのだろうが。リリィにとっては、なんだか腑に落ちない結果となってしまった。
心の奥底では、リリィはマリアンヌを陥れて自分だけ良い思いをしようと思っていた。
なのに、全てが逆転してしまったような気にさせられている。
それに、ロクサーヌさまは今回の魔物の件で救世主となった。会場からは先程からロクサーヌさまを称える声が後を絶たない。
(これじゃあ、まるで主役の座を横取りされたみたいだわ)
ゲームシナリオ通りに魔物を打ち倒す必要がなくなったのは良かったけれど。そのせいでリリィの存在感は薄れてしまっているように思えた。
(主人公の私を差し置いて目立とうとするなんて、生意気な!)
リリィは一人憤慨していた。自分は主人公に転生したのだ。あちらは所詮悪役。主人公の引き立て役に過ぎない脇役のはずだ。
(このままでは終わらないわ…
すぐにでも私の世界を取り戻してみせる)
リリィは密かに新たな策を企てていた。
* * *
ロクサーヌさまは、昼間の式典で魔物の討伐をした救世主ということもあり、会場では人気者になっていた。
また、彼はいつもは仮面をかぶって素顔を見せないことで知られており、そんな彼が彼が仮面を取ったことで、更に人々の興味をひいていた。
彼は、そんな人々への対応に追われて忙しそうにしていたので、私はロクサーヌ様に一言言ってから、先に会場を後にすることにした。
私達は今晩は客人として王宮に一泊することになっていた。
私は、一人会場を出て自室に戻ろうと廊下を歩き出す。すると、突然背後から声をかけられた。
「マリアンヌ、少しだけよいかな」
振り向くと、そこにはヒース王子が立っていた。
「ヒース様、どうかいたしましたでしょうか」
私は振り返って首を傾げる。
目の前にいるヒース様は、なぜだか真剣そうな面持ちだった。
「君に直接確かめたかったんだ。
君は本当に、ロクサーヌと婚約するつもりなのか?」
「……それは、どういう意味でしょうか?」
「リリィのためとはいえ、君を学園から追放してしまったことは悪かった。もし、そのせいで君が彼に取り入るしか方法が無かったのだとしたら、私にも責任がある」
ヒースさまはうつむきがちに言った。
それは、ヒース様なりに突然婚約した私のことを心配しているように思える。
しかし一方で、それはまるで今まではあんなに自分のことを慕っていたのに、急に心変わりをしたことが信じられないでいる。 というようにも聞こえた。
「ご心配には及びません。私はヒース様に学園を追放されて、ようやく目が覚めました」
そもそもヒース様に対して特別な思いはない。彼には悪いけれど、あれはリリィに強要されて行ったに過ぎなかった。
「追放先でしばらく頭を冷やして、あなたのことはきっぱりと諦めが付きました。ですから、ヒースさまもリリィさんと幸せになってください」
私はキッパリと言った。
ヒースさまは目を丸くしていた。
「そ、そうか、それならいいんだ。
今言ったことは忘れてくれ」
そう言うと、ヒースさまはぎこちなく私の前から去っていった。




