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異世界戦線  作者: Chira
第二部 二柱の女神
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五大貴族と五本の剣

「イルトリア、一つ質問したいことがあるのですが、いいですか?」


お茶会も終盤に差しかかり、後はどうやってこの場がお開きにするかタイミングを互いに掴み損ねていた頃。私は一つ喉に突っかかっていたものを思い出し、悩んでいても仕方がないといっそイルトリアに聞いてみることにした。彼女はあまり男勝りな趣味を持っているとは思えないけれど、もしかしたら何か知っているかもしれない。


「まあ、お義姉さまのお役に立てるのでしたら何でも大歓迎です」


手を合わせ、嬉しそうにはにかむイルトリアに私は小さく頷き、エルに視線を送った。エルは急な出来事に驚きながらも、すぐに私が望んでいることを察してくれた。私の傍に歩み寄り、一振りの剣を私に差し出す。


「…まあ、その剣は?」


「『王子』というネームドから取り返した剣です。どうやら名だたる名剣らしいのですが、私にはその剣がどうしてそのような評価を受けているのか分からず…イルトリアは何かご存じありませんか?」


魔力を流すと仄かに光り出すことは伏せつつ、イルトリアに剣を渡す。彼女は剣を鞘から少しだけ出したり、柄や鍔の装飾を眺めたりしながらしばらくその剣を堪能すると、ふと、何かを確信したかのように顔を上げた。


「爺や、爺やを呼んでください!」


イルトリアは給仕をしているメイドを呼び寄せると、そう言って解き放った。彼女がメイドを行かせて間もなく、港でイルトリアに付き添っていた執事が部屋に入ってきた。二人は剣を見ながら何か小さな声で話し合い、そして時折こちらの表情を窺ってきた。私は少し首を傾げて「待ってますよ。早くしてください」と態度で示しながら話し合いが終わるのを静かに待つ。


「…お義姉さまはリーベ家を継ぐ気でいるのですよね?」


「まあ、そういうことになっていますね。本心を言えば、女である私が家を継ぐなど、面倒なことになる気がしてならないのですが」


テレキアは私の話を複雑な表情で聞くと、剣を私に返してくれた。クランハルトは沈黙を貫いている。さしずめ我関せずと言ったところだろうか。


「そちらの剣は、もしかすると原初の五剣が一振り、ケトゥーヴァかもしれません。私も爺やもそこまで剣に詳しいわけではありませんが、一度本でそのような形の剣を見たことがあります」


「原初の五剣とは、あの、剣神アルテーヌが帝国を護るために生み出したあの五本の剣のことですか?」


私の質問にテレキアは首をコクコクと縦に振った。原初の五剣とはその名の通り剣神アルテーヌが最初に作ったとされる五本の剣のことだ。リーデンブルグで初代皇帝が建国の儀を行った際に、アルテーヌが国に必要な五つの要素をそれぞれ剣に込めた。剣は三千年の歴史の中でそれぞれ行方が有耶無耶になっていたが、まさか『王子』がその剣の内の一本を持っていたとは。


「原初の五剣は紛失されたとされているが、その一方で帝国の危機にはどこからともなく皇帝の下へ集うとされている。今まで四本しか存在は確認されていなかったが、推測が正しければこれで全てそろったか」


「クランハルトは、お義姉さまの剣の他にも原初の五剣を見たことがあるのですか?」


「見たことがあるも何も、今持っているからな」


さも何でもないと言いたげにクランハルトは自分の剣を目で示した。


「それでは、クランハルトも戦場で拾ったのですか?」


「私は第五隊長に任命された際に皇帝陛下から下賜された。陛下曰く、セレブラントと言うらしい。ただし、一つ奇妙なことに陛下からはこれを戦場で使うように言われた。幼君だから仕方の無いことかもしれないが、わざわざ謁見の際に言われてしまっては断ることもできない」


テレキアはあらあらまあまあと表情をコロコロ変えながらクランハルトの話を聞いていた。原初の五剣はアルテーヌの眷属だとされているし、壊してしまった時のことなど考えたくもない。けれど、帝国では剣は人を殺すことによって己の価値が高まるという価値観が根強い。戦場に出て、持ち主と共に武勲を立ててこそ、と陛下が考えたのならば、私たちはそれに従うほかない。


『確か、少佐の太刀も陛下から下賜されたものでしたよね?もしかして、アレも原初の五剣の一本だったりするのですか?』


『私は陛下よりお前にピッタリな剣があると言われたが、その時は不敬にならないよう取り繕うので精いっぱいで何が何だかわからぬまま貰った。もしかしたら原初の五剣なのかもしれないが、今となっては分からない』


少佐は分からないと言っているが、第五隊長のクランハルトにも渡しているのだからどう考えても少佐の太刀も原初の五剣の一本なのだろう。そう考えると一本足りないが、剣以外の武器を使う人がいるのだろう。だから第五隊長のクランハルトにまで剣が回ってきた。そう考えるのが妥当だ。


「建国神話では、初代皇帝が従者である五つの家、今では原初の五大貴族と言われていますが、元々の五大貴族に原初の五剣を授けたとあります。それで、ここからはこじつけになるかもしれませんが…」


テレキアは少し逡巡するが、すぐに決心したようで、眉の角度を上げてこちらを見る。


「かつてケトゥーヴァを任された家は、リーベ家でした。そして、今こうして本来の持ち主の元へと戻ってきた。これは、何か、お義姉さまが特別な存在ではないのかとつい思ってしまったのです」


テレキアが言うには、リーベ家は建国当初から続く帝国貴族の中でも最古の家で、当初の他の五大貴族が裏切りや派閥争いで歴史の中に消えていく中、常に皇帝家に忠義を尽くしてきたらしい。なんで分家のテレキアが知っていて、本家の私が今まで知らなかったのかは分かりませんが、とにかくそのことは事実であるそうだ。


「それで、お義姉さまはこれからどうするつもりですか?」


「しばらくはここで大人しくしていようと思います。お父様がこの館に私を生活させようとしているということは、つまり、お父様は私の動向を把握しているということですので」


お父様は今日もどこかで何か良からぬ企みをしていることに間違いはない。ならば、あちらから連絡が来るまで余計な動きをするべきではないだろう。…後でお父様にお前は察しが悪いと言われるのは御免ですからね。


テレキアは私の返答が大層うれしかったようで、両手を合わせて満面の笑みを浮かべた。


「彫琢品を大至急用意したのが無駄になるのではないかとヒヤヒヤしていましたが、お義姉さまのお気遣いに感謝します。それと、お部屋は三つで大丈夫ですか?その、まさか男の貴族の方がご一緒だとは思ってもいなくて…」


テレキアは気まずそうにクランハルトの方を見る。恐らく、男性の貴族用の部屋は用意していなかったのだろう。彫琢品を急いで用意していたみたいだし、今回のテレキアに非はないが、どうして用意していなかったと言われてしまえばそれは貴族の間ではテレキアが悪いことになってしまう。


「私は招待された身ではないからな。司令部にも顔を出したいし、これでお暇させてもらおう」


クランハルトはひとつ間をおいて気の利いた返事をした。そして一度少佐と視線を合わせると、私の方に視線を下げた。


「アレクト様、私はこれにて」


「ええ、今まで私に同行してくださり、感謝しています」


儚げな態度のクランハルトに少しだけドキッとしながら、貴族らしいゆったりとした態度で今までの働きに感謝する。


「これからも、帝国の為に頑張りましょうね」


「…勿論でございます」


締めの挨拶が複数の意味に聞こえるのは、私とクランハルトが、それぞれ奇妙な境遇であることをより実感させた。

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