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悪役を押し付けられた悪役令嬢、追放エンド後にラスボスキャラの悪役公爵さまに溺愛されてしまう  作者: 秋名はる


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マリアンヌが婚約したらしい

国王陛下への報告が一通り終わると、不意にヴィクトルがこんなことをいい出した。


「そういえば。先日、マリアンヌを辺境まで捜索しに行ったのですが——彼女を、ついに見つけました」


「なに、それは本当か!?」


思わずヒースが身を乗り出した。

実はヒースは、マリアンヌを追放してしまったものの、一方で彼女の身を案じていた節があった。

たとえリリィの身が危険にさらされていたために仕方のないことだったとしても、辺境の地に追放してしまうのは、やり過ぎではなかったか——と思い悩んでいたのだった。


「一体どこに、彼女は無事なのか!?」


「無事でいることは確かです。

 しかし、少し複雑な状況に置かれていまして——」


ヴィクトルが眉をひそめた。


「複雑な状況?」


「はい。彼女は今、どうやらアスタリス公、ロクサーヌのもとに囚われているようなのです」


「なに、ロクサーヌだと!?」


ロクサーヌという名前を聞き、ヒースが目を見開く。


「——確かに、かの地はあいつの所領内だったな」


苦々しげに呟くと、彼はなにやら考え込む。


思い出されるのは、マリアンヌに追放を言い渡したときのことだった。

彼女を学園から退学にさせるだけではなく、辺境の地へ追放するよう提案したのは、外でもないリリィだった。リリィは、今までのマリアンヌからの数々の妨害行為に対して、これ以上は我慢できない、とヒースに詰め寄った。


しかし、ヒースは当初、マリアンヌを辺境に追放するという処罰に難色を示した。それでも、リリィが強く要望して彼を説得したのだった。


「あいつの手中に囚われたということは、マリアンヌを連れ戻すのは容易ではないようだな」


ヒースは、そう言って肩を落とす。

ヒースとロクサーヌとは、お互いの家同士で確執があった。アスタリス公爵家は長らく国王陛下との間に因縁があり、そのためにロクサーヌはヒースだけではなくその周辺の貴族たちにも妨害を働く事があった。


「ヴィクトル、今回のことは非常に残念だった。

しかし、わかってほしい。私としても、今回のマリアンヌに対する処罰は、致し方のないことだったのだ」


「もちろん、殿下のご意向とあらば反抗する気はございません。

 妹も今回ばかりはやりすぎたのでしょう」


ヴィクトルは内心、腸が煮えくり返る思いだったが、表面上は冷静に取り繕った。


「それに、今回は少々状況が複雑なのです」


「——? というと?」


「私は自ら屋敷に赴き、マリアンヌを連れ戻そうと交渉しました。

 しかし、どうしてだか、外でもないマリアンヌ本人が帰りたくないと言ったのです」


「それは、一体なぜだ?」


ヒースは首をかしげた。


「殿下は、ご存知でしたでしょうか。

実はロクサーヌ公と、妹のマリアンヌは、許嫁の関係にあるのです」


「それは本当か」


ヒースは驚愕の声をあげる。

隣で聞いていたリリィも、思わず目を見開いた。


(マリアンヌとロクサーヌが、許嫁ですって?)


そんな事実はゲームでは一切語られていない。

マリアンヌは所詮、ゲーム前半の攻略キャラクター。後半でロクサーヌを攻略するストーリーが始まると、彼女はもうゲーム内には登場しなくなる。当然、マリアンヌとロクサーヌに接点があるような描写は一切なかった。


「殿下がご存じないのも無理はありません。

 アスタリス家とヴァロア家との縁談は、マリアンヌがまだ生まれる前に、お互いの親同士が決めたことだったのです。しかし、アスタリス家が王政府との関係を悪化させたために白紙になったとか」


「そんな話があったとはな」


「ロクサーヌは、その話を今更蒸し返してきて、マリアンヌを屋敷に留め置くと言いました。

 マリアンヌは、どうやらそれに同意していたらしいのです。なんでも、しばらくは王都には戻りたくないと言って」


ヴィクトルは苦々しげに呟いた。

彼が一番、マリアンヌを連れ戻したいという思いが強かった。


* * *


二人のやり取りを聞いて、リリィは一人考えを巡らせていた。


(マリアンヌが、ロクサーヌと婚約?

 あの子、一体なにを考えているの)


どうやらマリアンヌは、リリィの思惑通り、ロクサーヌの屋敷に潜入することには成功したようだった。


(でも、まさか彼女が、ロクサーヌと婚約してしまうなんて——)


これは、リリィにも予想外だった。

マリアンヌは本当に律儀に、リリィの言いつけを守ってロクサーヌに取り入ろうとしたのだろうか。それとも、ロクサーヌがヒースに近しい存在であるマリアンヌを解放しないために、もっともらしい理由をつけて引き留めているのか——。


でも、わざわざヴィクトルが救出に来たのに、自ら帰ろうとしないなんてことがあるだろうか。


(……まさか、あの子)


リリィの頭をよぎったのは、彼女が危惧しているもう一つの可能性についてだった。


(もしかしたら、マリアンヌはロクサーヌに寝返り、リリィへの復讐を企てているのかもしれない…)


でも、あのマリアンヌが?

リリィが少し脅しただけで簡単に折れた、あの気の弱い子が?


(……ありえないわ。あのお人好しが、そう簡単に私を裏切るはずがない)


自分にそう言い聞かせながらも、リリィの胸の奥にはどこか落ち着かない。

思えば、軽はずみに彼女を追放してしまったけれど、もう少し彼女を自分のもとに取り込んでから送り出すべきだった。と、リリィは今頃になって後悔し始めた。とはいえ、それを今更後悔しても遅い。



(……まずは、どうにかしてマリアンヌと接触して、彼女の真意を確かめる必要があるわね)


リリィは、胸の内で新たな策を練り始めていた。

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