帝国総力戦委員会
こういう小難しいパート、個人的には好きなんですけど、知人からまどろっこしいと言われてしまいました。悲しいですが、web小説に求められているものと、真の意味での小説に求められているものは違いますからね…
それはそうと、今回は娘大好きパパのリーベルトが、色々とはっちゃける回です。こんな感じの話も、個人的には好きなんですけど、万人受けはしませんよね…ですが、私は書きます。きっと、このロマンを分かってくれる人が見てくれると信じて!
「まんまと騙されたわ、リーベルト。結局は、全て貴様の手のひらの上だったというわけだな?」
「それについては否定しない。いいじゃないか、これくらい、貴族の間ではよくあることだ」
私は帝国総力戦委員会でC軍集団の名を借り、レーリッヒの隣に腰を下ろしていた。隣からは私に対する恨みがつらつらと述べられているが、これは今に始まったことではない。厳粛な雰囲気を崩さないように気を付けつつ、レーリッヒに対して適当な返事を返す。
「それに、表面上ではC軍集団の新大陸撤退は全てお前の英断となっているんだ。もう少し堂々としていろ。世界大戦の英雄様がそうビクビクしていては、みっともないぞ?」
さて、ここで私の企みの一部を公開しておこう。私は側から見れば娘であるアレクトの徴兵と同時に重い腰を上げ、軍部に復帰した奇妙な人間だが、ここには少しだけ人の思惑が取り除かれている。それは、ヴエルフォードと、レーリッヒ、二人の策謀だ。
それにはまず、アレクトの死後のことについて語らなければならない。A等級の魔導兵として出荷されるはずだったアレクトは、どこからともなく現れた謎の軍人によって射殺された。アレクトの側仕えであるラクーシャも腹部を負傷したが、その直後、銃声を聞いた私の護衛兼従者であるロインがアレクトの私室に突入し、有無を言わさず侵入者を撃ち殺した。私も後から現場に向かったが、彼が身につけていた衣服以外、侵入者の痕跡はなかった。ロイン曰く、骨董品のマスケットで心臓を撃ち抜くと、体は塵になって消えていったらしい。私も最初は訝しんだが、確かに貫かれていたどこの国かわからない軍服と、その場に居合わせたラクーシャの証言もあり、納得せざるを得なかった。
しかし、侵入者を排除することには成功したが、それで万事解決というわけには勿論いかない。鮮血を撒き散らし、だたの美しい肉塊となったアレクトは二度と戻ってくることはなく、そしてラクーシャの腹部に突き刺さった幾何学模様を空へ放つ短剣は力技では一向に抜けそうになかった。そこに、救世主であり、諸悪の根源であるヴエルフォードは現れた。ロインが彼女を取り押さえ、地面に頭を下げても、彼女は飄々とした態度を崩すことなく、「私はリーベ家に害をなすものではありません」の一点張り。私はインコよりもよく鳴く彼女に嫌気がさし、渋々拘束を解かせた。
「いやあ、助かりました。お礼にそこのメイドの短剣を抜いて差し上げましょう」
などと、ふざけた態度ではいたが、ヴエルフォードは確かにこの混沌とした現状を解決する手段を持っているようだった。「ここに名前を入力」は護衛として彼女へ敵意を向けたままだったが、私は全てが丸く収まることを期待して彼女の手を取ることにした。…今思えば、その判断こそが、誤りだったのかもしれないが。
「閣下には、別の意味で閣下になってもらいたいのです」
「お前は私にもう一度人を殺せと言うか」
「いえ、確かに結果的にはそうなるかもしれませんが、私が望むのは別のこと。私は帝国舞踏会に少しばかり顔を出してみたいのです。ですから、かつて連合王国を屈服せしめた閣下の派閥の一端として…」
「C軍集団の影響力を拡大しろと言うことか。それも、舞踏会に出たいということは旧大陸で」
ヴエルフォードは私の言葉に首を縦にも、横にも振りはしなかったが、沈黙は肯定だ。つまり、私は一つ国を裏切る企み事をしなければいけなくなった。
「それで、ヴエルフォード。貴様は私に何ができる?いくらでも変えのいる従者一人救った程度で、私にこれほどの対価を請求するつもりとは言うまい」
「勿論ですとも。むしろ、ここからが本題であります」
ヴエルフォードはサイズの合っていない白衣で眼鏡を押し上げ、静かに笑った。
「閣下の娘であるアレクト様、彼女の遺体をいただけるのでしたら、私が魔導兵として復活させてみせましょう」
こうして、私はヴエルフォードにオールインすることにした。物言わぬ骸となったアレクトが生き返るのならば、あの時の私はどうでも良かったのだろう。そして、あの時から私はアレクトの姿を見てはいないが、ヴエルフォードからの報告書ではアレクトは現在、私の手配した船によって旧大陸へと向かっているらしい。要人救出用の船を用意したのはこのためだったのかと、あの時の私は察しが悪く、疑念の後に驚かされた。
次に、ヴエルフォードの要望を叶えるに際して障壁となったのがレーリッヒの存在だ。彼と私は長い付き合いで、私が軍から一歩退いた後も個人的な交流はあったが、しかし、彼の牙城を崩すのならば話は別だ。下手に手を出せば苛烈な反撃を受けることになる。
そこで、私は第一軍のヘルモルクを企み事に誘うことにした。彼は私の話をきくなり面白そうだからという理由であっさりと共犯となってくれた。彼には裏方で撤退のための兵站を用意してもらい、そしてランカラに残存する帝国第二艦隊ともコンタクトを取る役割を任せることにした。その間に私は旧大陸でゴッドバル少将と接触し、C軍集団を安全に旧大陸まで輸送する手筈を整えた。そして、来たるランカラ強襲に呼応するようにしてC軍集団を全面的に後退。レーリッヒはその時点で私が裏にいることを確信していたらしい。しかし、時すでに遅く、空間を犠牲にすることでC軍集団主力は無傷で撤退。ちなみに、企みに協力したことがバレたヘルモルクは罰として反撃用の橋頭堡の防衛を任されているようだが、奴も最後の最後で詰めが甘いな。
「今更貴族界に手を出そうとしているようだが、一体どういうつもりだ?歳をとって、保身に走りたくなったとは言わせないぞ?」
「なに、恩を仇で返さないために少しばかり場を整えてやる必要があるだけだ。それと、私の娘のキャリアの為」
「だろうな。そうでなければ、わざわざ私の軍集団を巧妙に操って旧大陸まで引っ張ってくる必要などないのだから」
不機嫌なレーリッヒに溜息を下しつつ、葉巻に火をつけ、愚鈍な輩の舌戦を拝聴する。まだ、まだ私たちの出番ではない。かつては真に帝国のためであったこの場も、たった十数年ですっかり醜いものになってしまった。事実として確かに私も随分と打算的にはなったが、それでも、決して利己的ではないと断言することができる。C軍集団を食わせるためという、表立っては正当な理由が。
「本来ならば我々は叱責される立場にあるのだが、そこをなあなあにし、それどころかB軍集団と、海軍に罪を擦り付けたことは評価しよう。私も彼らに不満を持っていたことは確かだ」
「まあ見ておけ。私がここに来た以上、結末は既に決まっている」
「何を戯けたことを…おい待て、リーベルト、正気か?」
襟を正し、少し大げさに喉を鳴らして立ち上がる。空気の読めない行動に辺りは静まり返り、衆目がただ私のためだけに注がれているのだと実感することが出来る。
「陛下!これが、本当に本来の帝国の姿でしょうか!?」
レーリッヒが頭を抱え、何も知らされていない周囲の人間は騒然とする。陛下は、いや、あのふざけたヴィルフリードはこちらを睥睨し、眼光はひそかに光を放っているかのようにも見受けられた。
「剣神アルテーヌが、陛下を信じる臣民を守るために創設した強靭な軍隊が、このありさま!我々が、いったい何のために旧大陸から引き揚げてきたのか、旧大陸の皆様も、そして陛下も。心得ていないように思えてなりません!」
「リーベルト、陛下に対して不遜であるぞ」
「黙れ、オルクレイヴェルの若造が。むしろ、小僧は何も思わないのか?この現状が、いかに帝国にとって恥であるのかを」
「それは、C軍集団が新大陸からのうのうと帰ってきたからでは…?」
「ふっ、近衛も所詮は戦争を知らぬ英雄気取りか」
何も知らない若造が、まんまと土俵に上がってきたその間抜けさに、思わず嘲笑が零れる。レーリッヒも一周回って口角を上げているようだし、このまま続けてしまっても問題ないだろう。戦争を名誉や誇りがどうかで語ることがそもそも時代遅れなのだ。戦争をするのならば、国家という強力な枠組みの中で、はっきりと目的を見据えて遂行しなければならない。世界大戦では帝国だけが見通しを持っていたからこそ、三対一でも見事辛勝を掴み撮れたのだ。
「ガーデムハイル、下がってよい。それで、リーベルトよ。つまり其方は何が言いたい。ただ余の大切な護衛を貶すためだけにこのような真似をしたわけではあるまい」
「勿論でございます。陛下、確かに我々はいくら援助を乞おうと、新大陸だからという理由で後回しにされてきた現状を訴えるためにこちらに戻ってきたことは事実でございます」
「そうだな。其方はC軍集団の勝手な引き揚げの理由をそう強調してきていた。そのことについては余から謝罪しよう。同じ軍集団であるにもかかわらず、新大陸だからという理由でC軍集団はないがしろにされ続けてきた。そして、撤退時の綿密な行動については、英雄勲章を授けても良いかもしれんな」
「陛下、そのような決定をそうやすやすと口になさっては…」
ヴィルフリードはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、再びこちらを睥睨した。どうやら陛下にも、面倒に思うものは存在しているらしい。天上の存在がくだらないいざこざで人の目からも分かるような諍いを起こしているのだから、当たり前と言えば当たり前かもしれないが。
「三千年もの間、世界を北端から見守ってきた我々には、ひとつ、お灸を据えなければならない不届き者が存在するではありませんか。南西の海の先に、我々の世界大戦を辛勝たらしめたあの王国が!!」
「ほう?今ではかの国の細い航路に輸入品のほとんどを頼っているにもかかわらず、何をする気だ?」
こちらの言いたいことを理解したヴィルフリードは、愉快そうに質問を投げかける。私はダンッ、と机を飛び越え、衆目に晒されながら宣言する。
「機は熟しました。陸海空全ての軍勢が、十分な余力を残している今、ここに奏し上げましょう。王国への奇襲計画」
「ヒデルガンド作戦を!」




